この記事をかいた人
- 小川いなり
- 会社員からライター、編集者の道へ。アニメ、漫画、特撮、映画など、手当り次第に鑑賞します。
――ここからは、SKaRD隊員を演じるキャスト陣について聞いていきたいと思います。田口監督から見たヒルマ ゲント役の蕨野友也さんはどんな方ですか。
田口:最初の面談から、蕨野さんはゲントそのものでした。どこまでもストイックな性格で「とにかく物語を良くしたい」、「役を深掘りしたい」と考えている人です。役に決まる前から、この人に任せて大丈夫だという安心感がありました。撮影中も溢れ出るエネルギーでみんなを引っ張ってくれてありがたかったです。ゲントとエミが出会うシーンを撮った調布のカフェに行って、暗くなるまで喋ったこともありました。そこで話した内容をあとから脚本に取り入れたんです。撮影と並行して、蕨野さんと二人三脚でストーリーを磨き上げていきました。
――放送前のインタビューで蕨野さんに伺ったところ、「田口監督にどこまでもついていく」という会話もあったようですね。
田口:「あなたが面白いと思うことは全部自分が再現するから」と頼もしいことを言ってくれました。メイン監督という肩書きですが、担当回以外の現場には基本行かないんです。なので、役者が繋いでくれることを信じるしかありません。今回はシリーズ構成と全ての脚本打ち合わせに参加して、なるべくキャラクターの不整合がなくなるように努めましたが、どこかしらに現れる違いは大体役者のみなさんが消化することになります。特に蕨野さんがその辺りを踏ん張ってくれていたらしく、SKaRDのキャラクターたちに一貫性を持たせることができたんだと思います。
――アオベ エミ役の搗宮姫奈さんは、田口監督から「エミっぽい」と言われたことが印象に残っているとお話されていました。
田口:何人かの候補の中でも、彼女が一番エミっぽかったですね。最初にプロフィールと過去作品を見て、格闘もできるし、絶対に根性があると思いました。そのうえで、どこか腹を割らない子だなと思ったんです。会話していても、意識は別のところにあるというか。
――搗宮さんの演技も相まって、エミにはいわゆる王道ヒロインとは異なる魅力があると思います。
田口:エミの内面は、ここからどんどん深掘りされていきます。本人にも14話を撮影するタイミングで「ここからが重要だ」と伝えました。その頃には、蕨野さんとも熱い議論を戦わせていたし、加藤雅也さんから先輩としてのお話も聞いていたようです。14話から最終回にかけてのエミを作っていく過程は素敵な時間でしたね。
――バンドウ ヤスノブ隊員役の梶原颯さんは、第6話で凄まじい肉体美を披露していましたね。
田口:メカニックキャラのはずが、なぜか一番たくましいという(笑)。基本的にはみんな防衛隊のエリートという設定なので、「体が出来上がっている人を候補に置いてほしい」とキャスティング担当の方にはお願いしていました。自衛隊の方々は、やはりとんでもなく鍛えていますから。ただ梶原さんは「自衛隊もそこまではやらないだろう」という笑っちゃうくらいのマッスルだったんです。これは得難いキャラクターだと思いました。
――ヤスノブ隊員といえば、関西弁のセリフ回しも特徴的です。
最初は標準語で話すキャラだったのですが、台詞回しがイマイチ上手くいかないと話し合いをしていた時に、本人の地元が兵庫県だと聞いて「セリフを地元の関西弁で喋ってみて」と言ったら、すごくナチュラルになったんです。「これだ!」と思ったので、設定を北海道出身から兵庫県出身に変えました。実は脚本に書いてあるセリフは、標準語のままなんです。関西人にしかわからないニュアンスを本人に変換してもらって、ヤスノブの関西弁キャラが出来上がりました。第6話を担当した辻本監督も大阪府出身なので、面白くヤスノブを描いてもらえたと思います。……そしたら、その回に僕も出演してほしいと言われて(笑)。
――辻本監督のアイデアだったのですか!
田口:辻本監督はスタッフをエキストラとして使うのが好きな方で、『THE NEXT GENERATION パトレイバー 』ではご自身もエキストラとして出演していました。『ウルトラマンX』で田口組に出演してくれましたし、今回も快諾したんです。当日は撮影の最初から行ってシーン全体の段取りをやったあと、数時間待機でした(笑)。放送ではカットされていましたが、実はアドリブでセリフもあったんです。思わずヤスノブが「おはようございます」と言ってしまい、僕が引き気味に挨拶を返して去っていくという流れでした。ふたりの間では気に入っていたのですが、あの回は尺が大変だったのかな(笑)。『ウルトラマンブレーザー』の世界の住人になれて嬉しかったです。
――素敵な裏話が聞けました。ミナミ アンリ役・内藤好美さんのキャスティングはどのように?
田口:キャスティング担当に「良い人がいる」と言われて、内藤さんのプロフィールと動画を見たらイメージにピッタリでした。真面目でちょっと不器用な性格はアンリそのままです。空手の黒帯も持っていたし、ほぼ迷うことなく決まりました。
――キャスティングさんの目が光っていたと。
田口:結果的に20代前半がいない現場になったので、本人は周囲との経験の差に悩んでいた時期もあったようです。それが結果隊員たちとの関係性にもハマっていた感じもします。叩き上げられつつも上手くいっていなかったエミ、やる気満々だけど燻っていたゲントとテルアキ、新米の雰囲気を持ったヤスノブとアンリ。SKaRDは作られたばかりのチームなので、隊員同士もずっと組んでいた仲間ではないわけです。本当の意味で、キャストもキャラクターと一緒に成長してくれたと思っています。本当なら、アンリというキャラクターにはもっと手をかけたかったですね。僕は主にゲント、エミの回を担当していて、アンリ回は大体違う監督がやっています。特に、第9話「オトノホシ」は、脚本の段階から「これやりたいなあ……」と思っていました。
――ナグラ テルアキ役の伊藤祐輝さんはいかがですか。
田口:中川和博監督が前に違う作品でご一緒したらしく、良い俳優さんだと事前に聞いていました。ゲントとはまた少し違う方向で、演技について真面目に色々なことを考えていらっしゃる方です。面談では向こうから怪獣への熱い思いを語ってくれて、その場ですぐに「この人は間違いない!」と思いました。現場ではゲントが力強く引っ張っていく中で、まとめ役を担っていただいて。最後まで副隊長らしく、みんなを優しく包んでくれていました。
――お話を伺っていると、俳優さんご自身が素のままでSKaRD隊員ですね。
田口:そうなんです。プライベートで集まったときは「カメラを回せばスピンオフになるんじゃないの?」と笑っちゃうくらい、どこまでもSKaRDでした。
――『ウルトラマンブレーザー』も後半戦を迎えています。今後の見どころを聞かせていただけますか。
田口:本作はコミュニケーションをテーマにしていますが、全体を流れるストーリー自体はそこまで複雑にしていないつもりです。謎解きや伏線回収というより、登場人物が困難な状況をどう乗り越えていくのかを楽しみにしていてください。一方で1話完結の短編SFという形式は、ずっと貫いています。様々な要素が混ざり合い、最後にはドンと盛り上がるので目を離さずに見てほしいですね。
――後半戦も楽しみにしています! 最後に、ウルトラマンシリーズの仕事を続けていて良かったことがあれば教えてください。
田口:今年で10年目なんですよ。『ウルトラマンギンガS』や『ウルトラマンX』を今観たら、自分でも「若いなー!」と思います。その年の出来事や想いが作品に反映されているし、積み上げてきた経験もそのままフィルムに焼き付いていて、自分自身を写したアルバムのようです。「ニュージェネレーション」という歴史の1ページに加われたことを光栄に思うし、本当に楽しい10年間でした。
――ありがとうございました!
[取材/田畑勇樹 文/小川いなり 写真/MoA]
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