P.A.WORKS「お仕事シリーズ」最新作&初のオリジナル長編『駒田蒸留所へようこそ』吉原正行監督インタビュー|こだわったのはウイスキーのグラスとビン。作画と3Dの組み合わせという高い難易度に挑戦!
こだわったのはウイスキーのグラスとビン。作画と3Dの組み合わせという高い難易度に挑戦!
――キャラクター原案や脚本、音楽などのスタッフチームを組む際に意識したことをお聞かせください。
吉原:まず僕が監督をする時は、P.A.WORKSのスタッフで大概まかなっています。キャラクター原案については初めて、うちのメンバーに任せてみました。髙田友美は動画検査をやっている子ですが、社内で彼女の絵を見る機会が何度かあって、ちょっと前から「彼女はやれそうだな」と思っていたので今回キャラクター原案をやってもらいました。キャラクターデザインと作画監督をやってくれている川面恒介は、ずっと僕が育ててきたので、当たり前のように頼みました。
音響はいつもお世話になっている明田川 仁さんにお願いしました。脚本の木澤行人さんと
中本宗応さんとは今回初めてで。「群像劇みたいなものをやりたいけどハコが決まらない」とプロデューサーに相談したところ、紹介してもらって、打診したら快諾してもらえました。
――制作する上で意識された点や苦戦した点があれば教えてください。
吉原:まずウイスキーを題材にしているので、グラスとビンにこだわりました。今までなら作画で頑張ればやり過ごすことができたことも、作画だけでは表現できない部分をウイスキーそのものには加えたくて、ビンもグラスもすべて3Dにしました。ウイスキーも色が大事だけど、色を指定してもうまく出なくて、周りの映り込みや環境によって出る色味なので、3Dで表現したほうがいいだろうと。ただ技術的なことでいえば、作画と3Dの組み合わせは大変で、例えば、キャラクターが作画で、置いてあるビンが3Dというのは簡単ですが、(3Dの)ビンを(作画の)キャラクターが持ってしまうと工程が複雑になってしまうんです。それでもあえて難易度が高い方法でやりました。
――本作ではウイスキーの持つ質感など、アニメファンだけではなく、ウイスキー好きも納得させないといけないのでハードルが高そうです。
吉原:1年半くらい、いろいろ取材しましたが、やっぱりすべてを把握するのは難しくて。アニメ界隈と一緒で、ウイスキーマニアの方は蒸留所を見学したり、写真撮影などをされたり、すごく詳しい方が多いので、この制作期間では「How toもの」は作れないので、「How toもの」にするのはやめようと。でもウイスキーそのものが物語にちゃんと反映されている作品は作ろうと。そして可能であれば、気の利いた現場の風景などをきちんと作画で描こうと。そのバランスにすごく苦労しました。
――バックに流れるサックスなどのジャジーな音楽が、ウイスキーの大人っぽさやおしゃれな雰囲気にもつながっていたと思います。
吉原:僕はあまり音楽に詳しくないので、音楽についてのオーダーをあまりしません。どちらかというと、音楽打ち合わせの時、作品のイメージと持ち込んだフィルムから、どこまで自分が思い描いた音楽になるのかを試している感覚で。もしイメージ通りならフィルムからうまく伝わったんだなと思うし、全然イメージと違っていたら、「持っていたフィルムがそこまでの説得力を成し得ていないな」という判断をさせていただいています。今回はフィルムから、ちょっと大人な感じで作ってくださったのかなと思います。
一番最初に完成したキャラは主人公の琉生ではなく、取材記者の光太郎!?
――主人公の(駒田)琉生をはじめ、各キャラクターはどのように構築されたのでしょうか?
吉原:まず群像劇なので、「before/after」がわかりやすいキャラクターを1人立てようと。次にそれと対照的なキャラクターを用意しようなど、徐々に膨らませていった感じです。元々「こんな感じのキャラクターで行こう」と決めていたのは(高橋)光太郎だけです。
――主人公の琉生ではなく、光太郎のほうが先だったとは驚きです。
吉原:光太郎は、自分の理想を見つけられなくて、ずっと自分探しをしている感じなので、「どうすれば見つけたり、手に入れたりできるのかがわからない存在」として最初に決まりました。そんな光太郎が最後に何かをつかむ話にしようと。琉生がどういう状態で絡んでくるのかは、作品を作っていく中で話し合いを重ねていくうちに決まりました。
――登場時の光太郎を見ていると、よく編集の現場で見かけるタイプで。自分が編集や取材を始めた頃を思い出しました。「自分もこんなに世間知らずだったな」と(笑)。
吉原:振り返ってみれば、「自分自身もこうだったな」というところがあって。P.A.WORKSにも毎年、新入社員が入社してきますが、「自分がやりたいと思って入ってくるのに、続かないのはどうしてなんだろう?」というのが育成側としてずっと抱えている最大の懸案でした。日々、感じたり、傷つけられたり、傷つけたりを繰り返していくうちに、ああなってしまうというか。なので、光太郎は必然的にああいうキャラクターになった感じです。
――主人公の琉生は、父から駒田蒸留所を受け継いで、蒸留所の立て直しと幻のウイスキー「KOMA」を復活させるために奮闘している、一見、凛としたキャラクターですが、内面ではいろいろな問題や葛藤を抱えていて。
吉原:見ている方をなるべく混乱させないように、最初の脚本では1つの目標に向かっていることを、筋道を立てて描いていただいていました。ただ「セリフにはないけど、もうちょい複雑だよね」という部分は絵作りのほうで加えていきました。例えば、スタッフ全員を裏切る瞬間も、「実はそうではないかもしれないよ」というところを画面上に入れ込んでみたりすることで、琉生の印象がより複雑化しているのかもしれません。
――琉生の家族、父や母、兄との関係性や想いもテーマの1つになっていますね。
吉原:最初から家族をテーマにしたというよりも、主人公を描く上で、バックボーンとして家族は絶対に必要になると思って。キャラクターに家族が後から付いてきた感じです。