『江戸前エルフ』安齋剛文監督インタビュー|小糸とエルダは親密ではあるけれど、あくまでも“巫女”と“御祭神”の距離感
400年以上の歴史を持つ高耳(たかみみ)神社を舞台に、ご神体のエルフ・エルダとその巫女・小金井小糸のふれあいが描かれていくTVアニメ『江戸前エルフ』。アニメイトタイムズでは、本作を盛り上げるリレーインタビュー企画を連載中です!
連載第5回は、本作の監督を務める安齋剛文さんが登場。エルダと小糸の会話劇といったコメディ要素と、エルフと人間の寿命の違い、小糸の母親などのシリアス要素をどのようなバランスで描こうとしたのか。キャラクターの魅力やオープニング映像のお話と併せて、たっぷり語っていただきました。
エルダの生き方に共感
――『江戸前エルフ』が好評を得ていますが、監督ご自身の手応えはいかがですか?
安齋剛文さん(以下、安齋):反応が気になってたまにTwitterを見てしまうんですが(笑)、多くの方に楽しんでいただけているみたいでホッとしています。ただ、あくまでも一部の意見としてとらえて、あまり一喜一憂しないようにしています。
――どんなところが人気の要因になったと思いますか?
安齋:エルダに共感する方が結構いらっしゃるんじゃないかなと思っています。出会いと別れを繰り返してきたエルダは、別れがつらいから出会いたくない、深入りしたくないといって、人を避けるようになりました。傷つくのも嫌だし、傷つけるのも嫌だ。それならば一人を選んで、自分の趣味に没頭したほうがいい、と。
そう考える方は少なからずいると思いますし、僕自身もそういう時期があったので、すごく共感できました。でも仕事や学校はあるし、ストレスと向き合って精一杯生きていかなければならない。そういう方の夢をエルダが叶えてくれているのかなと思いました。
――確かにエルダのように引きこもって、オタク趣味に没頭したい気持ちは本当によくわかります。
安齋:オタク趣味という点でいえば、僕も原作の樋口(彰彦)先生と同じ世代なので、世代的なテーマやネタも理解しやすかったですね。若い人たちにどれぐらい届いているのか不安はありますが、根本的なところで価値観が共通していれば、世代の違いはそれほど関係ないのかなとも思っています。
――『江戸前エルフ』をアニメ化するうえで、監督は本作にどのような特徴があり、どのような部分を軸にされようと考えられたのでしょう?
安齋:画の特徴でいうと、最初に読ませていただいたときに線がきっちり描かれているなと感じたんです。キャラクターはもちろん、コマ割りや背景、空間の取り方がとにかく丁寧で、樋口先生は真面目で几帳面な方なのかなと想像していました。ところが、表紙のカラーイラストと漫画本編の線画に、少しギャップを感じまして。
――ギャップ、ですか。
安齋:漫画本編の線画はコントラスト強めな画作りなのに対して、表紙のカラーイラストはふんわり柔らかい印象がしたんです。それで先生にご挨拶したときにこの件を相談したら、あまり表紙の色味は気にしなくても大丈夫です、と。それで合点がいって、アニメも漫画本編のような、くっきりした画面づくりを目指しました。
――ちなみに樋口先生の印象はいかがでしたか?
安齋:漫画を読んだときと同じで、真面目で誠実な方でしたね。自分の予想が当たっていた気がして嬉しかったです(笑)。
――(笑)。では、シリーズ構成のヤスカワショウゴさんとは構成についてどんな話し合いがあったのでしょうか?
安齋:ヤスカワさんがまず叩き台を作ってみますという感じで最初に構成を考えてくださったんですが、もうほとんど何も言うことがない仕上がりでした。
――そうだったんですね。
安齋:アニメは3話に1回、第3、6、9話のBパートにシリアスめのエピソードが入るようになっています。この「コメディ、コメディ、シリアス」という構成もヤスカワさんのアイデアです。各話のシナリオにおいても、原作の流れを踏襲しつつ、部分的にエピソードを組み替えたり、さりげなくセリフが足されたりして、違和感なく面白く仕上げている。素晴らしいと思いました。
樋口先生もどこが書き足したところかわからないとおっしゃったくらい、まったく違和感のない構成とシナリオで、絵コンテもするする描けました。もうシナリオ通りに描き進めれば間違いないという感じで、本当に何も言うことがなかったです。
――コメディと人情ドラマのバランスが素晴らしいなと感じました。
安齋:コメディというのは、シリアスなところがないと笑えないのかなと思っています。コメディだけだったらコメディにならない。もともと原作のバランス感覚がすごいのは勿論ですが、それを全12話、1話20数分のアニメとして組み直したヤスカワさんの力が大きいと思います。