『レベル1だけどユニークスキルで最強です』放送記念! ボカロP・ノラに教わる「音楽スキルレベル1だけど学べる楽曲制作」【後編】
日本最大級のWeb小説投稿サイト「小説家になろう」で日間・週間・月間・四半期1位を獲得した人気タイトル『レベル1だけどユニークスキルで最強です』(原作:三木なずな /講談社 Kラノベブックス 刊)。同作のTVアニメが、2023年7月8日(土)より、TOKYO MX、BS日テレ、AT-Xにて放送中です。
そのオープニングテーマ「Chase Me」を歌うのがノラ from 今夜、あの街からのノラさん。これまでにも『名探偵コナン』のエンディングテーマを歌うなど、ボカロPとしての活動の幅を着実に広げてきたノラさんにも音楽スキルがレベル1だった時代があるはず。
そこで今回は、ノラさん自身をケーススタディにして「音楽スキルレベル1だけど学べる楽曲制作」というテーマでインタビューを実施!
<インタビュー前編はこちら>
インタビュー後編では、クリエイティブ面に踏み込んで話を伺ったのです。
連想ゲーム形式で楽曲を作っているのです
──後編では作曲などクリエイティブ面もお伺いできたらと思います。ボカロPでも人それぞれでやり方は異なると思いますが、ノラさんの楽曲制作の流れはどのようにされていますか?
ノラさん(以下、ノラ):例えば最新曲『Chase Me』であれば「Chase Me 遠のいて〜♪」というフレーズが頭に浮かんだら、そこにドラムやピアノをつけたりして一気にフレーズを完成させちゃうんです。そこから楽曲の前後を連想ゲームみたいにして引き伸ばしていきます。
「なんでChase Meと思っているんだろう?」「なんで私を追いかけてと思っているんだろう?」みたいな疑問をベースにして、新しいフレーズを連想ゲーム形式で前後に付け足していくやり方をしています。ただし、あくまでノラ流なので、これが唯一の正解とは思ってほしくないと断りを入れさせてください。
──かなりオリジナリティに溢れた作曲の流れですよね?
ノラ:もしかしたらボカロPだと意外といるのかもしれないですけど、学校などで教わるようなやり方ではないと思います。
──マネージャーさんにはフレーズが完成したら逐一共有してるのでしょうか?
ノラ:ワンコーラスができたくらいのタイミングで送るので、フレーズ単位では送らないですね。
──そうするとフレーズだけのストックは結構ありますか?
ノラ:そうですね。ただ、前後が連想ゲーム形式で膨らまなかったものは、そこで捨てちゃうと言うかプロジェクトがそのままになってしまっています。
──ちなみに前後を膨らませられた楽曲と、そうでない楽曲は何が違ったりするのでしょうか?
ノラ:何が違うんでしょうね……。これは自分も知りたいというか、正直なところこれが分かっていたらボツ曲が生まれないわけなんですけど。やはりキャッチーさとかですかね。
僕が作曲をする時に頭にメロディが浮かんでくるのは、お風呂とかに入っている時が多いんですよ。そこで思い浮かんだフレーズとかを覚えておいて、後で打ち込むんです。
ただ、その間に忘れていってしまうものもあるんですよね。それで最終的にインパクトが強くて自分が覚えていたものだけが実際に制作に進んでいるので、覚えやすいかどうかがその先にボツになるのかならないのかの境目を分けている気がしています。
──初投稿曲「ショウニントウソウ」から最新曲「Chase Me」までの2年間でも作り方は変わっていませんか?
ノラ:細かい技術的なところとかは色々とアップデートしていますが、フレーズを完成させたものを前後に伸ばしていくスタイルで作っているので、根本はずっと変わらないです。
タイアップ楽曲は準備段階で原作やアニメの成分をひたすら摂取するのです
──今回の「Chase Me」のようなタイアップ曲だと、思いついたフレーズから前後を組み立ていく中で、タイアップ作品の世界観にも寄り添っていく必要があるかと思います。その場合はどのようにされていますか?
ノラ:前提として、インプットしたことが楽曲というアウトプットにかなり影響を与えると思っているんです。例えば『名探偵コナン』の楽曲を作る時であればその週はひたすらコナンの楽曲を聴くとか、今回の『レベル1だけどユニークスキルで最強です』であればひたすら原作小説を読むといったような感じです。準備段階でひたすら原作成分やアニメ成分を摂取しておいて、制作時は摂取したものを出して楽曲を作っていくイメージですね。
ただ、今夜、あの街からというユニット自体にも物語があるので、ユニットとアニメのどちらの物語に対しても辻褄の合う作品でないといけないのは、今でも苦戦するところです。自分の中でどちらの物語にも通用する言葉選びをするとか、どちらの作品として見た時にも雰囲気を壊さない音を選ぶとか、そういったところは凄く意識して作っています。
──確かに今夜、あの街からは独特な立ち位置のアーティストでもありますね。
ノラ:楽曲で物語を進めるユニットなので、タイアップ楽曲とは言えどユニット自体の話も進めていかないといけないのはちょっと難しいですね。
──歌詞についてもお伺いさせてください。事前にインプットをかなりしているので、メロディラインができたら歌詞は自然に降りてくる感じでしょうか?
ノラ:メロディを先に作って歌詞をつけるとか、逆に歌詞からメロディを連想するというよりは、イメージとしてそこはセットですね。
──このメロディにはこの歌詞みたいなものが、最初から頭の中でハマってるみたいなイメージですか?
ノラ:そうです。そこからブラッシュアップしていく過程で、同じ母音を持つ言葉に変えていくとかもやりますね。
──ちなみに作曲と作詞とでは、どちらが産みの苦しみが大きいですか?
ノラ:うわ~難しいですね(笑)。どちらか一つに絞るのは難しいけど、曲の方がすんなりと作れることが多いので作詞の方が産みの苦しみが大きいです。やはりメッセージを込めるという点でも、ヨルマチ(今夜、あの街からの略称)もタイアップもどちらの物語にも対応させるという点でも、歌詞の方が産みの苦しみが大きいです。
色々な取材でも話しているんですけど、僕は大学が文学部なのに実は活字が苦手で、本を読むことも苦手な方なので、作詞が一番苦しいです。
──ちなみに活字が苦手なのに文学部を目指されたのは何があったんですか?
ノラ:歌詞のためですね。
──ボカロPとしての将来を見据えた進学だったんですね。
ノラ:多分、自分なりに現実的で堅実な生き方と、夢の追いかけ方の折り合いをつけたのが文学部だったんだと思います。
僕の音楽の師匠は耳コピから得た知識なのです
──大学は文学部を専攻されていますが、音楽学校などに通われずにコード進行や和音といった音楽的な知識はどのように身につけられたのでしょうか?
ノラ:基本的に僕の音楽の師匠は、全て耳コピを通して得た知識や経験だと思うんですよ。一応、後から音楽理論とかは一通り勉強しましたが、それでもベースは耳コピや楽曲カバーで得た知識や経験が大きいと思います。
だからコード進行とかコード名を意識して楽曲を作ることがなくて、逆に自分の曲を理論的に説明してくれと言われてもできないんですよ。
──理論から入ると定石に囚われてしまうこともあると思うので、そこにハマらずに作れるのはメリットかもしれないですね。
ノラ:だから、新しく始める人向けに話すとしたら、その人の得意な方法で良いと思います。しっかり理論を固めてその通りにやるのが得意という人であれば、楽典(音楽理論の教科書)で勉強すれば良いし。逆に身体で覚えるタイプの人は、とにかく楽曲カバーなどで真似していく中で自分なりのルールを見つけていくとやりやすいのではないかと思います。
理論を全て理解できなかったからといって悩む必要はないと思います。
──音楽制作の過程にはミックスやマスタリングといった一般の人には馴染みのない工程もありますが、こういったことも独学で学ばれたのですか?
ノラ:はい。これもネットの記事を通して勉強しました。
──もうネットの記事様様ですね。
ノラ:様様ですよ。曲作りで調べていると知らないワードがいっぱい出てくるじゃないですか。そしたら今度はそのワードを検索して勉強していくような流れで、とにかくネットを漁っていました。
──お話を伺っているとネットサーフィンがお好きな印象を受けます。
ノラ:ネットサーフィンは好きで、関連項目をどんどん飛んでいくタイプですね。というかネット記事を漁って何かを学ぶのが好きなんですよ。
僕は3Dモデリングもできるんですけど、それも全部ネット記事を漁りつつ、初心者向け動画などを見て知識を広げていった感じです。何かやりたいと思ったら、僕はひたすらネットを調べて、まずはその記事通りに真似をすることをしています。作曲も3Dモデリングも動画制作も防音室作りも、どれもネットの記事を参考にしてきました。
──そう考えるとスキルのない初心者でも、ノラさんみたいな“探究心”と“行動力”があれば何とかなりそうな気がしてきますね。
ノラ:全然できると思います。作曲って天才にしかできないイメージがあるかもしれないですけど、やってみると意外と特殊スキルではないと気付くと思います。楽曲制作自体は知識で補えるし、仮にもし才能が足りない部分があったとしても情報が補ってくれるので、特にボカロPは専門知識が無くても音楽を聴き取る耳だけ育てていけば出来るんじゃないかなと思います。
──自分のように耳コピができないと不安を感じる部分もありますが……
ノラ:一つ声を大にして言うと、僕も耳コピは出来ていませんでした。出来たと思ってやっていたけど、後から聴いたら本当に酷かったです(笑)。やり続けているうちに音が聴こえるようになるのと、耳コピに関して言えば大事なのは機材ですね。そもそも安価なイヤホンだと全ての音が再生されていない場合もあって、本当は聴こえるはずの音が聴こえてないので、ある程度の機材は必要です。
安価なイヤホンでも普通に音楽を聴く分には全然良いんですけど、耳コピしようと思ったりすると物足りないですね。耳コピしようとした時に、そもそも聴こえてこない音は聴き取れないじゃないですか。それこそ初心者はヘッドフォンやイヤホンにはお金をかけた方が良いです。
24歳までに結果を出すと家族に宣言をしたのです
──こうして楽曲が完成したらYouTubeなどで世に出す方も多いと思います。今夜、あの街からとして活動する前は、ボカロP/歌い手として成宮亮名義で活動されていますが、初めての自作楽曲を世に出した時の感想を教えてください。
ノラ:やはり期待6割、不安4割みたいな感じでしたね。それこそ独学の人たちって同じ気持ちだと思うんですけど、創作物に対して知識や経験の裏付けが無いじゃないですか。それもあって「これで良いんだろうか?」という不安は大きかったです。
ただ、投稿するということは、自分なりにやり切って納得して投稿するわけでもあるので、文化祭の発表会みたいなイメージで「ちょっとこんなの作ったから聴いてよ」という気持ちもありましたね。
──初コメントとかいいねがつくと嬉しいみたいな。
ノラ:そうですね。ただ、コメントやいいねが付くのは歌い手として活動してきた時にもありがたいことにあったので、どちらかと言えば「成宮の世界観」「成宮ワールド」みたいなことを言ってもらえた時に、これは自分が作った自分の世界なんだと思うと何だか嬉しい気持ちになりましたね。
だから今で言うと「ヨルマチっぽい」とか「ヨルマチらしい」みたいなことを言われると、凄く嬉しいです。最初にそんなコメントをもらった時は達成感があります。
──そこからB ZONE(当時はBeing)のスタッフから連絡があったんですよね?
ノラ:成宮亮名義の1作品目を聴いてくださったスタッフさんから「一緒にやってみませんか?」みたいなメールを頂きました。それから直接お会いして音楽への熱意じゃないですけど、お互いにそういう話をして、それでここでやっていこうと決めた感じです。
──最初にスタッフからメールを受け取った時は、どんな気持ちでしたか?
ノラ:正直な感想は「やっと気づいてくれた」です。もともと音楽で生きていきたいと夢を持っていた人間でしたし、歌い手の時から誰かに気付かれて拾ってもらえないかと思って作っていたので。やっと気付いてくれる人がいたんだって嬉しかったですね。
──それが大学在学中のことですか?
ノラ:そうです。大学2年生だったかな。
──ということはご家族にプレゼンされてボカロPとしての活動を始めて、B ZONEのスタッフさんから「一緒にやらないか」と連絡があって、そこで音楽一本でやっていく気持ちを固めたのでしょうか?
ノラ:なんか不思議ですよね。自分は意外と保守志向じゃないですけど保険をかけるタイプの人間なので、「よし! 全てを捨てて音楽をやるぜ!」という感じではなかったんですけど、それでもちゃんと音楽で生きていきたいと思っていて。「全てを捨てて音楽でやっていく」って何かカッコいいじゃないですか。でも、そこまでの勇気は無かったから、当時はバイトとかしながら音楽を作っていましたね。
それこそ「ショウニントウソウ」を投稿した頃とかは、スーパーで普通に働いていたりしましたし。ミックスの仕事もやったりしていたので。そっちの仕事をやりながらアーティストとして楽曲を作っているみたいな状態です。
──では、音楽で生きていくことはご両親にも報告されているのでしょうか?
ノラ:最初に両親と音楽の話をした時に、宣言をしたという程ではないんですけど自分なりに期限を決めたんですよ。24歳までに何か結果を残せなかったら、そこからは普通に就職して社会人になります、みたいな。
もともと何でもやってみたらと言ってくれる両親だったんですけど、特に反対されることもなく「じゃあ頑張ってみなさい。ただし責任だけは自分で取りなさい」と言われて今に至っています。
──24歳までに結果を出すと期限を決められていましたが、かなり早い段階で実現させましたね。
ノラ:そうですね。高校生の頃から、自分なりに売れているアーティストは何歳までにタイアップを取っていたり、メディアに出ているとかを調べていました。それで24歳までに何か残せないのであれば、そこからは普通に社会人をやりつつ音楽は趣味にしますみたいな宣言を両親にしています。それもあって大学を卒業して就活を考える時にも、改めて家族とそういう話をしたので、特に就職しなさいみたいには言われなかったです。
──それでは最後に、これから音楽を頑張ろうという音楽スキルレベル1の方に向けて、ノラさんからメッセージや励ましのコメントをお願いします。
ノラ:まだ自分も作曲を始めて3年なので偉そうなことは言えないのですが、曲作りってやってみると意外と出来るものです。とりあえず何かを作って完成させてみることを頑張ってみたら、オリジナリティとかクオリティは後から段々とついてくると思います。僕みたいにスカスカの耳コピ音源でもまずは完成させられたら、数年後にはこの記事を読んでいる人もボカロPになっているかもしれません。まずは、ぜひ楽しんで挑戦してみてください。
あと、ざっくりしたものですが僕のSNSにもボカロ曲の作り方などを動画にまとめているので、興味があったらヨルマチのTikTokやYouTubeも見てみてください。
そして今回お話させていただいた僕の最新曲「Chase Me」は8/27(日)の初ワンマンライブでも歌うので、そちらにも是非遊びに来てください!
──貴重なお話をありがとうございました。
[インタビュー・岩崎航太(B ZONE)]
関連情報
<RELEASE>
ノラ from 今夜、あの街から
Digital Single「Chase Me (VOCALOID version)」
ストリーミング&ダウンロード配信中
https://yorumachi.lnk.to/chase_me_vocaloid
<LIVE>
今夜、あの街から 1st LIVE "承認闘想”
日程:2023年8月27日(日) 開場17:00 / 開演17:30
会場:渋谷GRIT
出演:今夜、あの街から(ノラ)
スペシャルゲスト:VALSHE 、 宮川愛李
チケット:全自由 3,500円(税込) 整理番号順入場 ドリンク代別
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