この記事をかいた人
- 胃の上心臓
- 拗らせ系アニメ・ゲームオタクのライター。ロボットアニメ作品やTYPE-MOONの作品を主に追いかけている。
――彼らは中学生ですが、車の運転をしていたりします。これは大人の権利とのことですが、車の運転以外にしているキャラクターもいるのでしょうか?
岡田:大人になれないかわりに、ひとつだけ権利をもらったという感じですね。変わらないで生きるのにも、年齢が違うことで不公平が生まれますから。子供たちが集まって何にしようかと会議をした結果、「田舎は車がないと何もできない」から決まったと(笑)。なかには、パチンコとかお酒のほうが良かった子もいるでしょうね。
――なるほど。そういう背景があったんですね。公式サイトのコメントで「この作品を作っている理由の一つに、自分が子供の頃に憧れた邦画や劇場アニメの空気を、現代の文法で作ってみたいというものがありました」とも語られています。岡田監督が憧れた作品とは具体的にどんな作品ですか?
岡田:私はどちらかというと単館系の作品であるとか、邦画でもATG(日本アート・シアター・ギルド)作品とかが好きです。やっぱり映像の中に空気というか、感情の情報量があるんですよね。本作もそういう作品にしたいと思っていました。
『さよ朝』を作った時は自分が子供の頃に憧れたアニメ作品みたいな漠然としたことを言っていたのですが、今回は明確に中高生だった頃に憧れた作品なんです。石井さんも何かのインタビューであの頃の自分が好きな絵を書けたと言ってくださっていて、近い感覚を共有してくれていたんだなっていう実感があります。
特に作品から感じられる生命力が凄い作品にしたかったので、この鬱屈とした屈託のある世界である種の爽快感と言いますか、ドライブ感をどう出していくかは考えたところです。
――映像に込められた情報量というと、正宗と睦実のキスシーンでは雪が溶けて雨になったり、五実の影響でひび割れ発生するなど確かに映像から読み取れるものはあったように感じました。
岡田:キャラクターたちの感情と設定が重なるようにしたいと思っていました。キスシーンはやっぱり取り扱いが難しいので、ともすればサービスシーンになってしまう。だから何かちゃんと意味がある、作品の核になるものに挑戦したかったんです。きっとご覧になっていただければ、あそこが物語のポイントになっていることはわかってもらえると思います。
――本作に限らずですが、恋愛描写でキャラクターたちの心の機微を描く時に気を付けていることはあるのでしょうか?
岡田:恋愛って身近なもののようでいて、かなりファンタジーだと思うんですよね。だって、誰もが物語のような恋愛に憧れているはずなのに、なんで素敵な恋愛ができないんだろうって思うじゃないですか(笑)。
――言われてみると確かに(笑)。リアルな人対人の恋愛より、物語の中で描かれている恋愛に憧れる人は多いように思えます。
岡田:多分みんながみんなではないとは思うのですが、それぞれに恋愛に対して要望や希望はある。けれどそういう人同士がくっついても何かが上手くいかないだから恋物語って、この人とこの人のめぐり合わせだからこその物語に自然となると思っています。
物語の都合でキャラクターたちの恋愛感情を動かさないことは特に意識しています。プロットをザックリ切っていたとしても、「この人はこの人に好感を持つかな?」みたいな疑問が出た時に無理矢理好感を持たせるイベントを入れてしまうと、どうしても違和感が出てきてしまうんです。やっぱり人を好きになる気持ちって理屈じゃないので。
美少女系アニメの脚本をよく書いていた時代は、普通の男の子が主人公になることが多かったんです。そうすると、打合せで「彼が何人もの女の子に好かれるのは何故なのか」という議題になったりしたんです。でも、それって絶対にない話ではないと思うんですよね。優しいからみたいな単純な理由ではなくて……いや、逆にもっと単純なのかな。どうしても惹かれあってしまう相性みたいなものがあると思っていて。だから恋愛を描くときは、キャラクターをとことん作りこんでいきたいなと思っています。
本作でもこの激しい世界の中で、このキャラクターたちだからこその恋物語になっています。ぜひ劇場でご覧になっていただければ嬉しいです。
[取材・文/胃の上心臓]
拗らせ系アニメ・ゲームオタクのライター。ガンダムシリーズをはじめとするロボットアニメやTYPE-MOONを主に追いかけている。そして、10代からゲームセンター通いを続ける「機動戦士ガンダム vs.シリーズ」おじ勢。 ライトノベル原作や美少女ゲーム、格闘ゲームなども大好物。最近だと『ダイの大冒険』、『うたわれるもの』、劇場版『G-レコ』、劇場版『ピンドラ』がイチオシです。