ディズニー・ピクサー最新作『マイ・エレメント』、監督を務めるピーター・ソーン氏にインタビュー|作品のテーマは"繋がり" 『AKIRA』『君の名は。』に影響を受けたポイントも語られる
ディズニー&ピクサー最新作『マイ・エレメント』が2023年8月4日(金)より全国公開されます。
本作は、「火・水・土・風のエレメントたちが暮らすエレメント・シティ」を舞台に繰り広げられる、ラブ・コメディ作品。
すぐにカッとなってしまう火の少女・エンバーが、自身とは正反対で交わることがなかったはずの水の青年・ウェイドと出会い成長し、家族や自分自身の心と向き合っていくお話です。
アニメイトタイムズでは、そんな本作の監督を務めたピーター・ソーン氏(『アーロと少年』監督)にインタビュー。
作品の見どころや、キャラクターデザイン・画作りのお話から、物語のテーマとなった監督自身の体験談、そして影響を受けた日本のアニメーション作品の話題などたっぷりと語っていただきました!
物語を創ることは、不安と恐怖との戦い
——本日はよろしくお願いします。本作を制作するきっかけはどのようなものだったんでしょうか?
ピーター・ソーン監督(以下、ピーター):この作品は、7年ほど前に私の両親と一緒にに参加した、とあるイベントがきっかけになっています。
アートについて語るイベントだったのですが、登壇して客席にいる両親の姿を見た瞬間に、凄くエモーショナルな気持ちになったんです。
ついアートの話はそっちのけで、両親に感謝を伝えていました。両親は、子供である私達がアメリカという国で生活していけるように、様々なことを犠牲にしてくれました。そういった努力や犠牲に心から感謝している、ということを伝えました。
その後、ピクサーに戻って同僚たちにその話をしていたら「ピーター、その体験を次の作品にするべきだよ」と言われたんです。
——いいお話ですね。作品を鑑賞していて、主人公であるエンバーは監督ご自身の分身のようなものなのかなと感じました。
ピーター:私のDNAが散りばめられた作品だと思うので、そう思われてもおかしくないと思います。でも、ピクサーに所属している多くのアーティストたちの心にも響くものなんです。同じような経験をされた方は沢山いますから。
実は、この物語を作ることが最初は怖かったんです。しかし、同僚たちが共感してくれたり、感想を述べてくれるので、大事に作っていきたいなと覚悟が決まりました。
——どのようなところに恐怖を感じたのでしょうか?
ピーター:パーソナルな部分を描いた作品だからです。自分の脆いところをさらけ出すことでもあります。
私は、制作中に両親を亡くしています。その事がきっかけで自分の中の思わぬ扉が開いてしまって、物語が暗い展開に進んでいた時期もありました。
そういう物語はあまり魅力的ではないかもしれないと思っていたのですが、自分の思いが作品に反映されるということは、自分自身を開くことでもある。
その闇のような部分が観客の目にどう映るのか、それが怖かった。しかし、先程も言ったように同僚たちが私に力を与えてくれました。
キャラクターの元ネタは「元素記号の周期表」
——続いてはキャラクターに関する質問です。キャラクターの属性が「火・水・土・風」の4つになった理由を聞かせてください。
ピーター:インスピレーションのひとつとして、学生時代に見た、科学の元素記号が書いてある周期表があるかなと。
表を見ていると、ニューヨークのアパート郡みたいだなと思ったんですよ。そのイメージが凄く印象的で、この企画が始まった際に両親のことや、移民の物語をテーマにするにあたって、あのアパートのイメージを使うことにしたんです。
でも、元素をキャラクターにするのは難しい部分もあったので色々考えていたのですが、たまたま火や水をドローイングしていていた際に、キャラクターが立ってくる感覚がありました。そこから今の形になっています。
——火と水は、作中でも性質や心情、人柄など丁寧に描かれていましたよね。土と風のお話ももっと見たいなと思いましたが、監督の中では、彼らも同じように細かい設定やストーリーを持っているのでしょうか?
ピーター:まず街にヒエラルキーのようなものが存在します。まず水がやってきて、土が続き、三角地帯が生まれたんです。そこに風がやってきて、最後に火がやってきた。
土に関しては沢山の島を持っていたりだとか、橋の建設を行っているだとか設定がありますし、風だとチューブを使って移動していたり、面白いシーンも沢山考えていたんですけど全部入れると3時間の映画になってしまいます(笑)。
なので、今回は火と水にフォーカスして物語を作っていきました。
——コメディシーンなどで、土や風のキャラクターは活躍していましたよね。次は彼らがメインの作品があったらまた面白いだろうなと思います!
ピーター:喜んでもらえて凄く嬉しいです。もっとたくさん絵コンテには描いていたんですよ。例えばタンポポたちのエピソードや、いつも火が付いて燃えて困っている大木が出てきたり、ネタは沢山ありました(笑)。
この作品自体が思いやりや共感力を持って、他者と繋がって生きるというテーマがあるので、いろんなキャラクターたちが出てきて、テーマを体現してくれているかなと思っています。
画作りに対するこだわり
——次は、CGやアニメーションについてのお聞きしたいのですが、火のキャラクターだけトゥーン調になっていて、その他のキャラクターは写実的な印象を受けました。その狙いはなんだったのでしょう。
ピーター:火をフォトリアルに表現しようとすると『ロード・オブ・ザ・リング』に出てくるキャラクターのような恐ろしいものになってしまったんです(笑)。
なので、火に関してはある程度カリカチュアして(誇張して)描かなければいけませんでした。まず初めにエンバーのデザインを決めてから、世界観を作っていくことにしました。やはり火と水が一番大変でしたね。
土に関してはグラフィックなデザインになっているんですけど、使用したテキスチャーはリアルものを使っています。ただ、リアルすぎるとエンバーが火を使って木を燃やす時に、世界観のズレが生じてしまったので、そのバランスが難しかったですね。
本作に影響を与えたのは『AKIRA』と『君の名は。』
——ピーター監督は日本のアニメーションについてどのような印象をお持ちですか?
ピーター:私は日本のアニメーションが大好きです。特に日本のアニメーションの幅広さに魅力を感じます。
私が子供の頃に見ていた、アメリカのアニメ作品は子供向けの作品が多かったと思います。現在は作品の幅がより広がっていますが、日本のアニメは常に先を行っていて、更に多様なストーリーテリングの手法が生まれ続けているなと感じます。
今回の作品も、ビルや建物の雰囲気や、アスペクト比など、大友克洋監督の『AKIRA』に影響を受けている部分がありますし、新海誠監督の『君の名は。』などの近年公開された作品たちもそうです。
繋がることがなかったふたりのキャラクターが、いろんなものを通して繋がっていく展開がすごく美しいですよね。
美しいエレメントたちの世界を体験してほしい
——最後に作品の公開を楽しみに待っているファンにメッセージをお願いいたします。
ピーター:『マイ・エレメント』は沢山の幅広い方々に楽しんでもらえる作品だと思っています。ご家族はもちろん、大人から子供まで沢山の方に愛を感じてもらえるように作った作品です。
大きなスクリーンで鑑賞した際に、美しいと思っていただけるような画作りを心がけたので、ぜひ映画館で体験していただけたら嬉しいです。
『マイ・エレメント』作品概要
あらすじ
ある日偶然、自分とは正反対で自由な心を持つ水の青年〈ウェイド〉と出会う。
ウェイドと一緒に初めて世界の広さに触れたエンバーは、ふと自分の新たな可能性を考え始める――私の本当にやりたいことって…?
火の世界の外へひそかな憧れを抱くエンバーだが、この街のルールは、“違うエレメントと関わらない”ことだった…。
正反対のふたりの出会いは“エレメントの世界”にどんな化学反応を起こすのか?
キャスト
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