声優・KENNが声の仕事を意識したのは”サクラ大戦”をプレイした時ーーギターとゲームに夢中だった学生時代から『遊戯王』で声優に挑戦するまでを振り返る【人生における3つの分岐点】
プロのバンドは「運命共同体」
――その先も、音楽の道を目指すこと自体は、途切れず?
KENN:そうですね。ギタリストへの道は諦めてしまったんですけど、小学校の頃、合唱団に入っていたなと思い出したんです。「自分は音楽の何が好きなんだろう?」とあらためて考えたときに、「歌かな」と。
そこからボーカリストを目指し始めました。あと、小さい頃にピアノも習っていたので、副科でキーボードも練習し始めたんです。
で、専門学校を卒業してから1年くらい、いろいろなバイトをしつつ個人でバンド活動もやっていたら、専門学校の学園長にオーディションの話をいただきました。それがThe NaB’sとしてのデビューに繋がるオーディションでした。
――テレビ番組と連動したオーディションだったとか。
KENN:Leadさん、FLAMEさん、それからThe NaB’sの3つのグループが出演していた、テレビ東京の『ピカピカプリンス』というバラエティ番組の企画ですね。もともとメジャーデビューしているThe NaB’sに、「パワーアッププロジェクト」として新メンバーが入る企画で、それに参加させていただいたんです。
視聴者のみなさんからの投票数が一定数を越えたら加入できます……みたいな企画で、無事に新メンバーに入ることができたのが、僕のキャリアのスタート。もし受かっていなかったら、今、全然違う道を歩んでいたかもしれないです。
――The NaB’sとして過ごした日々は、今振り返るといかがでしたか?
KENN:今にして思えば、やはり最初は戸惑いがありましたね。
音楽は好きで、僕なりに、素人なりに音楽の道を歩んではいたんですが、プロとしての音楽の道、それもバラエティ番組への出演もある環境は、それまで自分がいた環境とは全然違いました。
「良い・悪い」の問題ではなく、ただただ、それまでと全然変わってしまったから、戸惑ったんですよね。
――具体的には、どんなところが違ったのでしょう?
KENN:メジャーデビューしているバンドにあとから加入するということは、既にある持ち歌を全曲覚える必要もあれば、仲間と打ち解けるための努力も必要になる。まずはそうしたプレッシャーですね。友達同士で集まってバンドを組んでいるのとは、まったく違いました。
――ああ、なるほど……。
KENN:ただ、そんな心配をしていたものの、始めてみたら、バンドの仲はすごく良かったんですけどね。専門学校の同期もいたし、「まったく知らないやつらが集められました」という状態ではなかったんです。全員すごく若かったのもあって、打ち解けるのは早かったですね。
でも、どれだけ仲が良くても、あくまで仕事として集まっているメンバー。それが今まで感じたことのない、不思議な感覚だったんです。「プロってこういうことなんだな」と、そのとき初めて意識しました。
――当時の出来事で印象に残っていることはありますか?
KENN:もともとメインボーカルを多く担当していた子がいるところに僕が入ったことでバランスが変わってしまったりだとか、あとは音楽性の違いみたいな部分で、メンバー同士がぶつかることもあったんです。そこで衝突した相手とふたりで、腹を割って話す機会を作りました。そうしたら、わだかまりも解けて、より絆が深くなり、「一緒にもっといいものを作っていこう!」と考えられるようになりました。
なんだかドラマみたいな流れですけど、そうやって仲間たちといいものを作り上げていく、ひとつのストーリーを生み出せたことは、今でも印象に残っていますね。ホント、お互いに泣きながら、熱く語りあったんですよ。
プロでやっていくバンドって、一種の運命共同体なんです。The NaB’sでやっているときは、いつも「自分たちのいいところって、どこなんだろう?」と、みんなで考えている感じでしたね。
分岐点2:ミュージカル「テニスの王子様」オーディション合格、出演
――では、2つ目の分岐点に話題を移らせてください。
KENN:2つ目は「ミュージカルのキャストとしてのデビュー」です。
バンドでメジャー活動をしていく中で、自分の歌やライブパフォーマンスを見ていて、「表現力をもっと高めたい!」と思ったんです。「もっとエンターテイメントを勉強したい!」と。
それで「お芝居に興味があるので、そういうチャンスがあったらぜひ挑戦したい」と事務所の社長に相談したところ、持ってきてくださった案件が『テニスの王子様』のミュージカル(以下、『テニミュ』)のオーディションでした。
お芝居の経験はなかったんですけど、運良く受かることができて、今の僕に繋がる大事な作品のひとつになりましたね。
――オーディションのことは覚えていらっしゃいますか?
KENN:すごく覚えています。というのも、演技やダンスといった基本的なことの審査の後、最後にスタッフさんからの質問コーナーがあったんですね。そこでインパクトのあるやりとりがあって……。
――何があったんでしょう?
KENN:当時の僕は長髪で、メガネをかけていたんです。そうしたら演出家の方に、「キミ、ちょっとメガネを取ってもらえる? 髪も上げてみてよ」と言われたんです。
で、よくわからないまま、言われたとおりにしたら、「あー、なるほどね。ありがとう。……こんなこと言うとキミが合格みたいな感じだよね! ハハハ!」と。
これはもう、冗談だと思ったんです。
――本気なら、直球ですもんね。
KENN:でも、そのまさかで、本当に受かったわけです。しかもメガネをかけていない、短髪のキャラクター(笑)。冗談ではなく、ステージに立ったときの姿をその場でイメージされていたのかもしれませんね。
――やはり人を見るプロの判断基準はすごいですね。ちなみに、出演する前はミュージカルの知識はどのくらいあったのでしょう? お好きでご覧になられていたり?
KENN:いや、ほとんど触れたことはなかったです。だからこそ、オーディションの話をいただいたときに、怖い物知らずで「やりたい」なんて言えたんでしょうね。
――そこでTVドラマや映画の話が来ていた可能性もありますよね。
KENN:だから本当に、運というか、歯車が上手く噛み合ったんだと思います。今ではもう、『テニミュ』は2.5次元舞台の方法論を確立した作品として評価されていますけど、当時はまだ2.5次元の世界をどうやって作っていくか、模索中だったんですよね。
僕も初めてのことだらけで不安でしたが、まわりのメンバーにしても、演出家さん、振付師さんにしても、手探りなところがあったように思います。
そうした状況で、僕は一応音楽にはずっと触れていたし、人前で大きな声を出して歌うことにも、The NaB’sの活動で慣れていたので、そこが救いになりました。技術的には下手でも、セリフや歌で大きい音は出せたんです。
――とはいえミュージカルで、お芝居をしながら歌うのは、バンドで歌うのとはまた全然違ったのでは?
KENN:そうですね……最初は音楽的に発声をよくすること、「子音を立てる」とか「メロディをぶつける」とか、そういうことを意識していたんです。
でもミュージカルって、歌を上手く聴かせるために歌うのではなく、セリフや感情がたまたまメロディに乗っかって歌になっている……みたいなイメージなんですよね。
「歌は語れ、セリフは歌え」という言葉もあって、ミュージカルの現場では単独の楽曲のように歌い上げすぎると何か違ってしまうし、セリフもいかにもセリフとして読んでしまうとまた違う。そういうことを体感したんです。 ただカッコよく歌を届けるのではない、違うアプローチも必要なんだと、『テニミュ』を通じて学びましたね。
――大きな気付きがあったんですね。
KENN:それでいうと、豊永利行さん【※】との出会いは大きかったです。年齢的には僕より少し年下ですけど、業界では先輩。歳が近いこともあって仲良くなり、いろいろと話をする中で、「ミュージカルのお芝居として歌うとは、どういうことなのか?」を、豊永さんからたくさん教わりました。そのとき教わったことが、今でも深く心に残っていますね。
※豊永利行……「ドラゴンクエスト ダイの大冒険」ポップ役、「ユーリ!!! on ICE」勝生勇利役、ほか。95年にアルゴミュージカル「Sing for You, Sing for Me.」でデビューし、『テニミュ』出演以前にもミュージカルで活動している。