『アリスとテレスのまぼろし工場』岡田麿里監督インタビュー|「キャラクターたちの感情と設定が重なるようにしたいと思っていました」
9月15日(金)より、MAPPA制作のアニメ―ション映画『アリスとテレスのまぼろし工場』(以下、本作)が全国の映画館で公開となりました。
本作は2018年に公開された『さよならの朝に約束の花をかざろう』で監督デビューを果たした岡田麿里さんの最新作。見伏という町に閉じ込められ、14歳のまま、時まで止まってしまった少年少女たちが、未来へともがいていく物語を描いています。
映画公開から話題になっている本作について、岡田監督へのインタビューを実施。今回は前作『さよならの朝に約束の花をかざろう』に続いて監督を務めることを決意したきっかけや、五実役・久野美咲を当初から当て書きしていたことなど作品に関する裏話を中心にお話を伺っています。
また、岡田さんの作品の魅力のひとつとなっている、男女の恋愛描写についてのこだわりも必読です。
これまでのインタビュー
再び監督を務めるきっかけとなった堀川憲司さんと東地和生さんからの言葉
――前作『さよならの朝に約束の花をかざろう』は「岡田監督の100%を出した作品を」というスタートだったかと思います。まずは、その100%を出し切った後に再び本作で監督をやろうと決めた経緯をお願いします。
岡田麿里監督(以下、岡田):『さよ朝』は凄く楽しかったし得るものもいっぱいありましたが、アニメーション監督のお仕事は正直難しかったです。『さよ朝』は現場も知らず、怖いもの知らずだったからこそ飛びこめたんだろうなと。もう一度やってみたいという気持ちもありましたが、「私にできるのだろうか」という気持ちの方が強かった。というより、またやらせていただける機会があるとも思っていませんでした。
だけど、『さよ朝』を作らせていただいたP.A.WORKSの堀川憲司社長から「岡田麿里にまた監督をやらせてみようと思ってくれる会社が生まれるような作品にする」という目標があったと聞かされたんです。すごく感動してしまって。あとは『さよ朝』でも本作でも美術監督を務めてくれた東地和生さんが「もう一度監督をやるべきだ」と言ってくれたことも大きかった。『さよ朝』では私に足りないところで東地さんには迷惑をかけたはずなのに、そう言ってくれたことが本当に嬉しかったんです。
二人の言葉に後押しされて、監督というものをあらためて考え出した時に、MAPPAの大塚学社長から今回のお話をいただいて。本当に、驚くほどタイミングが重なったんですよ。きっと堀川さんや東地さんの言葉がなかったら勇気が出なかったと思います。
――『さよ朝』の時の経験は本作ではどんなところに活かされていますか?
岡田:本作では『さよ朝』の時のメンバーがメインスタッフとして入ってくれているのですが、私としてはアニメの現場は多くの人がひとつの作品に関わるので、同じ成功体験や失敗の経験の積み重ねがある分、同じ人たちとお仕事を続けることに強みがあると思っています。
新しい座組だと刺激はあるかもしれないけれど、そこの関係性がゼロになってしまうのがもったいないと感じて。やっぱり熱のある映像って、どうしたって人と人がぶつかりあわないと作れないんですよね。相手の言葉の真意をはかりかねて力をセーブしたりとか、自分のところだけでなんとかしようと思ったりとか、そんなちょっとしたことが命取りになってしまう。
今回はみんながひとつの空間で作業できたことから、意思疎通しながら制作に打ち込めました。困った時のアイディアがその場で湧いてくることもありましたし、物語の尺が長くなって切らなければならなくなった時も、絵の強度やキャラクターたちの表情、背景で語れることがあると気づかせてもらえたことがとても大きかったんです。
それはやっぱり、これまで一緒にやってきた人たちとの信頼関係があるからこそで、本当にその喜びたるやでした。
――そんなことが……。また、本作の原案とも言える作品が過去にご自身が執筆された小説とのことでした。再び挑戦しようと考えた理由もお聞かせください。
岡田:過去に書けなくなってしまった理由を知りたいと思ったんです。物語の最後までの展開はもうわかっているし、プロットは初めから出来ているような状況だったのに、何故か書けない。なんでなんだろうと思っていて。きっと自分の中で何かがハマらないんだろうと考え忘れようとしたこともありましたが、どうしても忘れられず、ことあるごとに存在を思い出していました。
けれど今回、脚本にすると書けたんです。その時に「私ってやっぱりアニメの脚本家なんだな」って思ったりしました。先ほどの信頼関係についての話題とも少し被ってくるのですが、こういう実力のあるスタッフなら、このキャラクターの表情はどう描いてくれるのかな? みたいな想像から物語が浮かんでくることがあって。
脚本や小説を書いているとザックリ脳内で映像を回すことがあるのですが、アニメスタッフの方はそれを突き詰めた才能を持っている方ばかり。そんな人がこのシーンをどう表現してくれるのかと想像すると、私もその部分を描きたくなってしまう。
――アニメの脚本が完成したから今回の小説も出されたんですね。
岡田:小説の仕事をいただいた時点で絵コンテは完成していたし、色々な設定や絵も上がってきている段階でした。それをチェックしたら、自分が想像していたよりも驚くことばかりで。みんなで話し合ったこともあって完成度があがっていました。
そういう過程を見ている内に「小説……書けるんじゃない?」って思い始めました。きっと完成したものはアニメの脚本家が書く小説になったんじゃないかなって思っています。