秋アニメ『とあるおっさんのVRMMO活動記』監督・中澤勇一さん×シリーズ構成・待田堂子さんインタビュー|キーとなるのは「モノ作りシーンとアースのモノローグ」。一番意識したのは「話を必要上に進めないこと」!?
冴えないおっさんが新しくスタートしたVRMMO(仮想現実大規模多人数同時参加オンラインゲーム)の世界で、独自のプレイスタイルを貫き、目立たずにひっそりと楽しもうと思っていたら……なぜか一躍人気者に!?
そんなストーリーが展開する、TVアニメ『とあるおっさんのVRMMO活動記』(原作:椎名ほわほわ アルファポリス刊)が、10月よりTOKYO MX、BS11ほかにて好評放送中です。
放送を記念し、アニメイトタイムズでは、キャストやスタッフへのインタビュー連載を実施中。今回は、これまで様々なアニメで作画監督や原画などを担当し、本作が初監督作品となる中澤勇一さんと、多くのアニメ作品のシリーズ構成や脚本を手掛けてきた待田堂子さんの対談が実現!
おふたりが本作に携わることになった経緯や制作秘話のほか、先日放送された第1話の振り返りや、第2話そして今後の見どころなどを語っていただきました。
ギャグが多めと思いきや、アクションも豊富。『とあるおっさんのVRMMO活動記』は異質だけどおもしろい作品
――『とあるおっさんのVRMMO活動記』の原作を読んで感じた印象や、魅力に感じた点をお聞かせください。
中澤勇一監督(以下、中澤):原作を読ませていただいて感じた第一印象は「不思議な作品だな」と。これまでいろいろな「異世界もの」の作品に関わってきましたが、(本作は)主人公自身は危険な目に遭うこともなく、ただゲームをプレイしているだけで。そして何でもできるという部分や、決まったヒロインがいないことなど、異質だけどおもしろいなという印象を受けました。アクションも豊富で、コミックのほうではハードな描写もあったので、楽しそうだなと興味をひかれました。
シリーズ構成・待田堂子さん(以下、待田):小説が28巻も出ている長寿な人気作とお聞きして原作を読み始めたら、田中大地という38歳のおじさんとゲーム内のキャラであるアースの見た目のギャップや、大地本人は会社員でそれほどログインできないからと、ちまちまやろうと思っていたのに、本人の思惑とは裏腹にどんどん有名になっていくところがおもしろいなと思いました。
また、ギャグが多めなのにアクションシーンが結構あったり、シリアスな面もあって、ゲーム内での大地の心理も潔くて、納得できる部分もたくさんあったので、おもしろさを感じました。
――(中澤監督へ)今回、監督のオファーが届いた経緯と感想をお聞かせいただけますか?
中澤:僕は今、大阪を拠点に活動しているアニメーターで、コロナ禍に入るとリモートでの仕事も増えて、演出のお話をちょくちょくいただくようになりました。そんなとき、突然、監督のお話をいただいて。今回アニメーションを制作されているMAHO FILMのスタッフさんとは、15年以上お付き合いがあって声をかけていただきました。僕は監督を務めるのも初めてですし、所属しているアニメアールとも相談しましたが、原作を読んだり、脚本とシリーズ構成が待田さんとお聞きして、おもしろそうだなと思って、監督を務めさせていただくことになりました。
――(待田さんへ)脚本とシリーズ構成のオファーが届いた経緯を教えてください。
待田:私はMAHO FILMさんとは今までお付き合いがなかったので、日本脚本家連盟のほうへご連絡いただいて。作品名や内容をお聞きした時、以前、『Master of Epic』というゲームのアニメ(『Master of Epic The Animation Age』)でお仕事をさせていただく際、ゲームをプレイしたことを思い出して、懐かしさを感じました。本作は、原作がしっかりしていたので、原作にただのっかっていけば、おもしろいものになりそうだなと思って、お引き受けしました。
本作のキーは「モノ作りシーンとアースのモノローグ」。一番意識したのは「話を必要以上に進めないこと」!?
――アニメ化するにあたって、原作の椎名ほわほわ先生や編集サイドから、何かオーダーはありましたか? 意識された点などをお聞かせください。
中澤:原作サイドからは主人公の経緯やアイテムなどのモノ作りをするシーン、そして料理を作るシーンがキーになると。あと、モノローグが多いので、そういう部分も活かしていただけたらというお話をいただいたので、モノローグを多用して主人公にしゃべらせつつ、物語はちょっとずつ進めていこうと思いました。
監督をする上で念頭に置いていたのは「話を必要以上に進めない」ということです。1クールの作品ではありますが、総集編みたいなものにはしたくないというお話でしたし、僕もアニメでは物語の途中で終わっても構わないと。そこが一番、気を遣った点かもしれません。
――アニメ化にあたって難しかった点や、こだわられた点をお聞かせください。
中澤:作画的に、最近のアニメのように動きを付けてしまうとすごく大変だなという部分があったので、モノローグなどでうまく処理できたかなと思います。あと、キャラの線を極力減らしたり、作画のカロリーを抑えて、その分、アクションを入れたりしています。必要以上に作画チームの負担にならないように、絵コンテの段階で調節しました。キャラクターデザインの発注をする時も「描きやすい方向でお願いします」と。最近のアニメは作画のカロリーが全体的に高くなっているし、作中のゲームから、僕らおっさんは懐かしい雰囲気を感じたので、線や影も少なめのアニメにしましょうというお話をしました。
また、アニメのオリジナル要素として、待田さんにお願いして、呪文の前に詠唱を加えていただくことで、速い展開になりにくいように、前半と後半で、日常シーンと戦闘シーンで強弱を付けるようにしています。
料理シーンなどモノ作りの描写も簡略化してはいますがちゃんと見せたり、アニメのキャラのイメージで原作の続きが読めるように意識して、各キャラの肉付けもしました。
――アースが作る料理は「ゲーム内のキャラすべてを虜にする」という設定なので、料理の描写もかなりこだわられたのでは?
中澤:原作でも料理シーンは、まるで料理アニメのような説明が書かれていて。作中の料理は高級料理ではなく、キャンプ料理みたいなものがメインだったので、色味を含めて、脚本でフォローしてもらいながら、作品の雰囲気とマッチするようなビジュアルにできたかなと思います。
――待田さんは監督からオーダーされたことはありますか?
待田:「アクションを大事にしたい」とおっしゃっていました。あと、先ほど監督がおっしゃったように、お話の進みを急ぎ過ぎて、ダイジェストみたいなものにはしたくないなと。話を進ませようとすると、モノ作りやスキル上げのシーンを端折らなきゃいけなくなってしまうんですが、そこがこの作品では大事なので。原作の巻数の多さに対して、アニメではそれほどお話が進んでいませんが、だからこそこの作品の良さを描けたかなと思っています。
――1話の中に様々な要素が詰め込まれていたので、毎回まとめるのは大変だろうなと思いました。
待田:最初に原作のどこまでをアニメでやるのかを決めて、「何話ではこのエピソードを」という構成会議もしっかりやったので、そこが功を奏したかなと思います。ただ、小説やマンガで読んでいる分には頭の中で補完して楽しめますが、モノ作りが長く続くと、アニメから入った方は「もっと次が見たいな」と思われる方もいるでしょうし、そのバランスは確かに難しかったです。ですが、原作から大きく変えてはいないですし、さじ加減は監督にうまくやっていただけました。
――脚本作業やシリーズ構成をする上で、意識した点や苦戦した点をお聞かせください。
待田:難しかったのは、とにかくキャラが多いので、「この人とこの人を一緒にしていいですか?」と、原作とは違うけど同一人物にさせていただいたり、ちょっとしたアレンジをしています。ギルド「ブルーカラー」のメンバーは、キャラがおもしろかったので、もっと出番を増やしたかったなと。
――アースのモノローグが多めですが、バランスを取るのも苦労されたのでは?
待田:原作はアースのおもしろいモノローグが多いのですが、アニメではそれをそのまま使うわけにはいかず。結構、アースはボヤいているし、アースがモノ作りをしている時のぼやきのようなセリフはおもしろいので、そちらは残しました。私の脳内で大泉洋さんの声に換されていましたね。
――キャストの方にインタビューした時、皆さん、アースはゲームの知識が多くて、勉強になるとおっしゃっていました。
待田:原作にしっかりとしたゲーム知識が書かれていて。たぶん椎名先生がこだわられたところだと思ったので、少しでも気になったところはお尋ねしたり、裏の設定を教えていただいたりしました。すごく柔軟にご対応いただいたので、ゲーム好きの方にも納得していただけると思います。