声優
水島 裕が声優人生を振り返り、今思うこと丨芝居において“教科書通り”が全てではない

「自分自身の感性に鈍くならないこと。お芝居において“教科書通り”が全てではないんです」 81ACTOR'S STUDIOキッズクラス 代表講師・水島 裕さんが声優人生を振り返って、今思うこと。

斉藤由貴さんとの掛け合いで得た気づき

──“演じる”ということを意識されたのはいつぐらいだったんでしょうか?

水島:どうだろうなぁ……。毎週日曜日に劇団若草で演技、演技基礎、洋舞、日舞、歌とを習っていましたが、当時はもうひとつ遊び場が増えたような感覚でした。必死になって習い事をするような感覚ではなくて。洋舞はタイツを履くのが恥ずかしかったですし、日舞での着物の着方が分からなくて、先輩の音無美紀子さんに手伝ってもらったこともありました。

ターニングポイントとなったのは、『愛の戦士レインボーマン』(1972年~)の主題歌「行けレインボーマン」を歌ったときでしょうか。16歳のときです。今より声が低く、下手なんですが、今はあの魅力は出せないなと思っています。変な話なんですけど、上手い、下手じゃない“何か”って大切なんだと今はつくづく思います。

その後、20歳を超えたときに、斉藤由貴さんとふたりでラジオドラマを収録したんです。斉藤由貴さんはミスマガジンから出てきた方なんですが、リハーサルでの斉藤さんのお芝居がすごく素敵だったんです。お芝居……というか、セリフそのものが。

──どのようなところに魅力を感じられたのでしょうか?

水島:要は教科書通りじゃないセリフをおっしゃるんですよ。「わあ、こういう表現の仕方もあるんだ」と衝撃を受けました。でもその時のディレクターの方が、ものすごくちゃんとされた方で、賞にも出す作品ということもあって気合いが入っていたんです。それで斉藤さんにダメ出しをされたのですが、それは僕も予想できた演技論だったんですね。

正直、もったいないなと。こんなにもナチュラルで面白いセリフを斉藤さんが言ってるのに、僕が予想できるようなセリフに変わってしまうなんて、残念だなと思っていました。ただ、斉藤さんはまだ高校を卒業したばかりでしたし、そのディレクション通りにはできなかったんですね。僕も斉藤さんも忙しいタイミングだったので、時間がなく、結果的に斉藤さんの感性が活きたセリフで収録が終わって。後日、素晴らしい賞を受賞しました。

そのときに、教科書通りに演じることが全てじゃないんだなと思ったんです。もちろん演技論を習うことも大切です。特に声の世界では、瞬時にディレクションに応えなければいけません。だから基礎的なことは不可欠ではありますが、魅力的なセリフを言うためには本人の感性が大事なんだなと。

今振り返っても、斉藤さんと掛け合いができたことは大きかったです。

──その感性は、どうやって育てていけばいいものなのでしょうか。

水島:鈍くならないことです。ここまでやってくる中で、悩むこと、時には行き詰まることもありました。煮詰まったときに頼りにさせていただいているのが、さだまさしさんです。30年前くらいに、さださんに相談事をしたとき「裕、今お前は鈍くなってるから。好奇心のアンテナを張って、いろいろなものを感じるようにしてごらん。そしたら感じる力が噛み合ってくるんじゃないの?」と教えてくれたんです。

忙しい時って感性の歯車の歯が摩耗してくるんですよね。逆に暇なときもそういうことが起きます。で、だんだん噛み合わなくなって感情が上滑りしていく。うれしくもなければ、悲しくもなくて。そういう状態だと、物事を感じづらくなって、表現しにくくなる。それをさださんが教えてくれました。

──素晴らしいお話です。

水島:それこそよく子どもたちにも話すんですが……うれしいときに涙がぽろっと溢れることがあるし、悲しすぎてニコッとしてしまうこともある。「うれしいから笑う、悲しいから涙が出る、僕たちはそれだけじゃないよね」っていう話をしています。お芝居をするには、その感性が大切なんですよね。それに気づけたのはさださんや斉藤さんのおかげです。

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