ヒロインは視覚障がい者。きっかけは道下美里選手のリオパラリンピック銀メダル獲得――第15回GA文庫大賞《大賞》受賞作品『透明な夜に駆ける君と、目に見えない恋をした。』原作者・志馬なにがし先生インタビュー
第15回GA文庫大賞《大賞》受賞作品『透明な夜に駆ける君と、目に見えない恋をした。』。
内気な大学生の空野かけると、目が見えないながらも何も諦めない冬月小春による“最も不自由で、最も自由な恋の物語”が紡がれます。
今回は、原作者・志馬なにがし先生にインタビューを実施。視覚障がい者をヒロインとして描いた理由や、当初から想定していたというラストシーンについて、様々なお話を伺いました。
きっかけは道下美里選手のリオパラリンピック銀メダル獲得
――第15回GA文庫大賞・大賞受賞おめでとうございます。これまでのGA文庫大賞の歴史の中で、3作品しか出ていない大賞を受賞されたわけですが、受賞の第一報はどんな形で受け取ったのでしょうか?
志馬なにがし先生:ありがとうございます。担当編集の中村さんから、WEB会議にて選考結果を伝えたいとありまして、仕事終わりの夜に結果をいただきました。
――受賞後、ご自身の環境などに変化はありましたか?
志馬先生:大賞受賞後、特段変化はありません。受賞式で、先輩作家から「プレッシャーだと思いますががんばってください」とお声かけいただいたのですが、どんな賞であれ、全力でいい物を書くということには変わりはないのでプレッシャーはありませんでした。
大賞だからか……わかりませんが、ギリギリまで「ここ直したい」を受け入れていただけるので、ありがたかったです。
強いてあるとすれば、ご期待いただけているためか、SSや短編を9本用意することになったことが印象深いエピソードです。「きゅ、9本!?」と声を上げてしまいました。
――アニメイトでも特典用にショートストーリーをお願いしてしまいました。書き下ろしていただいてありがとうございます(笑)。raemz先生の美しいイラストも印象的な本作ですが、raemz先生とはキャラクターデザインや挿絵などの作画を通じてやり取りはされたんでしょうか?
志馬先生:やりとりはすべて担当編集の中村さんを通しています。中村さんのイメージと私のイメージをすり合わせ、中村さんの方からraemz先生にお伝えしているのですが、私たちのイメージを超えたイラストをいただけるので、いつも驚いていました。
――直接の打ち合わせでなくても、イメージ以上のものが出てくるのはすごいですね!
志馬先生:とくにカバーイラストの洋服に映りこんだ花火は私たちのイメージにはなかった描写でしたし、キービジュアルの描き込みには息を呑みました。raemz先生の明るい背景のイラストも素敵ですが、夜の雰囲気もすばらしく、花火を描くって難しいと思うので、キービジュアルや口絵の花火もすごく素敵だなと感じています。
raemz先生なので、超絶かわいいヒロインになると思っていましたが、初めてヒロインの冬月小春を拝見したときも、「かっわ……」と声が漏れました。すべての登場人物に言えることなのですが、「そうそう、こんな感じの人」と本作を読んでいただいていることは、イラストの解像度の高さで伝わりました。そのことに、驚きを超えて深い感謝をしていました。
――raemz先生との連携もばっちりですね。透明感のある文体と、視覚障がいという難しいテーマに果敢に切り込んでいくストーリーが本作の魅力だと思うのですが、なぜこの題材で創作しようと思ったんですか?
志馬先生:「道下美里選手 リオパラリンピック銀メダル おめでとう!」と、横断幕を街中で見かけたとき、まずは道下選手がリオパラリンピックで出場されたブラインドマラソンに興味を持ちました。いくつか本を読んで、目が見えない方々を、本を通して目の当たりにして、そのときの感情を書いてみたいと思ったことがきっかけです。
自分が目が見えなくなったらどうするか。やっぱりつらいと思うんです。それを受け入れ、明るく生きている方は、すごいな、すてきだな、尊敬するな、と思いました。日々私はつらいことがあります。ただ、下を向いて生きるより、笑って上を向いて生きた方が楽しいだろうな、って思ったんです。本作には目が見えないヒロインの冬月小春が登場しますが、上を向いて生きた冬月小春が、読んでいただけた方の心に残ればいいなと思って、この小説を書きました。