「歩み続けるこの道の先で、あなたの絶望に寄り添えますように」ReoNa ONE-MAN Concert Tour 2023 “HUMAN”ファイナル公演詳細レポート
絶望系アニソンシンガー・ReoNaが7月13日(木)に東京・LINE CUBE SHIBUYAで全国7都市を巡る2ndフルアルバム『HUMAN』の全国ツアー「ReoNa ONE-MAN Concert Tour 2023 “HUMAN”」ファイナル公演を開催した。
最高を更新していくReoNa
デビュー以降の5年間、ReoNaにはたくさんの「とくべつ」があるが、7月は彼女にとって、特段思い出深い月ではないだろうか。ReoNaがデビュー前に受けていた2017年のSACRA MUSIC主催のオーディションの東京での二次審査が7月8日だったことを考えると、6年前のちょうど今頃、彼女はいろいろな思いを巡らせていただろう。
その1年後、今から5年前の2018年TVアニメ『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン』の劇中アーティスト「神崎エルザ」としてこの世界に現れたReoNaは、同年7月4日、神崎エルザ名義で『ELZA』リリースする。コンベンションライブ「SACRA MUSIC NEXT BREAK! 2018」にReoNaとして参加したのが、それから間もなくの7月12日。その2年後の2020年7月。スマートフォンRPG『アークナイツ』新章リリースのタイミングに合わせて配信された「Untitled world」を1日に、さらに22日には好調なチャートアクションを記録した「ANIMA」(『ソードアート・オンライン アリシゼーション War of Underworld』最終クールOP)を発表。2022年7月27日には、ライブで欠かせない曲となった「シャル・ウィ・ダンス?」(『シャドーハウス 2nd Season』OP)と、言い出したらきりがないほどの「とくべつ」と「はじめて」が集約されている。
その「とくべつ」を新たに更新したのが、本ライブである。筆者は本ツアー初日の5月14日(日)戸田市文化会館公演にもお邪魔させてもらっていたが、その時からさらにブラッシュアップしてみせたことは第一声から明確だった。
ReoNaが生まれた1998年発表のアルバム『Pilgrim』に収録されたエリック・クラプトンの「My Father's Eyes」が流れる中、バンドメンバー=荒幡亮平(Band master&Keyboard)、二村学(Bass)、山口隆志(Guitar&Camera)、比田井 修(Drums)、篠﨑恭一(Manipulator)がそれぞれの持場で準備を始めれば大きな拍手が湧く。「My Father's Eyes」が徐々にフェードアウト。ファンファーレの音色が鳴り響き、一枚の板の上にReoNaが登場すればツアーファイナル開幕の合図だ。1曲目、『ソードアート・オンライン -アノマリー・クエスト-』主題歌「Weaker」は、初日は観客のハンズクラップが控えめに始まったのに対して、ファイナルでは初っ端のAメロから遠慮なく注がれる。シンガロングの声も大きく、メンバーも一歩前に出てパフォーマンスし、一体感を一気に高めていく。
「ReoNa ONE-MAN Concert Tour 2023 “HUMAN”、LINE CUBE SHIBUYAへようこそ。ついにツアーファイナル。今日お届けする、あなたとの一対一、最後までゆっくり楽しんでいってね」
続いて披露された『月姫 -A piece of blue glass moon-』OP「生命線」では、瞳にさらなる光を灯しエネルギッシュに。怪しげで妖しげなライティングに切り変わると、荒幡の重厚な音色が辺りを包み『シャドーハウス』エンディングテーマ「ないない」に。その景色を壮大な空の色へと変えたのが『アークナイツ【黎明前奏 / PRELUDE TO DAWN】』OP「Alive」。「正しさって誰が決めたのでしょうか。それはひとつに限らないもの。誰かの正義が、また誰か他の正義を傷つける。それでも、痛みとともに、生きてゆく」というMCと共に、<間違いじゃないよ>と理不尽と戦うあなたを肯定する。<動いてく世界に 引き裂かれたって 誰かに届くように あなたに届くように >という言葉が、彼女の決意も相まってなのか、いつも以上にスッと心に落ちてきた。白を貴重としたドレスを身にまとったReoNaが、色彩豊かなお歌を聴かせていく。
絶望に寄り添う三者三様のお歌
ここで一息ついてMC。「改めましてこんばんは、ReoNaです。今日は“HUMAN”ツアーファイナル。あなたの声が帰ってきたこのツアー、楽しんでいただけていますか?」と問いかけると、歓声と拍手が広がった。
「最後の最後まで心を込めてお届けします。まだまだ楽しんでいってね」と添えると、相棒であるギターを肩にかける。
「どんなに仲が良くても、どんなに分かりあえていても、それぞれの道へ、それぞれの未来へ、別れなければいけない時もある。そんな大切な友だちに向けた、ひとつの手紙。あなたにもそんな友だちはいるでしょうか。伝えたい思いがあるでしょうか」
はじまったのはReoNaがrui(fade)と共に歌詞を綴った「FRIENDS」。穏やかな声色で歌唱すると、トイピアノを片手で弾き、カントリーナンバー「絶望年表」を披露する。
「絶望年表」の明るさは毎度ながら切なく響く。聴き手が自身の経験を心で共有したり、大げさな言い方をすると魂の交歓をしたり。ReoNaの半生と観客の心を軽やかに結ぶこの曲で、<静かに響くレクイエムのような優しい歌を歌いたい>と誓う。そして、静かに響くレクイエムのような優しいお歌、を次に。
「遠いどこか、あるところの、優しいふたりの、優しい物語。おおかみのナラ、にんげんのさよこ。おおかみとにんげん。いつまでも一緒にはいられない。それでもふたりは、笑って過ごし、出会えたことがなによりうれしい、出会えたことがなにより大切。一生の友だちという言葉があるけれど、ふたりはきっと、一生以上の友だち」
ハヤシケイ(LIVE LAB.)、毛蟹(LIVE LAB.)に続き、ReoNaにとって欠かせないLIVE LAB.のクリエイター・傘村トータ(LIVE LAB.)が描く童謡のような本ナンバーの絶望は、心のやわらかいところを刺激する。そして「さよナラ」とは違う<さよなら>の物語が描かれた「一番星」へ。荒幡が手掛けたピアノ伴奏のみのバラードは、スポットライトを浴びながらゆっくりと、優しく。一番星が静かに、そして力強く輝いた。
余韻を残しつつもバンドメンバーとの穏やかなやりとりが繰り広げられる時間へ。荒幡をチラりと見ながら「今朝、雨が降ってたでしょう? このツアー、ほぼ全箇所降ってるかもしれない……。サウジアラビアでも降ってましたから……」と話すと客席から笑いが起きる。思えば初日の午前中も雨模様であった。そんな祝福の雨が降り注いだこの全国ツアーを改めて振り返ると、メンバーの珍エピソードが続出。観客の笑いを誘った。
そのゆるやかな雰囲気から、優しく温かくちょっぴり切ない最新ナンバー「地球が一枚の板だったら」(NHK「みんなのうた」)に。萌黄のような明るいライティングが、虹へと変わる。雨の降らないなんて人生なんてない。でも雨無しでは人生なんてないと歌う「ライフ・イズ・ビューティフォー」だ。練りに練られたアレンジの中に響く<あーあ、生きてりゃいいのよ>というゆるめの一言が確かな光を与える。
「まだまだ今日という日を一緒に楽しみ尽くしてくれますか? 踊る準備できてますか。この時間だからこそ、今だけは、今だけは、今だけは、すべてを忘れて踊りましょう」と舞踏会への招待状。それまで座っていた観客が立ち上がり、10人のシャドウダンサーズと共に「シャル・ウィ・ダンス?」(『シャドーハウス』オープニングテーマ)でステップを踏み鳴らしてみせた。