この記事をかいた人
- 石橋悠
- 1989年福岡県生まれ。アニメとゲームと某王国とHip Hopと自炊を愛するアニメイトタイムズの中堅編集者。
ーー漠然とした質問にはなるのですが、落語のような会話のテンポや、会話の中で2人だけが理解していて「フフフ」と笑うシーンは悪役っぽい感じもあり、不思議な空気感でした。本作が持つ独特の雰囲気はどのように生まれたのでしょうか。
黒沢:私の見解ですが、原作では、楽しいシーンやふざけてるシーンがもっと長いんですよ。だけど、アニメになるとそれが要所要所には入ってくるんですけど、短くて。ちょこっとしかない中で「今だ!」っていう。ここぞとばかりに2人がふざけるという感じがあったと思うんです。八代さんはどうですか。
八代:演じるうえでは、もしかしたら楽という意味で楽しんでやったのはそこかもな、というくらい僕自身もそれが楽しかったんです。1つだけ覚えてるのは、オーディションのときに、音響監督の若林さんから笑い方というか、笑いについてのディレクションがありました。シンプルに言うと、鴉夜の横隔膜で笑えない、首から上だけで笑うのを津軽は真似ている感覚だというんです。本編が始まってからは言われてないんですけど、そのディレクションは、すごく印象に残っています。
黒沢:ミラーリングしてくれてるんだ。
八代:そう。それがなんでだろうなと考えたときに、弟子にとっては師匠が笑ってくれるのが一番嬉しいというか笑ってほしい対象で、一番身近なハードルの高いお客さんなのかなと。笑いは自分が先じゃないんですよね。先に師匠に笑ってもらったのを確認して、「面白いっすよね」って続けて笑う感覚なんだろうなと思います。そういう意味でも「師匠どうすか?」みたいな気持ちでやっているときもありました。そこまで「笑わせよう!」ということではないですけど。
黒沢:笑わせてもらってました。
ーー津軽は鴉夜にゴマをすってたんですね。
黒沢:ゴマすられてました!
一同:(笑)。
八代:ゴマすってたわけじゃないと思うんですけど(笑)。なんでしょう、あれは……多分リスペクトでしょうね。
黒沢:俳優部としても、緊張感のあるシーンがずっと続くので。2人が雑談を始めるシーンが来たときには、ちょっと開放される感じがしました。
ーーお話を伺うと、津軽にも可愛いところがあるなと思います。2人は本当に良いコンビですね。
黒沢:日本的ですよね。
ーーええ。とても合点がいきました。最後に2人が考える、「ここだけは見てほしい!」というポイントを教えていただけますでしょうか。本当に細かい部分でも大丈夫です。
黒沢:監督の手腕が本当に素晴らしくて、素敵なんです。見てほしいのが、畠山さんが絵コンテをきってくれた第1話。鴉夜が津軽を口説きに行くシーンのカット割りが、土手で生首と半鬼が喋っているだけなんですけど、あの手この手で楽しませていただきました。アートにも近いカメラワークにはぜひ注目してほしいです。
あとは、畠山さんの作品でアクションが出るのは初めてらしく、すごく丁寧に向き合ったという話をされていました。1話冒頭にある見世物小屋のシーンもそうですけど、躍動感のある場面は楽しみにしてほしいなと思います。
八代:そうですね。僕は、馳井静句というキャラクターも面白くて好きです。津軽としては、物理的にも言葉的にも暴力を振るわれて……いや、躾ですかね、あれは。この作品は色々な要素がある中でしっかりお色気もあって、そこを静句が担っていたりします。ストーリー的にそれが必要なシーンなんですけど、どういうふうに描かれているのかは気になるし。
あとは……やはりアクションですね。本作の場合、ただかっこいいという風にはならないと思っています。特に津軽は、めちゃくちゃ喋りながら戦ったり、なんなら小噺しながらアクションしたりして。「どう見たらいいのか?」という面白さがありました。手に汗握るとも違う、面白おかしく笑うわけでもないし、どっちを応援っていうわけでもない。でも、それがオシャレに映ったり、粋だったりすると、観る人の興奮を呼ぶ効果がきっとあると思います。その辺はぜひ注目していただきたいですし、僕も楽しみですね。
ーーなるほど。それでは最後に、この作品を楽しみにしてる方へ、メッセージをいただけますでしょうか。
八代:原作はもちろん、それがアニメという形で映像になった本作は、本当に『アンファル』に負けず劣らずの能力使いの方々が、映像にも、音にも、色々なところに化け物級の方々が集まっています。その能力が結集して作られていて、僕らはそこに参加させていただいている身なんですけど。僕ら自身も本当に完成した作品を観るのが、ものすごく楽しみになるアニメです。きっとたくさんアニメに触れてきた方々にも、唸っていただけるような作品だと思います。
逆にあまりアニメに触れてないとか、ミステリー作品はそんなに見てないんだよな、読んでないんだよなという方にもとっつきやすくて、「凄い!」と感嘆していただけるような、いろんな魅力を含んだ作品になっていると思います。ぜひこの作品を観ていただきたいなという強い思いでいます。
そして、会話劇という側面も多分に含んでいるので、ちょっとコントチックという劇っぽいところもあります。そういった会話遊びみたいなところも、役者としては、楽しんでいただけたら嬉しいです。
黒沢:原作の青崎有吾先生が、「アニメがミステリーとしてもすごく良い出来のものになった」というふうに、おっしゃっていました。確かに、海外ドラマなどを見慣れてるお客様には、ちょっと楽しく見てもらえる仕掛けがいっぱいある作品だなと感じました。まとめてみても楽しいし、1週1週、「来週どうなるのかしら」って皆で言いながら見るのがすごい楽しい作品なので、ぜひリアルタイムで追ってほしいなと思います。
個人的には、作品自体がちょっと皮肉めいていて、生と死という概念の境界線の揺るがし方だったり、喜劇と悲劇の境界に立つことによる揺らぎだったり、境目を白なのか黒なのか言えない、どっちの側面もある作品だと思っています。オープニングとエンディングがめちゃめちゃ今っぽい楽曲な一方で、本編が始まると、時代感に合う曲調やシックな作りになってるところも多い。私たちは、畠山監督に弄ばれ、津軽に弄ばれ……。津軽も本当はすごい量考えてるかもしれないと思うと、なんか根っこの部分を見つけていってもらうことが、観ていただく方にとっての一番の謎解きになるのかなと思います。
クリエイターたちの遊び心というか、リアルタイムで見ながら、私たちを弄んでくる感じをみんなでかわして、作品の芯にたどり着いていただけたらいいなと思っています。ぜひお楽しみください。
[インタビュー/石橋悠 写真/MoA]
1989年(平成元年)生まれ、福岡県出身。アニメとゲームと某王国とHip Hopと自炊を愛するアニメイトタイムズの中堅編集者兼ナイスガイ。アニメイトタイムズで連載中の『BL塾』の書籍版をライターの阿部裕華さんと執筆など、ジャンルを問わずに活躍中。座右の銘は「明日死ぬか、100年後に死ぬか」。好きな言葉は「俺の意見より嫁の機嫌」。
作品名 | アンデッドガール・マーダーファルス |
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放送形態 | TVアニメ |
スケジュール | 2023年7月5日(水)~2023年9月27日(水) フジテレビ「+Ultra」にて |
話数 | 全13話 |
キャスト | 輪堂鴉夜:黒沢ともよ 真打津軽:八代拓 馳井静句:小市眞琴 アニー・ケルベル:鈴代紗弓 シャーロック・ホームズ:三木眞一郎 ジョン・H・ワトソン:相沢まさき アルセーヌ・ルパン:宮野真守 ファントム:下野紘 ジェームズ・モリアーティ:横島亘 アレイスター・クロウリー:杉田智和 カーミラ:近藤玲奈 ヴィクター:山本格 ジャック:斉藤壮馬 ノラ:内田真礼 ヴェラ:花守ゆみり カーヤ:中野さいま |
スタッフ | 原作:青崎有吾「アンデッドガール・マーダーファルス」(講談社タイガ刊) 監督:畠山守 シリーズ構成:高木登 キャラクター原案:岩本ゼロゴ キャラクターデザイン・総作画監督:伊藤憲子 サブキャラクターデザイン・総作画監督:小園菜穂 音楽:yuma yamaguchi 音響監督:若林和弘 アニメーション制作:ラパントラック |
主題歌 | OP:「Crack-Crack-Crackle」CLASS:y ED:「reversal」Anna |
公開開始年&季節 | 2023夏アニメ |
電子書籍 | 『アンデッドガール・マーダーファルス』電子書籍(コミック) |