掛け合いの中でつかんだ、カオルのあり方、須堂との対照性│アニメ『AIの遺電子』カオル役・高森奈津美さんインタビュー【連載第5回】
7月から放送がスタートしたTVアニメ『AIの遺電子』が、まもなく最終回を迎える。本作はヒト、ヒューマノイド、ロボットたちの物語がオムニバス形式で紡がれ、“AI時代”を生きる私たちに「人間とAIの共存」という大きなテーマを投げかけてきた。ここまで紡がれてきた“糸”が、いよいよ主人公・須堂光の物語へと収束していく――。
アニメイトタイムズでお送りしてきたリレーインタビュー第5回は、須堂の大学時代の友人・カオルを演じる高森奈津美さんが登場。性別を超越した思考を持ち、現状の社会に退屈するカオルをいかに演じようとしたのか。今後、大きなポイントとなる須堂やMICHIとの関係とあわせて、たっぷり伺った。
先生もヒューマノイドなのでは!?
――物語もいよいよ終盤へと突入しましたが、物語を振り返ってみての率直な感想はいかがですか?
高森奈津美さん(以下、高森):ヒトとヒューマノイド、それぞれの立場からさまざまな葛藤や衝突が描かれていて、山田(胡瓜)先生はこんなに素晴らしいお話をよく思いつくなと毎回驚かされています。特にヒューマノイドの感情がきめ細かくて、「先生もヒューマノイドなのでは!?」と思ってしまいました(笑)。それぐらいリアルに感じています。
――ヒトとヒューマノイドの絶妙な違いが面白いですよね。
高森:そうなんです。ヒューマノイドにもできること、できないことがあって、ヒトよりも能力が高そうなのに実はそんなことはなく、むしろヒトに憧れたりもする。まさに第2話のジュンとマサの陸上のお話がそれを象徴していて、ヒューマノイドのジュンのほうが伸び悩んでいるという関係性が新鮮でした。こういうお話って、なんとなく人間のほうが伸び悩み、アンドロイドやロボットに劣等感を抱く……というイメージがあったので。
――アンドロイドやロボットには勝てないのか、というお話が定番だったりしますよね。
高森:でも、ヒューマノイドには“仕様”があって筋肉がつきにくいという設定があるんです。だから葛藤が生まれる。本当に細かいところまで考えられているんだなと思いました。
――では、カオルについてはどんな第一印象をお持ちになりましたか?
高森:難しい役どころだなと思いました。最初に置かれていた性は男性だけど、そこには固執していない。でも、女性の体になったからといって精神まで女性になろうとしているわけではない。なかなかとらえどころのないキャラクターだな、と。
しかもアニメの初登場は第1話のラスト、思わせぶりなセリフを少し喋るだけなんです。一番緊張する登場の仕方でした。
――そういうものなんですね。
高森:よくある登場の仕方ではあるんですが、パーソナルな部分はまったく出せないけれど、ひと言で次に繋がる新キャラクターとして印象づけないといけないんです。ちょっと震えながらのアフレコになりました(笑)。
――カオルは第2話で本格登場し、須堂やリサとの掛け合いもありました。
高森:カオルって意外と自分のことをたくさん喋ってくれるので、掛け合いをするなかでようやくカオルという人物が固まっていきました。カオルに動きがついたのも大きかったです。原作も読ませていただきましたが、表情が変化することでカオルの考え方が把握しやすくなって、カオルは本当に冷めた目でこの世界を見ているんだと理解できました。
――子どもにボールを返すシーンですね。
高森:友達や親との微笑ましい光景を見て「なんてつまらない景色」と言うんです。カオルの考え方、あり方がつまっているセリフですよね。
――音響監督と何か話し合われたことはありますか?
高森:大塚(剛央/須堂光役)さんと掛け合ったときに、音響監督さんから「もっと感情を出してお芝居をしてください」とディレクションをいただきました。自分一人でカオルについて考えていたときは、あまり体温の感じられないヒューマノイドで、どちらかというと淡々とした喋り方なのかなと思ったんです。でも、そうじゃないんですよね。
須堂さんは喋り方にあまり温度感はないけれど実際は温かみのある人で、カオルは他人を明るく茶化したりするけれど内心はとても冷めている。須堂さんとカオルは対になっているので、表向きは感情を出して対照的に演じないといけないんです。音響監督さんと大塚さんのおかげで、改めて掛け合いの大切さを実感しました。
――リサとのやりとりでは、まさにカオルの「明るく茶化した」部分が出ていました。
高森:リサちゃんはからかいがいがあるので、あえて女性の部分を出して楽しんでいたんだと思います。ただ、全体としてあまり“男性らしさ”、“女性らしさ”は意識しないようにしました。カオルはどちらかの性別になりたいわけでも、寄せたいわけでもなく、ただただ試行錯誤して男女の概念を超えようとしているだけ。女性の部分を出したほうが面白い場面だったら出す、くらいの感覚だと思って演じました。
――基本的に“性”は意識しない、と。
高森:そうですね。特に第2話は、一番フラットな自分を出せる、気心の知れた須堂さんとの会話がほとんどだったので、特に性別のことは考えないようにしました。
――カオルは抽象的な言葉づかいも多いですよね? そのあたりはいかがでしたか。
高森:難しかったです! 「街灯から離れられない虫」みたいな詩的な表現も多くて、最初は機械的に言うべきか、人間味を持たせた言い回しにするか迷う部分も結構ありました。そういう意味でも本当に謎めいたキャラクターだと思います。
ただMICHIと絡むようになると、一転して振り回される側になるのが面白かったです。この先もMICHIとのやりとりがあるので、楽しみにしていただけたらなと思います。