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声優・KENNが学生時代から声優に挑戦するまでを振り返る

声優・KENNが声の仕事を意識したのは”サクラ大戦”をプレイした時ーーギターとゲームに夢中だった学生時代から『遊戯王』で声優に挑戦するまでを振り返る【人生における3つの分岐点】

遊城十代を演じた3年半ー新録のときは「どの時期の十代か」相談して再現した

――音響監督は『テニミュ』の作詞も手がけられている三ツ矢雄二さん。

KENN:そう、みなさんご存知のレジェンド声優で、役者の気持ちがとてもよくわかってらっしゃるので、役者によってどのようなアプローチで指示を伝えるか、やり方を使い分けてらっしゃる印象でした。

――三ツ矢さんが主人公の上杉達也役を務められた『タッチ』の現場で、キャリアの浅い日高のり子さん(ヒロイン・浅倉南役)を熱血指導されたエピソードは有名ですよね。KENNさんにもそういう指導は?

KENN:いや、僕には厳しくはなかったです。僕の感性を大事にしてくださって、自由にやらせてくださっていたと思います。

僕ではなく、僕以外の方に厳しくて、それが「やり方を使い分けて」いらっしゃると感じたところですね。

つまり、僕はそこまでのレベルに達していない、言っても咀嚼できないから、厳しくしないんだろう、と。この現場に来る前に、「他人へのダメ出しも、自分へのダメ出しだと思え」と僕は教わっていたので、そういうことだと理解して、他の方への指導もなるべくメモをとるようにしていました。

――でもその、失礼な言い方かもしれませんが、『遊☆戯☆王デュエルモンスターズGX』の1話を今観ても、たしかに初々しくはあるのですが、大きな違和感はない芝居をされてらっしゃるように感じました。

KENN:いやー、今観たら下手だなって、自分では思いますけどね(笑)。でもたしかに、その年代でしか出せない初々しさはあったので、そういうところを現場では買ってくれていたのかなと思います。

ただ、今でも悔しいのが、カードを拾って息を吹きかけ、砂埃みたいな汚れを取るシーンで、上手に息を吹くことができなかったんです。何回も挑戦させていただきましたが、結局、完成した映像ではほとんど音声が乗ってないんです。「今なら違うアプローチをするのになあ!」と、観返すたびに悔しくなりますね。

――ときどき観返されるんですか?

KENN:気まぐれにですけど、たまに初心に返ろうと思って、観ますね。

あと『遊戯王 デュエルリンクス』というスマホゲームの新録ボイスで、久しぶりに遊城十代を演じる機会があったんです。『遊☆戯☆王デュエルモンスターズGX』は3年半続いたTVアニメで、その中で遊城十代も成長したり、変化があったんですよね。

その為、どのくらいの時間軸の遊城十代かにより演技のアプローチが変わるので、新録するときにはスタッフさんと相談するんです。「今日は2.5年目くらいで」とか「キャラクタービジュアルは1年目だけど2年目で」とか。そのときに、なるべく客観的な形で再現するために、観返したりもしました。

そうやってこだわらせていただくの、楽しいんですよね。

――『遊☆戯☆王デュエルモンスターズGX』に出演した3年半の中で、特に思い出深いことというと、何になりますか?

KENN:2つ目の分岐点とも関連してくるのですが、『遊☆戯☆王デュエルモンスターズGX』の現場に行きながら舞台の稽古をしていて、あばらの骨を折ってしまったんです。

骨は折れているけどドクターストップは掛かっておらず、できるだけ安静にしてね……という状況でしたが、アフレコ中はそうもいかないので、大きな声を出すじゃないですか。

またタイミングの悪いことに、ちょうど物語の中で、遊城十代がかなりシリアスに追い込まれているシーンで結構な声量で叫ばなければならず、あばらの骨が本当に痛くて。でも、結果的にその痛みで絞り出すように出したセリフが褒められたんです(笑)。

――まさに怪我の功名ですね。

KENN:そうなんです(笑)。でも、そのときはいい結果につながりましたけど、アフレコに限らず、何をやるにしても、自分が体調を崩したり、怪我をしたりして、自分の仕事を合格ラインに持っていけないと悲しむ人がいることを、そこで意識したんですよね。

誰かが待ってくれていたり、時間を割いて見に来てくれたり、そういうエンターテインメントに関わっているんだから、より一層、責任感を持って役やお仕事に向き合わないとダメだな……とその瞬間に感じました。

とはいえ気を付けていても怪我をしたり、病気をしたりするときはあるので、気負いすぎると逆にそれで自分が潰れてしまう。だからそこまで自分を追い込まないようにしつつ、でも、自分がそういう世界でお仕事をしていることに対しては、きちんと責任を持たなければいけないと、初めて感じたのはこの作品に出演していたときでしたね。

「いつかコーヒー屋さんをやってみたい」

――そんな3つの分岐点を経たKENNさんが、今、人生において大切にされているものって、どんなことでしょうか?

KENN:「調子に乗らない」ですね。僕は調子に乗ると転ぶタイプなんです。サボり癖があるというか、自分に甘いので。ファンのみなさんだとか、お仕事で関わらせていただいた方々には、あまり甘くない印象を持っていただけているようですが……。

――今日お話をうかがっていても、勝手にストイックな印象を持ってしまっていました。

KENN:自分に甘いからこそ、仕事のときはこだわるんです。プライベートだったらサボってしまいたくなること、「これくらいでいいだろ」で済ませたくなることも、仕事においてはこだわったり、努力したりできる。

自分が納得できる仕事をしつつ、クライアントさんにも納得してもらえて、届いたときにはファンのみなさんにも喜んでもらえる。そこをいつも目指したいんですよね。お仕事をさせてもらえていることが、本当にありがたいです。

自分の場合、調子に乗ると、いままでこだわっていた部分にもこだわらなくなってしまいそうなんです。調子に乗ることで、いい波に乗れる人もいるんですけどね。僕は根拠のない自信や、驕りみたいなものが出るとよくないので、気をつけています。

――自分を追い詰め過ぎるのもよくないけれど……と。

KENN:そう。自分を卑下したり、謙虚になりすぎたりするとマイナスになるので、バランスが大事ですよね。

――そんなお話からの流れでうかがうのは少し気が引けますが、野望はありますか? 将来的に、こんなことができたらいいなと思うことは。

KENN:おかげさまで本当にいろんなお仕事や表現をさせてもらえていて、夢も叶っているので……最近は「変わらないためにはどうすればいいかな」と考えることが増えていますね。体力的にも、人間はどうしたって年老いていくので、自分のコンディションを保っていくにはどうしたらいいか。エイジングによって声やお芝居が、自分の中でどう熟成していくのかにも向き合いたい。そんな感じで、あとは……いつかコーヒー屋さんをやりたいな、くらいですね(笑)。

――わ、そうなんですか。

KENN:いきなり関係ない話ですみません。

――いえいえ、面白いです。コーヒー屋さんとは。

KENN:バイトをたくさんやっていたころ、接客の仕事が多かったんです。店員さんとして、「自分を装う」じゃないですけど、何かになりきるのが好きだったんですよね。

特に純喫茶でバイトをしていたとき……ちょっとお上品なお店で、赤絨毯が敷かれ、金の置物などもあるようなところで、蝶ネクタイをつけて、ベストを着て働いていたんです。そうやって形から入ることで、ちょっと上品な自分になれた気がしていました。接客態度も、普段の自分とは違っていたと思います。

そんな変身ができる感覚は、どこかお芝居にも通ずるところがあって、そのバイトで接客とコーヒーが好きになりました。

機会があればいずれ、そういうのもやってみたいなと思っています。ありがたいことに、今、声優はなんでもありですから。型にはまらずいろんなお仕事をしている人が多いので、いろんなことに挑戦しやすいですよね。


今年1月にInstagramを開設したKENNさん。出演情報などの告知だけでなく、好きなゲームやお酒、料理についても頻繁に投稿してくれるため、ファンにとってはさらにKENNさんを身近に感じられるようになり、嬉しい日々だろう。

今回のインタビューでも、キャリア開始当初「もっと表現力を身に着けたい!」と臆することなくさまざまな分野に飛び込んだハングリーさを感じられるお話のあいまに、ところどころ音楽やゲームとの大切な思い出が伺える場面があった。ストイックな仕事スタンスを確立し、第一線で活躍する人気声優になるまでには当然さまざまな苦労があったことだろう。その一方で、好きなことを追及する楽しさを感じたこともあったのではないか……と感じさせてくれる話しぶりだった。

さまざまな挑戦の結果、ニコニコ生放送「阿部敦とKENNの今日はべっけんです!!」で大好きなウィスキーを作るところまで到達してしまったKENNさん。これからもファンをさまざまなものに出会わせてくれるに違いない。

取材・文/前田久(前Q)
編集/朝倉有希
撮影/金澤正平


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