猫っぽさが人を惹きつける猫猫。平穏に暮らしたいけど、事件を放っておけるほど事なかれ主義でもない矛盾――『薬屋のひとりごと』猫猫役・悠木碧さんインタビュー
シリーズ累計2400万部突破の大人気後宮謎解きエンタテインメント『薬屋のひとりごと』がTVアニメ化! 2023年10月21日(金)、日本テレビ系にて初回3話の一挙放送が行われます。
舞台はとある大国の帝の妃たちが住む後宮。そこで下働きをする猫猫(マオマオ)は、とある出来事をきっかけに、後宮で起こる事件の数々、そして陰謀の渦に巻き込まれていきます。
今回、放送を控えた本作について猫猫役の悠木碧さんにインタビュー! 猫っぽさあふれる猫猫の魅力や推理パートの難しさを語っていただきました。
舞台はきらびやかな後宮。さまざまな視点が事件解決に繋がる
――原作をご覧になった感想を教えてください。
猫猫役・悠木碧さん(以下、悠木):すごく華やかな後宮が舞台となっていますが、その世界観を作り上げているのは、地に足のついた人々の生活の積み重ねです。そして、その対比がいろいろな事件を通してしっかりと描かれていて。華やかな世界を作り上げるのにこれだけの人々がこんな思いを持っていました、という美しさの裏側が、重くない描かれ方をしているんですよね。
そんな中、猫猫は今でもわかるような科学のお話なんかを交えて事件を解決するんですけど、身分の違いであったり、職の違いであったり、それぞれ見えてくるものが違うからこそ気付ける謎があって。客観的に人々の営みを唱える猫猫の視点であったり、人がどう生きるかによって謎の生まれ方が違うのはこの作品の最大の魅力だと思います。
――後宮を舞台とした推理作品というのは珍しいですよね。
悠木:猫猫は下働きをしていますが、彼女だからこそ、十把一絡げに扱われているからこそ見える真実がたくさんあって。逆に、位が高い職に就いている壬氏にしかわからないこと、与えられないものがあったりもします。それ故に壬氏には見えないものもありますが、そこで猫猫が活躍する。というように、視点が違う人々同士がひとつの謎を解決していくんですよね。
この作品は、『シャーロック・ホームズ』のようなコンビ要素がある推理モノです。しかし、猫猫を補佐する、ワトソンの役割を担う壬氏のほうが位が高いという。このタイプは今までにないと思いましたし、推理モノが好きな方には今までとは一味違う物語を楽しんでもらえるはずです。
誰にも媚びないところが誰しもを惹きつける魅力
――猫猫を演じたうえで、彼女はどんな人物だと感じられましたか?
悠木:猫猫は“懐かない猫感”が一番かわいいポイントだと思っています。お転婆というより、やんちゃ寄りで、どこか中性的なかわいさがあるんですよね。そんな誰にも媚びないところが誰しもを惹きつける魅力の一因だと思います。演じるうえでは、誰にでも平等に接しようとしながらも、ときにブレてしまうところが見せどころだなと。
そして推理パートは演者としてのやりどころです。今アニメーションを見ている人って、作業をしながら流し見している人も多いんですよ。だからこそ、ここだけ聞いてもらえれば話が理解できます、という最低限の言葉を調節しながらアフレコに挑んでいて。すごく難しいですけど、そこが上手くいってると良いなと。
――裏側ではそんな調整が行われているんですね。
悠木:日本語の整理という部分はお芝居の準備段階で絶対に必要なんですけど、やりすぎると芝居ではなくなってしまって。このニュアンスはワード数が多い作品の難しいところです。でも、リズムを掴めると「あ、来た」と思えて。それがとっても楽しいです。
――猫猫の内面について、悠木さんが感じたことを教えてください。
悠木:名前の通り、猫ちゃんですよね(笑)。興味があることにはワッと反応するけど、興味がないことにはフラットな態度で。作中のポジションも猫ちゃんっぽくて。でもそこがヒントに繋がっていたりもするんです。私自身、彼女の演技の正解を出すうえで、「猫だったらどうするかな?」という考えが役に立っています。
――なかなか懐かない猫っぽさはありますよね。
悠木:でも、そんなドラ猫だった彼女も、段々と懐いていくんですよ(笑)。
――ドラ猫(笑)。
悠木:猫が懐くというのは、認めることや許すことの表現に繋がっていると思って。そこが猫猫らしさだなと思って演じています。
――その猫っぽさに様々なキャラクターたちが惹かれるわけですね。
悠木:同じ立場の人、後宮の外の人、時にはすごい偉い人が猫猫を構いに来ます。そんなところは本当に猫らしいですよね。そもそも賢く、仕事がしっかりできるかっこいいところがあるから、それ故に認められ、頼られていく。ただ、本人はそんなことを求めていないという。何事もなく暮らしたい、でも事件を放っておけるほど事なかれ主義でもない。内面にはそんな矛盾があるんですよね。そこは人間らしいなと思います。
――原作でも猫っぽく描かれているところがありますよね。アニメでどんな表現になっているのか楽しみです。
悠木:ギャグシーンなんかは猫耳がぴょんと跳ねたり、猫目になったり。アニメならではの部分ですと、「にゃー」というSEがあったり。
――SEで表現されているんですね。
悠木:そうなんです。私もどんな「にゃー」になるのか気になっていたら、「悠木さん、『にゃー』と言ってください」と(笑)。
――悠木さんが担当されるんですね!
悠木:私のときがあったり、そうじゃないときもあります! それ以外も、ギャグシーンでは割と猫っぽいアドリブを頼まれていて。そんなに強く頼まれたわけではないんですけど、“かわいいけどかわいすぎない猫猫っぽさ”をヒントにアドリブを入れています。
――アドリブは結構入れられているんですか?
悠木:猫猫はシリアスとギャグが半々なので、シリアスなシーンではほとんどないですが、ギャグシーンでは積極的に入れています。もともとワード数が多い作品なので、アドリブ自体そこまでないんですけど、ギャグシーンはいっぱい付けてあげたほうがコミカルさが伝わるなと思いまして。猫猫以外だと壬氏や高順はデフォルメになるギャグシーンでちょっとだけ入れていましたね。
やぶ医者なんかは挙動アドリブが細かく入っていたりします。小動物っぽいかわいらしいキャラクター作りに繋がるから細かめにディレクションがあったそうです。
――壬氏役の大塚さんの演技をご覧になっていかがでしたか?
悠木:艶っぽい声のときもあれば、スポーティーな声のときもあるんですけど、全体としてひとつの壬氏にまとまっているなと感激しました。壬氏の中に含まれる“本当は少年な部分”と、それを立場的に律してちゃんと仕事をする部分。隣でお芝居させていただきながら、このグラデーションがすごく美しいなと感じました。
今回、ドラマCDから演じているのは私だけなのですが、TVアニメ化にあたって「自分の猫猫はどのくらいTVアニメの猫猫にできるんだろう?」と不安もあったんですけど、大塚君の壬氏の声を聞いたら、“自分の猫猫がどこに当て嵌まるのか”すんなりとわかったんです。そういう意味では彼がTVアニメにおける大黒柱だったんじゃないかなと実感しました。
――壬氏とともにTVアニメの猫猫を作り上げたんですね。
悠木:そうですね。アニメではコミカルなシーンがよりコミカルになっていたり、猫猫自体かわいい絵柄になっているので、演じるうえで甘さを抜いてバランスをとっていたりします。シーンによってはさじ加減が難しかったりするんですけど、壬氏とのシーンは迷わずに「きっとこれが最適解」と答えを導き出せました。実際、完成した話数を見せていただいて、壬氏と掛け合っている方が猫猫は馴染んでいるかもと思ったりして。そこはスタッフさんたちにもポジティブに捉えていただいたんじゃないかなと思います。