この記事をかいた人

- タイラ
- 99年生まれ、沖縄県出身。コロナ禍で大学に通えない間「100日間毎日映画レビュー」を個人ブログで行いライターに。
——琉生たちの家族が大事にしてきた蒸留所という場所が今作の舞台になっています。琉生を演じるにあたって蒸留所について知る機会などありましたか?
早見:作品とコラボウイスキーを展開している富山県の三郎丸蒸留所のホームページなどを見させていただいたんですけれど、ただ商品の説明が書いてあるだけではなくて、どういう経緯や思いで蒸留所が作られているのか丁寧に書かれていました。
所長さんのお話には「家族で受け継いできたものを受け取って今もお酒を作り続けている」とあり、まさに『駒田蒸留所へようこそ』で描かれているものと同じだなと。
お酒のことだけではなくて、思いが続いていく大事さも勉強することができましたね。あと、お酒づくりの機械や設備もこだわりがあって、同じ富山の銅を使って機器を作っていたりだとか、地域のこだわりや文化・伝統をも受け継いでいらっしゃって、感動しました。
現実でも細部まで拘っていて、ひとつのお酒を作るのに多くの人の思いが関わっている。本作品を見ていても、それがリアルに再現されているんだなと実感しました。
——実際のウイスキー製造と、今作で描かれていることはリンクしているのですね。
早見:そうですね。私はウイスキーついてあまり詳しくないんですけれど、この作品に携わってから、飲む際に色々考えるようになりました。
私達が一杯のお酒を飲み終えるまでの時間の何千倍という時間が製造にかかっていて、沢山の人の思いがあって。美味しく飲めていることが奇跡的な事かもしれないなと。
──ウイスキーは普段飲まれるのですか?
早見:もちろん飲んだことはありますが、あまり詳しくありません。でも、この作品に出会ってから、自分が気になったものを買って飲んでみましたよ。ハイボールは凄く飲みますけどね。
──ハイボールも立派なウイスキーですよ!
早見:確かにそうですね!(笑) 綺麗なグラスにお洒落な丸い氷が入っていて……というイメージがあるじゃないですか。
でも、ちゃんと向き合って飲んでみるとやっぱり違いましたよ。この作品で、ある種ウイスキー造りを疑似体験できたので、この一杯に色んな思いが……と考えると尊い一杯でしたね!
味の細かい良し悪しはわからないのですが、作品を見た後にいただく一杯はなんだかより美味しく感じました。皆さんも映画を見た後はウイスキーが飲みたくなるんじゃないかな。
——美味しく飲んでくれる方のために多くの時間やパワーが注がれているんですね。作品を見ていて、誰かのために何かを作るのがものづくりの原点なのだなと感じました。
早見:私もひとつ思い出したことがあって、養成所時代に沢木郁也さんに教えてもらっていて、その繋がりで大先輩である志村知幸さんにお話を聞く機会があったんです。
そのお話の中で、「自分の子供に絵本を読み聞かせることがあったとして、すごく上手だねって言ってもらえたり、入り込んで聞き入ってくれるとか、それだけで良いんじゃないか」ということを仰っていたんです。
家族が自分の読み聞かせを褒めてくれたり、その世界を楽しんでくれる、大事な人が喜んでくれるということが一番素敵なことじゃないかと。
それが凄く印象に残っていて、まさに『駒田蒸留所へようこそ』でもそういった事が描かれています。身近な人を幸せにする、それが世界へ広がっていく。それが本当に素敵なことだなと。
——身近な誰かを思い浮かべると、よりやりがいを持ってお仕事に取り組めますよね。『駒田蒸留所へようこそ』では、かなり細かい実務や作業の様子も描かれていましたが、印象に残っているシーンはありますか?
早見:実験室みたいなところで、原酒をブレンドして試飲するシーンですかね。「あんなふうに作っているんだ!」ってびっくりしました。
コップに注いで今年は違う! みたいな感じかなと思っていましたが、ミリ単位で調合して細かく作っているんだなと。しかも、琉生だけじゃなくて何人も集まって話し合いをしながら調合している姿が印象的でした。
——原酒を作るだけでも大変なのに、さらにブレンド作業も必要で。
早見:しかも原酒がなくなっちゃったら作れないじゃないですか! 凄く貴重なものなんだな〜と驚きでした。
——お仕事シーンの他にも、家族や人間関係も見どころかと思います。お仕事シーン以外で印象的だったシーンはありますか?
早見:いっぱいあるんですけど、自分が見ていて絶対泣いちゃうな〜と思うシーンはラスト間際のお母さんと琉生のシーンですかね。
あまりセリフが多いわけではないんですけれど、お母さんの表情だったり息遣いがすごく素敵で、それに対する琉生の言葉掛けも良い。会話とも言えないくらいのやり取りなんですが、何度見てもグッと来てしまうシーンでした。
また、家族とは違うんですが、高橋さんが友人と仕事について話すシーンが何度か描かれます。だんだんと高橋さんのウイスキーへの熱量が高まっていくのがわかる良いシーンだと思います。
——友人に対して、思わず早口になっていましたね。
早見:そうなんです! 駒田蒸留所で起こった出来事や出会った人々のことを楽しそうに語る姿が良いな、と。
——彼も働く中でいろんな楽しさや壁に直面していましたが、早見さんから見て共感できるところはありましたか?
早見:そうですね、高橋さんがせっかく情熱が芽生え始めているのにそれがから回ってしまうところなど、凄くわかります。やる気があるからこそ、ぶつかってしまう壁が現れる。
琉生に関しても、やっとひとつ進んだと思ったら、また別の問題が起こったり、一筋縄ではいかないリアルさ。頑張りたいという強い気持ちがあっても、100%上手くいくわけではない。
それでも、プラスもマイナスも経験しながら少しずつ進んでいくしかない、という部分が共感できますし、現実だなと思います。
——早見さんもお仕事をされる中で、失敗や不安、逆にやりがいを感じることが沢山あったかと思います。
早見:そうですね。実は私、緊張しいなんですよ。未だに初めての現場や、人がいっぱいいる現場はかなりドキドキします。
始めたての頃のような緊張は流石にしないんですが、完全リラックス状態でやることは難しい。現場というものは、やはり私の中で、プレッシャーなどを感じる場所ですね。
でも、そういう中でもスタッフの皆さんや共演者の方と向き合っていくと、自分が思いもしないような感動やドキドキ・ワクワクに出会うことが沢山あって、凄く素敵なお仕事だし、好きな仕事だなと思います。
——関連して、本作は「お仕事シリーズ」最新作ということで、早見さんにとって「仕事」とは?
早見:ドキュメンタリー番組みたいですね!(笑) なんだろうな、私はお仕事を始めたのが14歳で、現時点で言うと人生の半分の時間を仕事していることになるんです。もしかしたら、仕事というものを擬人化したらわかりやすいかも……(笑)。
時に振り回され、時に欠かせない存在で、最後はやっぱり相棒みたいな。そういう存在じゃないかなという気がしていて、色々感情を仕事というものに沢山動かされて来たような気がします。
——お話聞いていると、仕事が恋人のようなポジションなんですかね?
早見:そこまで親密かどうかはわからないですけどね!(笑) 親友、恋人……うーん、きっちりとした関係ではあると思うのでパートナー的なところもありますし、先生のようなところもあります。
正体の分からない怖い存在みたいな時もありますね。色んな表情を持っているものなのかなと。
でも、この感覚って『駒田蒸留所へようこそ』の中に出てくるキャラクターたちにも通ずるところがあるんじゃないかなって思います。
業種、やっていることは全然違うんですけど、キャラクターたちが持っている感情や状況って、どこかで体験したことがあるんです。みんな違うお仕事をしていても、感じることやぶつかる思いって共通するんじゃないかなと。
——ある種、共通言語というか、大人になってから多くの人が感じる気持ちが作品に描かれているかもしれないですね。
早見:そうですね。仕事や働くということ自体が、繋がりになっていると言いますか。仕事って言うと硬いイメージを持ちますけど、それを通じて誰かと繋がることができるのかなと。
琉生と家族、高橋さんの関係もそうです。きっと見てくださった方とも繋がることができるんじゃないかと思います。
——ありがとうございます。では最後に、公開を楽しみにしているファンの方へメッセージをお願いします。
早見:今回のインタビューの中でも感じましたが、「お仕事シリーズ」や『駒田蒸留所へようこそ』で描かれていることって、今自分たちが生きる現実に凄くリンクしています。
その中で描かれている環境や状況だけじゃなくて、心理描写も凄くリアルなんですよね。仕事や家族と向き合っていく上で感じることや思いというのは、見てくださる方も絶対に共感できると思います。
本作を鑑賞して、作品中に生きているみんなの気持ちを体験することで、きっと見てくださった方の家族や自身の生活に対する思いが呼び起こされるんじゃないかなと思っています。
私は見ていて、あまりにも胸に刺さるシーンが沢山あって、泣いてしまうシーンや心が揺さぶられる瞬間がありました。劇場で見てくださる方もぜひ、本作を通して色々なものを感じ取って欲しいなと思います。
99年生まれ、沖縄県出身。コロナ禍で大学に通えなかったので、「100日間毎日映画レビュー」を個人ブログで行い、ライターに舵をきりました。面白いコンテンツを発掘して、壁に向かってプレゼンするか記事にしています。アニメ、お笑い、音楽、格闘ゲーム、読書など余暇を楽しませてくれるエンタメや可愛い女の子の絵が好きです。なんでもやります!