僕は“別に”という言葉は使わないほうがいいよ、と子どもたちに言っているんです――81ACTOR'S STUDIOキッズクラス代表講師・水島 裕さんが子どもたちに伝えたい、自分だけの個性と魅力
声にまつわるトータルマネージメントを行う81プロデュースが、新たに小学生を対象とした81ACTOR’S STUDIOキッズクラス【81キッズ】を開講しました。
【81キッズ】の入所対象は小学生。「『感じるチカラ』と『伝えるチカラ』を育てる」をテーマとしたレッスンを展開しています。81プロデュース所属の個性豊かな俳優陣が、子どもたちの想像力、創造力、表現力、読解力、コミュニケーションスキルを育てるカリキュラムを担当。現在は1期生が受講しており、中途入所生を受付中です。
【81キッズ】の代表講師を務めるのは水島 裕さんです。水島さん自身の声優人生を振り返りながら、なぜ子どもたちに教えたいと思うようになったのか、そして子どもたちにどんなことを伝えていきたいかなど、前後編に渡り紐解いていきます。
インタビュー後編では、【81キッズ】のレッスンの内容、水島さんの抱く展望などを教えてもらいました。
インタビュー前編
子どもたちにとってチャンスがたくさんある時代
――水島さんは「キッズ声優養成プロジェクト」を行ったり、近年ですと「SUN AUDITION」『声優魂』のオーディションの審査員にも参加されたりと、積極的に後進を育成されているイメージです。後進育成に目を向けられたのはいつぐらいなのでしょうか。
水島 裕さん(以下、水島):10年ちょっと前ですね。でも正直に言うと“後進を育てる”という意識ではなくて、“子どもに伝えたいと思っていた”というほうが正しいです。というのも僕は以前から子どものセリフの威力、無敵さに魅力を感じていましたから。
――子どものセリフの威力ですか?
水島:なんていうんでしょうか。“不思議な魅力”があるんですよ。そしてその声が今、この世界で求められていると感じています。
――子どもたちの声が今、求められている理由についてはどう分析されていますか?
水島:この業界が子どもの声を求めているというのは肌で感じていました。実際に、大手の映画会社が「子どもの役は子どもの声で吹き替えようと思っている」という話をされていたと聞いたことがあります。特に洋画関係は、子どもが吹き替えたほうがナチュラルに思えるんだと思うんですよね。それは良い悪い、上手い下手の話ではなくて。
技術で言ったら大人のほうが絶対に巧いですし、例えば『ワンピース』や『ドラゴンボール』、『鉄腕アトム』などは子どもが演じられないと思います。
――その違いはなんなのでしょうか?
水島:その理由は……明言するのは難しいのですが、時代劇と現代劇の違いに近いような気がします。時代劇って子どもが主役を演じるのは難しいと思うんです。要はナチュラルさ、プラスアルファの歴史の知識や、殺陣の型、所作などを求められますから。でもナチュラルな現代劇であれば、子どものセリフの魅力を発揮することができることもある。だから僕も、13歳で(映画『くまのプーさん』の)クリストファー・ロビンのオファーがあったんだと思います。
また、これまでは子どものキャラクターの吹き替えは、児童劇団の子どもたちが担当することが多かった印象があります。でも劇団にいた自分自身の経験を振り返ったときに……あくまで自分自身の経験ではありますが、中には天才肌の人もいるんですけども、僕の時代は優等生的な演技をする子が多いように感じていました。
――それは感性でお芝居するというよりも……。
水島:「悲しいから泣いてみようか」「嬉しいから“やったねー!”って言ってみようか」と教えられている子どもと言いますか。でもさきほども話した通り、感情ってそれだけじゃないんですよね。
声優という仕事をしていく中で、子どもならではの“不思議な魅力”を出せる子って世に出ていないだけできっといるよな、と思っていたんです。繰り返しになりますが、その“不思議な魅力”というのは、上手い下手ではないんですよね。実際、僕が子どもにレッスンしている時も「演技を上手くなろうね」とは一切口にしたことはありません。
これは子どもたちにもよく言うのですが……(インタビュアーに向かって)逆井さん、好きな歌手っていますか?
――好きな歌手ですか?
水島:そう。それぞれに好きな歌手っていると思うんですけど、その理由を考えると、歌が巧いからとかではなくないですか?
――そうですね。
水島:もちろん突出して巧い方であればそれも理由になるとは思うんですけど、それよりも、その歌に込められた想いだったり、その人だけの唯一無二の魅力だったりに惹かれるものだと思うんですよね。
声優も同じなんです。巧いよりも大切なことってあるよなと。だから「上手くなってください」とは口にしていないです。技術はもちろん大切です。でも技術よりも、その人にしかないものを探すほうが大切だなと僕は思っています。
――子ども時代だからこそある柔らかで豊かな感性と表現を、壊すことなく育てていくことで、その人ならではの人間的な魅力を見出していくといいますか。
水島:とは言え、それを子どもの時に探すってとても難しいことです。でも、見つかればきっとこれから生きていく上でも大きな力になる。声優養成所ではありますけど、声優としてだけではない、人間性の部分で、その子どものプラスになることを【81キッズ】では伝えられたらと思っています。