音楽
秋アニメ『とあるおっさんのVRMMO活動記』OP・saji ヨシダタクミ インタビュー

秋アニメ『とあるおっさんのVRMMO活動記』OPアーティスト・saji ヨシダタクミさんインタビュー|作詞作曲を手掛けた「Magic Writer」に込めた「夢」への想いとは?

サウンドは明るく楽しいスイングロック。でも歌う時は真顔で電車に乗っている時のテンション!? 唯一シリアスになる2サビにも注目

――サウンドはホーンが効いたスイングロックで、ゴージャス感とワクワク感を感じます。

ヨシダ:10代の頃からスイングやモータウンビートが大好きでしたが、歌う時はテンション高めでした。でもこの曲では意外とテンション低めで淡々とやりました。無理やり元気にしようという気はないけれど、曲としての展開としては明るくメリハリがあるサウンドをアレンジャーさんと作っていきました。

――確かにボーカルは感情の激しい上下がなく、安定している感じがありますね。

ヨシダ:僕が歌入れしている時は、真顔で電車に乗っているイメージでした(笑)。誰が言ったのかは忘れましたが「人生の時間の大半はつまらないことだ」という言葉が好きで。人生の大半がつまらないからこそ、楽しいことがあった時にめいっぱい楽しめるわけです。僕も移動時間はつまらない時間だと思っていますが、音楽を聴いたり、読書できる時間が好きなので、皆さんにも同じシチュエーションで聴いてもらえたらいいなと思っています。学校・会社の行き帰りの時間とか。

――朝起きるために元気で激しい曲を聴くのもいいですが、この曲の歌声の心地よさやリスニング感は確かに通勤・通学の時にピッタリかもしれません。

ヨシダ:僕の声質自体がミッドレンジといって、真ん中が太くて、もったりするんです。なのでsajiの曲も、もったりしていて。もっと軽く聴いてほしいなと思いながら普段作っていますが、今回はチャレンジの1つです。

――コメディ要素や楽しさもありつつ、それだけではないアニメなので、改めてこの曲がマッチしているなと思います。

ヨシダ:昔だったらもっとテンションが高い曲にしていたかもしれないですが、主人公の人間性や、アニメで求められるのも導くような力強い曲ではないのかなと解釈した上での曲で、僕なりにチューニングした感じです。

――好きなフレーズやレコーディングで意識された点、聴きどころなどをお聞かせください。

ヨシダ:アニメのタイアップ曲は1セクション、1コーラスで使われることが多くて、この曲もほとんど1コーラスで構成した気がしますが、アニメでは流れない2サビだけ歌詞が重くなっています。1番のサビは応援しているけれど、2番のサビは子供の頃に思い描いた理想と現実が違って、つまらない大人になって世界が色をなくした気がすると。ここは主人公の独白シーンとして作っていて、僕が10代の頃に想像していた大人像で、先ほどお話しした中学時代に作った曲の大人パートもこういうイメージでした。モラトリアム期は「大人ってウソをつくし、スマートに生きようとしていてなんてズルいのだろう」と思いがちですが、自分が大人になって、スーツを着てつらい想いを1日して「うちのおやじは毎日これをやっていたのか」と思うと尊敬できたりして。

また大人になると社会における自分の役割も見えてきて、人によっては家庭を守るためと割り切って働いている人もいれば、仕事が楽しくて働いている人もいて、どっちがいいとか悪いなんて誰かが決めるものではなくて。僕も父親を尊敬できるようになったのは18、19歳の頃で、いまだに10代の頃に思っていたことを書いたりしていますね。

――曲の構成もA、B、サビそれぞれが劇的に転調したりせず、シンプルなのもいいですね。

ヨシダ:僕がアニメを使って遊びだしているのかも。サビってどんな存在なのかをいまだに考えながら作っていて。初めてアニメのタイアップ曲を作った時は経験がなくて、「アニメの曲はこういうもの」という先入観で作っていましたが、いろいろな作品を経て、OP曲とED曲の役割が見えてきたり、「この曲を聴いてくれている人はアニメがこういう展開になったから好きになってくれたのかな」とかもわかってきて。今はいろいろと試している時期で、もしかしたらまた昔に戻るかもしれません。今回はこういう曲でしたが、来年、再来年とまたアニメのタイアップ曲を作らせていただけることになったら、めっちゃ明るい超アニメっぽい曲を作るかもしれないし、「これはアニソンなのかな?」と思うくらい哲学的な曲を作るかもしれないし。ファンの皆さんと一緒に楽しみながら作っていけたらいいなと思っています。アニメの曲はみんなにとっての思い出でもあるので。

今、聴いたら「全然アニソンじゃないじゃん!」というような曲が逆にいつまでも記憶に残っていることもありますよね。90年代はそういう曲が多いかもしれない。EDではとりあえず雨が降っている、みたいな(笑)。曲をアニメで表現しようとしたら、雨を降らせて下を向いて歩かせるしかない。でも曲はめっちゃいい。それもアニソンなんですよね。作品とのマッチングはやってみないとわからないし。

――ヨシダさんにとってアニメタイアップは未知との出会いであり、どんな曲が生まれるのかという楽しみもあるのでは?

ヨシダ:僕はお話をいただく時、「原作を読むまでどんな曲になるのか、わかりませんよ」とディレクターにいつも言っていて、「とりあえず原作を読んでみます」と。

――でもディレクターやプロデューサーがsajiにお願いするということは、責任は選んだ側にあるわけですよね(笑)。

ヨシダ:そんなふうに気楽には考えられません(笑)。でもsajiで良かったのかを判断するのは皆さんなので、そこで途切れてしまえば僕のせいですし。こうして続けていただけることは本当にありがたいですし、楽しんでやらせていただいています。

――ここまでのお話以外でみなさんに伝えたいことはありますか?

ヨシダ:夢は無理して持つものではないし、心の中にぼんやりと芽生えたものであっても僕らにとっては夢だと思っていて、もしやりたい時が来たらその芽を伸ばして開かせたらいいのかなと思っています。人目につくところで咲く花もあれば、人知れず自分の中で咲かせる花もあると思うので、それぞれの理想を書いてみてほしいなというのがタイトルの意味になっています。 

僕は中学生でバスケットボールをやっていましたが、部活の顧問に音楽をやりたいと言ったらめちゃくちゃ怒られました。「夢みたいなこと言ってるな」と言われたし、親からも否定されました。でも、やりたいことを淡々と積み重ねていくうちに、見つけてもらえて音楽業界に入ることができて、それが今につながっていて。どんな夢の始まりもみんなに祝福されることはあまりないけれど、「そうだよね」とあの頃、あきらめなくて良かったなと思っています。ぼんやりした夢だったとしても、人に知られるのが怖かったら言わなくていいので、夢の芽生えは大切に持っていてほしいなと思います。

MVは夏の青春っぽいイメージ。バンドメンバーが出演しないわけとは?

――「Magic Writer」のMVは、夏っぽくて、青春感満載ですね。

ヨシダ:今までのMVは歌詞に沿ったストーリードラマっぽい映像が多かったんですが、今回、ここまで曲と映像をハズしているのがおもしろいですよね。アニメのタイアップ曲の場合でも、アニメとはまた別のものとして制作されていて、例えば前作の「フラッシュバック」(アニメ『AYAKA-あやか-』ED曲)では男女のダンサーにコンテンポラリーで表現してもらったり、「スターチス」(アニメ『Helck』第1クールED曲)ではキャストの方ひとりが「スターチス」という世界の中にいて、決して触れることはできないけど、近くにいるような距離感でしゃべっているとか、歌詞の世界を体現するMVがこれまで多かったんですが、今回は映像として明るく、さわやかな方向で作ってくれているのが実験的でおもしろいなと思います。

MVは1作目からずっとスタッフの方にお任せして作っていただいています。僕らの中でも映像にした時のイメージはありますが、他の方が描くイメージをお聞きすることも、提案していただいたものを見るのも大好きなので。

――最近、バンドの皆さんがMVに登場されていないような気がします。

ヨシダ:そうですね。僕らがあまり演奏シーンを入れるのが好きじゃないこともあって(笑)。ドラマパートだけで完結することもsajiの場合は多くて。他のロックバンドと一番違うのは演奏シーンのアリ、ナシをリスナーの方もあまり意識されていないようなので、僕らがあえて出演しないほうがいいんじゃないかなと思って、「出ない方向でお願いします」と(笑)。

アースの持つスキルの中でヨシダさんが欲しいものは?

――ここでアニメにちなんだ質問を。アースは「料理」「木工」「遠視」「製作の指先」「弓」「蹴り」「薬剤」「風魔法」「隠蔽」「身体能力向上」「鍛冶」などの複数のスキルが使えますが、使えたらいいなと思うスキルはありますか?

ヨシダ:欲しいなと思うスキルはいろいろありますが、リアルに生きる人間とすれば「料理」でしょうか。僕は食が唯一の趣味で、食べることも料理をふるまうことも好きなので。誰かに喜んでもらうことが好きだから音楽をやっている部分もあるので、料理も喜んでもらえると思うので欲しいスキルです。

――既に料理が好きなのであれば、料理のスキルは必要ないのでは?

ヨシダ:もっと応用を効かせたいんです。料理にはレベルアップという概念がないですが、世の中にあったらおもしろいと思うんですよね。「もっとスキルが上がれば、その料理が作れるな」とか。

――料理の技術を数値化するのは難しいですからね。

ヨシダ:人間って数値化されるとヘコむ一方、やる気が出るのも事実で。アイドルの順位付けなんかも本人にとってはつらいかもしれないけれど、推している人は燃えるわけで。

――ヨシダさんは手先が器用そうで、何でもできそうですね。工作とか。

ヨシダ:確かにモノ作りは大好きですね。

――まさにアーティスト界のアースですね。

ヨシダ:いえいえ。僕は今の人生を主軸に置いて生きているつもりなので(笑)。どちらかといえば、うちの兄貴のほうがアースっぽいかも。多趣味だし、働いているけど世界中に写真を撮りに行ったり。元々は目立つような人ではなく、おとなしいけど、学校の人からは勤勉で優秀な子供だと思われていて。僕は3歳下で、兄貴の卒業と入れ替わりで入学したら「兄とまったく違うやんちゃ者が入ってきた」と、中高でさんざん言われました(笑)。

――本作に登場するような、VR(仮想現実)やMMO(大規模オンラインゲーム)をプレイされたことはありますか?

ヨシダ:うちのメンバーはゲームが大好きなんですが、僕がゲームをやっていたのは昔で今のゲームはまったくわかりません。Nintendo Switchを去年、初めて買って、みんなで『マリオカート』をプレイするためにウキウキでプロジェクターからコントローラーまで僕が全部そろえて。それなのに10回くらいレースをやっても一度も勝てなくて。その日以来やっていません(笑)。

――コンシューマーゲームをほとんどやられていないのであれば、オンラインゲームもプレイされていませんよね?

ヨシダ:出来ないですね。でもオンラインゲームにハマらなくて良かったなという出来事があって。20歳の頃、ガラケーで『ドラゴンクエストモンスターズ』を遊んでいましたが、1回本編をクリアしないとオンライン対戦ができない仕組みになっていて。早くクリアしたくて5千円くらい課金して本編をクリアして、「俺強えー」状態でウキウキしてオンライン対戦に臨んだらレベルMAX、パラメーターカンストのプレイヤーばかりの魔境みたいなところで、ボコボコにやられて。こんな人たちには勝てないと、課金をやめました(笑)。大地君は無理のない範囲でプレイしているので健全だなと思います。

あと友人にFPS(ファーストパーソン・シューティング=一人称視点のシューティングゲーム)にハマった人がいて、普段はめっちゃいい人なのに、一緒にゲームすると人がガラっと変わって。チーム内に足を引っ張る人がいるとキルレ(キルレート=ゲーム内で敵を倒した回数を倒された回数で割った数値)が下がるので、僕も「キルレ下げるね」と言われて。その言葉がしばらくトラウマになりました(笑)。

僕はゲームをやっているのを見たり、話を聞くのは好きですが、自分ではやらないですね。『どうぶつの森』が流行っていた時も周りがみんなやっていたので、疎外感があって。でも今から自分も参加しようと思っても、追いつける自信がないので、あえてやらない人を演じようと(笑)。初めましての方をいかに優しく受け入れられるのかはゲーム、アニメ、音楽などエンタメ業界の課題かもしれませんね。

(C)椎名ほわほわ・アルファポリス/とあるおっさんのVRMMO活動記製作委員会
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