『しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE』スタッフインタビュー|3Dのしんちゃんはどのように生まれたのか?「目指すは、しんちゃんをしんちゃんらしく3Dで表現すること」
社内公募から築いた、非理谷充のデザイン
ーー3Dアニメーションには、キャラクター造形の開発以外にも数多くの工程があります。ほかの工程で、特にこだわったポイントはありますか?
畑中:大きく2つあります。1つは、非理谷充のデザインです。ゼロベースで立ち上げていかなければいけなかったため、社内で絵が描ける人に何十パターンもデザインを考えてもらいました。白組で社内公募的なこともしました。
非理谷は全部で第4形態あります。第1形態は冒頭のティッシュ配りをしている姿、第2形態は超能力を手に入れた姿、第3形態はヌスットラダマス2世に負のエネルギーを注入された後の姿、第4形態はもはや怪獣になった姿です。そのうちの第3と第4形態のデザイン案を社内から募りました。いろいろな案をもとに、アートディレクターがかなり試行錯誤して最終的にあのデザインへ落とし込んでいます。
吉田:モンスター状態になった第4形態は、監督のイメージに沿うデザインがなかなか見つからなかったんですよね。監督の頭の中にあるデザインをみんなで探す感じでした。
畑中:そうですね。監督の「これ」というデザインが見つからなかったので、たくさん絵を描いた中から監督と一緒にイメージが近いデザインを選んでいただく形で進めました。
ただ、ネットでは「第4形態が怖い」と言われていて。狙い通りではありつつ、インパクトが強いので怖すぎたかなと思っています(笑)。
吉田:大丈夫ですよ。私の周りでは小さい子でも怖くないと思う子もいれば、めちゃめちゃ怖いと感じる子もいるようで、人によるんだなと(笑)。
2Dのルールに則った「ケツだけ星人」のモデリング
ーー2つ目のこだわりポイントはいかがですか?
畑中:この作品にとってアニメーションが一番重要だろうと考えて作業をしていたので、そこは白組としてすごく頑張ったところです。一番時間と人数をかけました。これまでのシリーズをリファレンスしながら頑張って作業しました。
ーーアニメーションの中で特にこだわりを感じたのが、しんちゃんの「ケツだけ星人」の動きです。
畑中:ケツだけ星人は、「しんちゃんらしさ」を感じてもらえる重要な箇所なので、かなり初期の頃からテストモデルをつくっていました。吉田さんにも、ちゃんとお尻が柔らかく揺れているかを事前にご覧いただいて、「ちょっとこれだと揺れすぎています。生っぽいですね」とご意見をいただいたこともありました(笑)。
吉田:そうですね(笑)。
畑中:ケツだけ星人は単独で、「ぶりぶり〜」がどう見えるかのスクリーンテストをしました。モーションブラーに問題ないかなどのテストを兼ねていた部分もあります。
ーー画面上では見えない、ケツだけ星人の胴体の部分のモデリングはどうなっているんですか?
畑中:胴体はカメラの反対側にあります。僕自身、ケツだけ星人用にお尻だけのモデルをつくるのかと思っていたのですが、実際には通常の立ち姿のモデルからお尻の反対側に頭を下げた状態への切り替えができるリグを仕込んでいました。どんなに無茶な体勢でもカメラにお尻を向けている状態になります(笑)。それは2Dの『クレヨンしんちゃん』のルールに則って仕込んでいます。
ーーアニメーションを魅力的に見せる大切な要素の一つにカメラもあるかと思います。中でも、冒頭(野原)みさえがしんちゃんを追いかけるシーンのカメラワークはとても迫力がありました。
畑中:パイロットフィルムでつくったのがあのシーンだったので、ブラッシュアップしながら何回もつくっているからこその成熟度の高さがあると思います。それもあって迫力を感じて見ていただけたのかなと。
また、冒頭で「この作品は3DCGアニメなんです」と理解していただくために、3Dの利点であるカメラワークをふんだんに活用して迫力のある映像を目指しました。