『江戸前エルフ』原作・樋口彰彦先生インタビュー│「何がなんでもお客さんに笑って帰ってもらう」がテーマの1つなんです
いよいよ最終回を迎える、TVアニメ『江戸前エルフ』。3ヶ月にわたってお送りしてきた、このリレー連載も最終回ということで、原作の樋口彰彦先生にお越しいただきました。
本作がアニメ化されるうえで先生が大事にしたところやキャラクターを描く際のこだわり、そしてキャスト陣のお芝居についてなど、アニメへの思いをたっぷり伺ったほか、最終回の見どころについても語っていただきました。
「何がなんでもお客さんに笑って帰ってもらう」がテーマの1つなんです
――いよいよアニメも最終回を迎えます。ここまでご覧になっての感想はいかがですか?
樋口彰彦さん(以下、樋口):スタッフの皆さんに丁寧に作っていただいたなと感謝の気持ちでいっぱいです。多くの方に関わっていただき、皆さんがそれぞれのお仕事をしっかりこなされ、それをリレーしていただいているのが伝わってきました。あまり派手な原作ではないのに、アニメが多くの方に愛されているのはそういう部分なのかなと思います。
――最初にアニメ化のお話があったときは、どのような心境でしたか?
樋口:これで連載が続けられるぞと、本当にそう思いました(笑)。
――(笑)。
樋口:第4巻が出たくらいの頃だったので、そのタイミングでお話がいただけてありがたかったです。
――舞い上がったりはしませんでしたか?
樋口:最初は「よし連載を続けられるぞ」と思いましたが、「やっぱりナシになりました」みたいなこともあると聞くので(笑)、あまりうかれないようにしていました。担当編集から連絡をいただいたときも、「信じていませんね」と言われたくらいです。
――なかなか信じられなかったんですね(笑)。
樋口:ええ、放映されるまでいまいち信じ切れませんでした。
――もともとアニメ化への憧れはあったのでしょうか?
樋口:デビューしたての頃は絶対にアニメ化してやると思うことはありましたが、漫画家を続けるうちにそれよりも手元のことをしっかりやろうと考えるようになりました。アニメ化しやすいものを作ろうとするのではなく、自分が本当に好きなことをやる。そういう気持ちで描き続けてきたらお話をいただけたので、わからないものだなと思いました。
――アニメスタッフとの顔合わせではどのような話し合いがありましたか?
樋口:日活の吉武(真太郎)プロデューサーが、「せっかくこの作品が好きな人が集まったので、やりたいことを話し合いましょう」とお話しされていたのが印象的でした。
吉武真太郎さん:どうしても顔合わせってお互い緊張してしまうもので、言いたいことも言えないまま変に気を使って、「よき感じに」と進んでいくことがあるんですね。そうすると途中でそれぞれのやりたいことが噴出して中途半端にぶつかることがある。なので、ここにいる全員が作品のファンなのだから最初にちゃんとやりたいことを伝えましょうというお話をさせていただきました。
――そうだったんですね。アニメの制作サイドからはどんなご提案があったのでしょうか?
樋口:エピソードの前後を入れ替えたり、小ネタを追加したりするのは大丈夫ですかというお話をいただきました。それは、僕もコミカライズや脚本をベースにした漫画化など、メディアミックスをいくつかやらせていただいたことがあるので、着地点が一緒ならいじっていただいて大丈夫ですとお伝えしました。ある作品を違うメディアで表現するときはなぞるだけではダメで、翻訳に近い作業が必要になると思うんです。
――シナリオ会議には参加されたのでしょうか?
樋口:リモートという形でほぼすべて参加させていただきました。ただヤスカワ(ショウゴ)さんのシナリオが最初から完璧に近いものだったのと、安齋(剛文)監督も作品のことをしっかり把握されていたので、こちらからは何も言うことがありませんでした。
――何かチェックする際に大事にしたことはありましたか?
樋口:絵コンテの段階ですが、どれぐらいデフォルメの絵が入るかですね。全編シリアスな表情にしてしまうと作品の印象が変わってしまうので、漫画にあるデフォルメをどの程度、どのタイミングで使うのか。あるいは使わないのか。そこだけは確認したいなと思っていました。ただ、全然問題なかったです。
――やはりコメディ感は大事にされたかったのでしょうか?
樋口:そうですね。『江戸前エルフ』は何がなんでもお客さんに笑って帰ってもらうというのがテーマの1つとしてあるので。
――安齋監督にも伺ったのですが、よりドラマチック、ウェットな方向に振ることもできる作品ですよね。でも決してそうはせず、楽しく、温かい感じで終わるのがすごくいいなと思って。
樋口:ありがとうございます。そういう部分は常に意識するようにしています。アニメに関してもヤスカワさんの構成、安齋監督の絵コンテが完璧だったので、すごくありがたかったです。何をやりたいのか、何を見せたいのかがひと目でわかる絵コンテだったので、安齋監督にはいつか漫画も描いてみてほしいと思いました。
――キャラクターデザインについては、先生のほうから何かリクエストされたことはありますか?
樋口:小田(武士)さんのキャラクターデザインが素晴らしかったので、ほとんどありませんでした。1回か2回、エルダに関してお伝えしたことはありましたが、 本当に小田さんのエルダは美人だと思っています。
――どのようなことをお話しされたのでしょう?
樋口:最初はエルダがもう少ししゃんとしていたんです。目立たないように居心地が悪そうにしているのがエルダなので(笑)、気持ち猫背にしていただきました。漫画でもなるべく胸を張らず前かがみ、手はどこに置いていいのかわからない、という姿勢にしています。
――でも、エルダは所作や雰囲気は上品ですよね。
樋口:そうですね。「人や物に対して感謝の気持ちがあるから綺麗な所作を心掛けるけど、同じくらいダラダラするのが好きな人」なんです。そのほうが面白いかなと思って。
――小糸についてはいかがでしょうか?
樋口:小糸も所作を気にしました。例えば襖の開け閉めなど、小糸は細かく教えられてきたと思うんですね。アニメは襖の開け閉めにもカットを使ってくださって、これは漫画ではできないなと感動しました。