秋アニメ『はめつのおうこく』リレーインタビュー第1回:アドニス役:石川界人さん|復讐心の裏にある年相応の精神的な“ブレ”がアドニスの魅力
yoruhashi原作のコミック『はめつのおうこく』が、10月よりTVアニメ化。本作の魅力を掘り下げるべく、アニメイトタイムズでは出演声優のリレーインタビューを実施します。
舞台は、魔法を凌駕する科学文明を築いたリディア帝国。かつてよき隣人だった魔女は、人類の敵と見なされ、“魔女狩り”の犠牲に。主人公アドニスの最愛の師である魔女クロエもまた命を落としてしまいます。帝国に捕らえられ、封印されたアドニス。しかし、奴隷の少女ドロカによって解放され、同族である人類への復讐を開始します。
リレーインタビュー第1回は、復讐に燃えるアドニスを演じる石川界人さん。彼を演じるうえで意識していることやアフレコの思い出などをたっぷり語っていただきました。
冷静でありながら感情的なアドニス
――原作の印象はいかがでしたか?
石川界人さん(以下、石川):実は、オーディションのお話をいただく前から原作を読んでいたんです。SNSの広告によくある試し読みで見かけて、気になって読んでみたらすごく面白くて。当時の連載分も全部読みました(笑)。
何よりも惹かれたのは、お話の残酷さとそれを表現する絵の迫力。苦しい気持ちにもなりましたが、アドニスという主人公がどう変わっていくのか、とてもワクワクさせられました。
――石川さん演じるアドニスについては、どんなところに惹かれましたか?
石川:圧倒的な力を持っていながらも、とある条件下でしか力を発揮できないところと、その力を偶発的に手に入れたのではなく自身の検証とシミュレーションの積み重ねによって得たところです。努力家でありながら復讐の意志を途絶えさせていないという意味では、継続力の高い人なんだなと思いました。
――オーディションにはどのような役作りで臨まれたのでしょう?
石川:この作品に限らず「この作品、このキャラクターだからこうする」というのはあまり考えないようにしています。改めて原作を読み返して、このセリフはどういう文脈で話しているのか、この場面ではどういう情報を知っていて何を知らないのかという情報の整理を大事することが多いです。
――第1話は主に幼少のアドニスが描かれました。こちらをご覧になった感想はいかがでしたか?
石川:彼にどう心を寄せるかはあまり考えず、情報の一つとして受け止めるようにしました。それでもやっぱり、「まぁそれは復讐になるよね……」と(笑)。
基本的に魔女は何も悪いことをしていないんです。人間たちにさんざん利用された挙げ句、魔力という不確かなモノにはもう頼らないという身勝手な理由で殲滅されたので、魔女からすれば理不尽極まりないわけです。それはクロエの弟子であるアドニスにとっても同じで、理不尽にも最愛の人を殺されてしまった。だったら復讐の鬼になっても仕方ない、やむを得ないと思いました。
――第2話では復活したアドニスがリディア帝国の首都を蹂躙しました。アフレコはいかがでしたか?
石川:僕は劇的にやってしまおうと思ったんですが、第2話は「淡々とやってください」というディレクションを受けることが多かったです。感情の起伏をひたすら抑えていくという感じです。復讐するときの感情の捉え方は人それぞれだと思いますが、監督はアドニスの心境を茫然自失に近い方向で捉えていらっしゃるんだなと強く感じました。正気ではない精神状態だから復讐に走るのだ、と。
――そこで演技プランの修正があったわけですね。
石川:そうですね。アドニスは囚われながら10年間、復讐のために検証と研鑽とシミュレーションを繰り返していました。それは強い意志を持って復讐するということなので、冷静でありながら感情的というアンバランスな心境だと思っていたんです。それで、怒るところはしっかり怒り、冷静なところはしっかり抑える方向に振ったんですが、基本的には感情を抑え、最後の最後、ドロカに触れられたくないところを触れられて急に感情を爆発させるという方向になりました。
でも、映像を見ると監督や音響監督が言っていたことは完全に正しかったと思います。淡々としていたからこそ、最後のシーンがより感情的に見えるんです。話数全体、作品全体を見ている方の意見は大事なんだなと改めて実感しました。
――復讐を遂げようとするアドニスの気持ちには、どう寄り添おうと?
石川:アドニスは復讐することが正しいと思ってやっているので、それをしっかり受け止めるようにしました。そこに苦しみはないと思いますし、僕自身はそれに対して「復讐は嫌だなぁ……」みたいな感情を抱くことはありません。僕がどう思うかはあまり関係のないことですから。アドニス以外にも復讐を遂げようとするキャラクターを何度かやらせていただいていますが、どのキャラクターもそこに拒否感を抱くことはないです。
――それと、一つ気になったことがあって。原作を読みながら「記述式召喚魔法」を頭の中で暗唱するんですが、すごく言いづらい印象があったんです。実際にセリフとして言うのはどうだったのかなと。
石川:僕は1回も正しく言えたことがないです(笑)。
――そうなんですね!
石川:テープオーディションのときから「記述式召喚魔法」ってずっと言えなかったんです。普通に読むぶんには言えるんですが、セリフになると全然ダメで……。第2話のアフレコでは、「記述式召喚魔法」がなかなか言えず、ドロカ役の和氣(あず未)さんが初めて現場で笑ってくれました(笑)。それがアフレコの一番の思い出です。
――映像で見たときはなんの違和感もありませんでしたが、そんな苦労があったんですね。
石川:一応、音響監督からは「“きじつしき”と言ってもいいよ」とは言われました。確かに、NHKのアナウンスのルールでは、「手術」だったら「しじゅつ」とか「しゅじつ」に言い換えてもいいことになっているんです。それにならって「きじつしき」でも大丈夫ということになったんですが、僕は絶対に「きじゅつしき」と言いたくて。でも、1クールを通して一度も1回では言えませんでした……。「記述式召喚魔法」のセリフは他のキャラクターにもあるのに、僕だけが一発でできなかったのがちょっとだけ悔しかったですね。