コミカルな表情でも「自然に演じてください」──アニメらしくではなく自然な演技をお願いした意図とは? アニメ『山田くんとLv999の恋をする』浅香守生監督インタビュー
ましろ先生による漫画『山田くんとLv999の恋をする』を原作としたTVアニメが、ついに最終回を迎えました。両想いになり、胸キュン必至の告白を経て、ついに想いを通じあわせた山田と茜。
今回アニメイトタイムズでは最終回放送を記念し、監督の浅香守生さんのインタビューをお届け! 初期の打ち合わせでは、山田と茜は付き合わずにラストを迎える構想を考えていたという衝撃の制作秘話も飛び出しました。
現実世界とゲーム世界のギャップや自然に演じるからこそ生まれるコメディ感など、もう一度アニメが見たくなるお話が盛りだくさんです。
実は付き合うまでをアニメ化しない予定だった!?
──初めて作品を読んだ時の感想を教えてください。
浅香守生監督(以下、浅香):少女漫画ですが、テンポが良くて軽快な印象でした。実はスタッフ全員で打ち合わせをした時に、ラストで告白するかしないかで意見が違いました。
当時告白シーンは単行本化されておらず、僕は読んでいなかったので告白しない方がいいかなと。あのシーンを知った時「あんなにすごい台詞あったんだ!」と思いました。
スタッフ:打ち合わせの時、(告白を描かない派の)浅香さんは「付き合う前で終わりにしませんか?」とおっしゃっていたので、なんて説得したらいいんだろう? と思いました(笑)。
──なぜ付き合う前でラストにしようと思われたんですか?
浅香:付き合ったら緊張感が落ちてしまうので「寸止めの方が面白いんじゃないか」と思っていましたが、読んだら一発で落ちました(笑)。格好良い台詞に「山田ぁ~~~!」ってなりました(笑)。
──慌てている茜に「バレたか」というのはずるいですよね。そんなキュンとする表情はもちろんですが、コミカルな表情も登場して原作にかなり忠実に表現されている印象を受けました。
浅香:茜や瑠奈のコロコロ変わる表情は原作らしさをなるべく活かしたいと思っていました。
けれど、アニメではカメラで捉えてコミカルに見えるようにしたかったので、なるべく本人たちが真剣に見えるように絵を描いてもらったり、芝居をしてもらうようにお願いしました。本作に限りませんが、真剣に困っているからこそコミカルに見えるんです。
瑛太が喫茶店で茜たちを救う場面ではキャピキャピしていますが、桃子に話しかけられて、桃子視点になるとキリッとしたイケメンになるという。連続したカットで繋がっているのがツボで、描きながら「面白いな」と笑っちゃいました(笑)。
気がついたら、コンテを描く時にキャラクターと同じ顔をして書いていることがよくあります。絵描きさんにも多いみたいですね。
──情動伝染するんですね。
浅香:そうですね。特に演出は世界に入り込まないといけないですし、やはり同じ感情になりがちです。
──原作の魅力だけではなく、アニメならではの表現もかわいらしい本作ですが、茜がやけ酒をしたあとのシーンなどでビールが注がれるような演出はどのように生まれたのでしょうか?
浅香:なんでしょうね……。考えずに、面白いなと思いながら、その場面の印象的な点を画面効果として使っています。どうアイディアが浮かんでいるのか自分でも分かりません。
効果音をどう入れたいかを考えつつ、泥酔した茜がいるからビールの映像が浮かんできて、ビール色に画面が染まっていったり……とか連想しています。
現実世界は軽快にかわいらしく、ゲーム世界は重厚にリアル感を演出
──恋愛が進む現実世界とゲーム世界の音楽はどのようなイメージで制作されましたか?
浅香:現実世界とゲームの世界で印象が違う方がギャップが出て面白いと、音響監督の明田川(仁)さんと話しました。現実世界では軽快な打ち込み系の音楽で、ゲームの世界は重厚で生音をたくさん使った音楽にしたいなと思っていました。
──ゲーム内のキャラクターはデフォルメされていてかわいらしいのに、リアルさが加わる生音が使われているのに驚きました。
浅香:最近のゲームは壮大な世界観が多いので、リアルなゲーム感の方が良いかなと思いました。
──対する現実世界は、作品に合わせてかわいらしさを表現されているのでしょうか?
浅香:まさにその通りで、軽やかにかわいく見せたいという思いがあります。
──他に音楽面で注文されたことはありますか?
浅香:ダビングの現場では無茶な注文をすることが多いですが、音楽はキャラクターやシチュエーションありきで発注しています。最近の主流は生音っぽい音楽だとは思いますが、逆にアニメらしい音楽も良いよねと(明田川さんと)お話ししました。
──美術監督の清水(友幸)さんとはゲーム世界の設定など、どのように制作を進められましたか?
浅香:こちらも現実とゲーム内でギャップをつけたくて、現実世界は明るくしました。最終回近くは暗くなる場面もありますが、基本は光が飛んだ軽やかな世界。
あとゲームの中でSDキャラが重厚感のある街を歩いているイメージも伝えました。ヨーロッパの街並みを参考にして、清水さんにもギャップを作ってもらいました。
──いまお話しにでた重厚感のある街ですが、あのゲーム空間はどのように立体化させたのでしょうか。
浅香:主にギルドルームと街中と森がありますが、ギルドルームは部屋から出たら、高台のテラスがあるという空間を提案して、立体的な構造にしました。
絵を描く段階で、どのカメラレンズを使ってこのコマが出来ているとか、キャラクターとの距離で遠近感を出しています。基本的にはカメラ位置に気を遣っています。
──先ほども少しお話しされていましたが、浅香監督はカメラから映像を考えられているんですね。
浅香:そうですね。画面を作る際にはカメラレンズのことをよく考えます。望遠でフラットに見せるか、広角でドンッ!と強調するかとか。実際にその世界に入ったようにカメラ位置を決めます。
──どのようにカメラ位置を決めるのでしょうか。
浅香:何を見せたいかです。「この画面の流れなら上手く決めカットに繋がるな」と、場合によりますが先に決めカットを描いてから他のカットのカメラ配置を決めています。