須堂とリサのつながりをより強くするために加えた“妹”の存在│アニメ『AIの遺電子』佐藤雄三監督インタビュー【連載第6回】
トゥー・フィーをリサの妹にした理由
――アニメは原作と同様に須堂光の物語へと収束していきましたが、その前段階の第11話「トゥー・フィー」はリサの妹トゥー・フィーのお話でした。リサに妹がいたというのは、アニメオリジナルの展開ですよね?
佐藤:トゥー・フィーは原作ではかなり序盤に登場して(原作第3巻第29話「トゥー・フィー」)、しかもリサではない別のキャラクターの妹としてやってきます。ですが、後半で須堂のお話だけを転がすとリサが置いてけぼりになってしまうので、二人のつながりをもう少し強くしたいと思い、トゥー・フィーをリサの妹にして後半に持ってきたんです。
――「トゥー・フィー」の電脳の話は、須堂の母が犯した電脳のコピーの話にもつながりますよね。
佐藤:それも大きな理由でした。トゥー・フィーの姉をリサに置き換えたほうが、電脳のコピーがなぜ犯罪行為で、なぜ禁止されているのか、よりわかりやすくなると思ったんです。第1話「バックアップ」もそうですが、この作品は電脳のコピーに関するお話が全体でもかなりのウエイトを占めています。須堂も、コピーとはいえ母親なのだからとコピーされた彼女の電脳を探しにいこうとする。この落としどころに持っていくには、やはりきっかけがあったほうがいいという話になり、そうしたらトゥー・フィーのお話がぴったりハマったという流れでした。
――すごい組み替えだなと思いました。
佐藤:これも山田先生のご協力に助けられたという感じですね。金月さんと相談しながらアイデアを提案して、山田先生がさらにアイデアを加えてくださるという、とても密な脚本会議ができました。ただ、リサに重い過去を背負わせてしまったので、ここで須堂があっさり去ってしまっていいのかという別の問題も出てきてしまって(笑)。それで加えたのが、須堂がリサに電話をするシーンでした(第12話「旅立ち」)。
須堂が瀬戸と話しているシーンにあった、母親が非人道的なことをする側になっていても受け入れられるかという問いも重要なキーワードになっています。『RED QUEEN』(『AIの遺電子』の続編『AIの遺電子 RED QUEEN』)につながったらいいなという思いで入れたので、これからの須堂の行方、母親の行方に興味のある方はぜひ『RED QUEEN』のほうも読んでいただけたら嬉しいですね。
――本作の画づくりではどのようなことを大事にされたのでしょうか?
佐藤:原作のニュアンスを可能な限り再現することを心がけました。画を濃くしすぎないこと、背景を作り込みすぎないことですね。
――背景を作り込みすぎない、というのは?
佐藤:山田先生もおっしゃっていましたが、この作品は世界観を見せる作品ではないんです。SFによくある、設定を見せるための作品ではなく、先ほどお話ししたように人種が一つ増えたような未来社会で起こる人間ドラマが中心の作品です。なので、あまり細かいSF設定にはこだわりすぎないようにしました。
――背景や美術としてSF世界、未来の世界であることはそこまで意識しなかったと。
佐藤:ただ、原作には引き絵の街の全景がないんです。アニメではぱっと見てこの世界が未来の世界であることを伝える必要があるので、未来世界であることがわるイメージボードを作って、それをベースに美術を進めていきました。
美術は綺麗に見せたかったので、美術も背景原図も力のある方にお願いしています。川尻善昭さんや清水健一さんといった、別作品で監督をやっているような方が絵コンテで参加してくださったのも、安定感につながりました。
――映像面で個人的にすごいなと思ったのが、第5話「調律」でした。ピアノの演奏シーンはロトスコープですか?
佐藤:そうです。音楽ものだったら最初に3DCGで作ってもらうんですが、ワンエピソードの演奏シーンなので、実際にピアニストの方の演奏を録らせていただいて、それをアニメーションに落とし込みました。綺麗に仕上がってよかったです。
――その段階で絵コンテは決まっているものなのでしょうか?
佐藤:絵コンテはできていました。アングルはすべて決まっていて、曲のどこを使うかも仮編集で決めておいたんです。ロトスコープがどれだけ大変かはよくわかっているので、「この話数は大変だから早めに準備しておいてください」と制作さんにお願いして、第5話は先行して進めてもらいました。
――楽曲のセレクト(バッハ「パルティータ第1番 第7曲ジーグ」、ベートーヴェン「ピアノソナタ第14番『月光』第3楽章」)も通好みだなと。
佐藤:これは山田先生のこだわりですね。ユウタ君のモデルはグレン・グールドなのだそうです。
――そうなんですね! グールドも型破りなピアニストとして有名です。
佐藤:それを実際に演奏してくださったピアニストの方にもお伝えして、何パターンか弾いていただきました。ユウタ君の施術後の演奏はまたニュアンスが変わっているので、そういう細かい部分にも耳を傾けていただきたいですね。
――監督は、『AIの遺電子』のようなヒト、ヒューマノイド、産業AIが共存、共栄する世界は実現可能だと思いますか?
佐藤:今も遺伝子の解析が進んでいますし、さらに技術が進んで脳の仕組みが解析されれば、脳の再現はできるのかなと思います。ただ、それは僕がいなくなったあとの世界だと思うし、それまで人類が保てばいいなと(笑)。
――確かに、だいぶ先になりそうな感じではありますよね。
佐藤: AIも間違いなく進化していますし、将棋だってもはや人間では勝てないとさえ言われていますよね? なんの違和感もない「会話」程度だったら、もっと早くにやってくるのかなとは思います。
――ヒューマノイドを作る意味はあると思いますか?
佐藤:ヒューマノイドに関しては、そこを目指して作るというよりも、“結果”なんだと思います。『AIの遺電子』の世界でいえば、AIが人権を持つほどに進化しすぎてしまった。ヒトがそうしたのか、AIがそうしたのかはわかりませんが。ただ、人類の一人として人権を与えて新たな人間として存在させるというのは、現実にくるかどうかと言われたら、なかなか難しいのかなと思います。
――ありがとうございます。では最後に、ここまで応援してくださった視聴者の皆さんにひと言いただけますでしょうか。
佐藤:オムニバス形式なので、どこからでも楽しめる一方で、途中飛び飛びになった方もいらっしゃると思います。そういう方は、このあと発売されるBlu-ray BOXや配信で、ぜひ全話を通して見ていただきたいです。各話がなんとなくつながって見えるように、全体のテーマや次の話数を匂わせるセリフをそれぞれのエピソードにちりばめているので、それをきちんと拾うとより楽しめると思います。
TVアニメ『AIの遺電子』作品情報
■配信情報
U-NEXT、アニメ放題、dアニメストアほか、各配信サイトでも配信中!
イントロダクション
これは、私たちの未来の物語――。
21世紀に始まったAIの圧倒的な進歩は、社会の発展に寄与する一方、高い知性を持つ機械を道具として使う是非を、人類に突きつけた。
そして22世紀後半。
人々は「産業AI」とは別格の存在として、人権を持った「ヒューマノイド」を当たり前に受け入れ、共に暮らしている。
須堂光は、ヒューマノイドを治す新医科の医者として、ヒトとAIの共存がもたらす「新たな病」に向き合っていく。
時に、裏の顔も使いながら……。
キャスト
須堂 光:大塚剛央
樋口リサ:宮本侑芽
ジェイ:岩中睦樹
カオル:高森奈津美
スタッフ
原作:山田胡瓜(秋田書店「少年チャンピオン・コミックス」刊)
監督:佐藤雄三
シリーズ構成・脚本:金月龍之介
キャラクターデザイン・総作画監督:土屋 圭
サブキャラクターデザイン:尾崎智美
色彩設計:中内照美
美術設定監修:矢内京子
美術設定:田中 涼
美術ボード:河野 羚
撮影監督:畑中宏信(グラフィニカ)
モニターグラフィックス:加藤道哉(サイクロングラフィックス)
編集:塚常真理子
音楽:大間々 昂、田渕夏海
音響監督:小泉紀介
音響効果:山谷尚人(サウンドボックス)
音楽プロデューサー:水田大介
音楽制作:日音
音響制作:Bit grooove promotion
アニメーション制作:マッドハウス
製作:AIの遺電子製作委員会2023
主題歌情報
オープニングテーマ:「No Frontier」/Aile The Shota
エンディングテーマ:「勿忘草」/GReeeeN