原作のアレンジと90年代アニメのオマージュを融合した劇場版「美少女戦士セーラームーンCosmos」監督&プロデューサーが約3年の制作秘話を語る|「美少女戦士セーラームーン」を愛するスタッフ陣が同じ方向へと突き進んでーー
2023年6月9日(金)から≪前編≫、6月30日(金)から≪後編≫が公開中の劇場版「美少女戦士セーラームーンCosmos」。シリーズ最終章となる<シャドウ・ギャラクティカ>編を描く本作で、エターナルセーラームーンは宇宙の未来を決める重大な選択を迫られます。
本稿では、髙橋知也監督、講談社プロデューサーの五味秀晴さん、東映アニメーションプロデューサーの髙野星来さんのスタッフ陣インタビューをお届け!
今回は、約3年間にも及ぶ長期の制作秘話や「美少女戦士セーラームーン」の魅力、後編のもう一度見てほしいシーンなどについてを語っていただきました。
オープニングの大反響に驚きと感謝
ーー前編の公開記念舞台挨拶が終わったばかり(インタビュー当時)ですが、生でファンの反響を受けていかがですか?
髙橋知也監督(以下、髙橋):身近な人や連絡が途絶えていた人から「舞台挨拶、応募したけど外れたよ」とか「映画観にいくね」というメッセージがたくさん届きました(笑)。
作品は観てくださった方のものだと思っているので、あまり反応は積極的には見ないようにしていますが、オープニングの反響には驚きました、こんなに大きな反響をいただけるとは思っていなかったので……。
ーー90年代アニメのオープニングである「ムーンライト伝説」をセーラー5戦士が歌っていて、映像も90年代アニメをオマージュしていて、ファンにとってはたまらない始まり方でした。
髙橋:最初から「ムーンライト伝説」と「セーラースターソング(「セーラースターズ」オープニング曲)」をオープニングにしたいと伝えていました。却下されるかと思いきや、おふたりが尽力してくださったお陰で実現できて感謝しています。ファンの生の声を聞けて、ようやく完成を実感しています。
ーー五味さんと髙野さんは、いかがですか?
五味秀晴さん(以下、五味):まずはホッとしています。制作から約3年と長い年月が経ちますが、あっという間でした。今思い出すと大変なことばかりが浮かんできてしまいますが、観てくださった方の声が本当に嬉しく思います。
監督がおっしゃったように色々な感じ方はあると思いますが、ぜひとも多くの方に観ていただきたいです。
髙野星来さん(以下、高野):私は「美少女戦士セーラームーン」の世代で、お客様の反応が嬉しいですし、私もいちファンとしてウキウキしています。
制作としては、≪前編≫を作り終えてから同じスタッフで≪後編≫を作っているので、反響のないまま制作し続けるのは制作スタッフの皆さんへは負担が高かったと思います。なので、やっとスタッフの方にも声が届いて嬉しいです。
髙橋:作っている最中は、ファンの声が聞けないので「これで大丈夫かな?」と不安になったり、完成後も「作りきったけどお客さんにどう届くんだろう……」とソワソワしていました(笑)。
「髙橋監督の色が出るアニメにしていただきたい」
ーー前回、お仕事内容を伺いましたが、どのような経緯でスタッフィングされたのでしょうか?
髙野:監督はスタジオディーンさんからの推薦もありお願いすることになりました。「美少女戦士セーラームーン」愛が滲み出過ぎていて(笑)。
髙橋:「どんな形でもいいので「美少女戦士セーラームーン」をやりたいです」とたくさん言ってましたから(笑)。
ーー髙橋監督の「美少女戦士セーラームーン」愛はお話しているたびに伝わります。約3年の制作期間となりましたが、企画の初期段階はどのように進められましたか?
髙橋:ファンの方に作品をどのように届けたいのかについて、かなり熱く議論したことも……。
髙野:ありましたね(笑)。
髙橋:やるからには同じ目標を持って制作を進めた方が良いと思って、しっかりとスタッフ陣に伝えました。
髙野:制作期間が長いので、なかなか共通のゴールが見えづらかったり、コロナの影響で制限もあり、これまで以上に密なコミュニケーションが必要でした。
髙橋:5章は原作の解釈も難しいので、五味さんと髙野さんと表現のお話をたくさんしました。台詞でサラッと流してしまうと、武内先生の伝えたいメッセージが伝わらなくなってしまいますし。
原作にない部分を描くとなると、皆さんの力が必要なので、(『美少女戦士セーラームーン』原作担当編集)小佐野(文雄)さんも含めてコミュニケーションを取れて良かったと思います。メッセージから逆算するように作品の方向性が決まっていきました。
五味:監督がおっしゃった通り、今回は難解で壮大なテーマのお話です。今回の映画は「Crystal」シリーズの集大成となりますが、90年代のアニメとは違い、原作のストーリーに準拠するのが軸となります。
限られた時間で、どうしたらご覧になる皆さんにしっかりと伝わるのか監督もプロデューサー陣も悩みました。監督とは後編のラストシーン、物語の中でとても重要な部分なので、解釈や台詞の意味など細かくやり取りしました。
僕個人の意見としては、原作準拠ではありますが、髙橋監督の色が出るアニメにしていただきたいと当初から思っていました。
髙橋:はっ、初耳です!(笑) 出来上がってからですか?(笑)
五味:(笑)。漫画の色々なシーンをリスペクトしながら作っていただいていますが、初めて「美少女戦士セーラームーン」を見る方もいるので、髙橋監督が解釈して伝わりやすくアレンジしていただきたいと考えてました。
ーー原作サイドの五味さんが、アレンジしてほしいと思うのが意外です。
五味:一見矛盾しているようですが、矛盾していません。原作から変えないことは簡単ですが、アニメには音も色も付くので映像にする上でのアレンジ必要だと思います。
自分でページをめくり一コマずつ読んでいく漫画とは違い、アニメは流れていく尺も違いますしね。
だからこそ、髙橋監督のアニメにしていただきたかったんです。実際、武内先生が伝えたかったメッセージがすごく乗った映画になっていると思っています。
ーーキャラクターの動きは90年代アニメらしさも感じられますが、東映アニメーションサイドの髙野さんは、どのように考えられていましたか?
髙野:原作はト書きでキャラクターの心情が分かるようになっていますが、アニメでは窓枠で語られないので、監督はセーラー戦士や敵の気持ちを随所に表情やセリフで散りばめてくださっています。
キャラクターの心を表現として入れ込んでいるからこそ、短い中でも見ている方に伝わるので大変感謝しています。
髙橋:武内先生の大切な作品なので、色々と表現についての指定があるかと思いましたが、とても気持ち良く仕事させていただけてありがたかったです。
本当に「美少女戦士セーラームーン」が好きで良かったなと思っています。僕の絵コンテや会議などを通して、「美少女戦士セーラームーン」愛がスタッフにも伝わり、スタッフからもいろいろと提案をもらいました。
実は、セーラーコスモスの変身シーンは最初なかったのですが、スタッフから描きたいという声が上がり、完成したんです。僕だけの作品ではなく、武内先生の心を軸に全ての「美少女戦士セーラームーン」愛を形にできました。
ーースタッフ陣からも提案が上がる現場は素敵ですよね。
髙橋:打ち合わせしていると、スタッフからも「美少女戦士セーラームーン」愛が漏れてきます。「Crystal」シリーズ1期の1話からずっと参加している方もいるので、原作の設定を熟知されていて、むしろ僕より先輩です。その方たちの気持ちを汲みたくて。
僕が全て決め切ってしまうと、その空気が作品に出てしまうんですよ。「美少女戦士セーラームーン」はスタッフの愛と一緒に作っているのが良さなので、監督の一存だけでは決めていません。
監督がすべて直したアニメのクオリティーは高いですが、ガチガチな感じが作品にも出てしまうので、なんだか窮屈で胸が詰まるような映像になってしまいます。原作と90年代のアニメにもある、ゆとりを意識しました。
なので、スタッフの愛に救われて、制作できて良かったなと思っています。