個展「ゾドニスト2」開催記念! 漫画家・三家本礼先生インタビュー|イラスト制作への想いや技術、25周年を迎えた『ゾンビ屋れい子』連載当時の思い出を語る1万字インタビュー!
スター・コレクターは必要なかった気もするんですよ(笑)
──今回の個展がきっかけで初めて三家本作品に触れる方もいると思いますが、おそらくストーリーの勢いに驚かれるはずです。先生がストーリーを組み立てる際は、どんな風に考えているのでしょうか?
三家本:本能によるところがすごく大きいです。ストーリーの流れで取って付けた様な感じを出してしまうと、やはり取って付けた様に見えてしまいます(笑)。だから、作者が自分でこれを面白いと思って描いたんだということが読者に伝われば良い、それを一番に考えています。
もう少し具体的な技術の話をすると、それまでの展開を読み返して「次はこうなるんだな」と思えるようなら、次の展開は少し捻って考えるようにしています。
──『ゾンビ屋れい子』だと1巻の終わりもそうですが、特に雪女編の展開はどうなっていくか全く読めなくてワクワクしました。スター・コレクターから始まって…
三家本:スター・コレクターは必要なかった気もするんですよ(笑)。姫園リルカが追いつめられる意味では必要だったけど、ストーリーにそんなに必要だったかと今では少し思ったりもします。
ただ、黒髪で長髪のクール系な男性キャラが、無条件に好きだという方がいらっしゃるようで、そういう方たちにスター・コレクターのキャラデザインが刺さったらしく、それはちょっとした発見でした。
──ちなみに『ゾンビ屋れい子』に限らずご自身の作品で、特に好きなキャラクターというのはいますか?
三家本:これを描いているのがしんどかったという意味で嫌いとかはありますが、好きという感情はあまり持たないようにしています。特定のキャラクターを好きになり過ぎて客観性を失うというのは、作家として有り得ない話ではない事なので、もう少しプロデューサー的な視点を忘れないようにしています。
──逆に言えば客観性を持って中立の立場から描かれているからこそ、先生の作品はどのキャラクターも魅力的なのかもしれないですね。
三家本:そう思っていただけたらありがたいです。
──ちなみに先ほどおっしゃった「描いているのがしんどかった」というキャラクターを具体的に教えていただくことは可能でしょうか……?
三家本:竹露は顔のバランスが大変なんですよ(笑)。
──そうなんですね(笑)。
三家本:あとは……描くのが大変なキャラクターだと思ったら、早めに退場させることにしていたと思います。
──もしかすると早々に退場していったキャラクターの中には、そんな理由があったかもしれないんですね。
三家本:これを描いていてしんどいというのは、やはり実務としては弊害が生じてきます。
──竹露がらみの疑問なのですが、彼女の頭身がどんどん縮んでいったのは、また何か別の理由があったのでしょうか?
三家本:竹露は戦えるキャラクターを想定して登場させたのですが、その役目を他のキャラクターが既にまかなっていたので、違う面で特徴を出さなくてはというのがありました。そこで思いついたのが「善良で周りが守ってやるような展開になるキャラクター」だったので、その流れで頭身とかデザインが変わっていきましたね。
だから要は設定を変えたという事です。
──たしかに初登場時の竹露は、竹刀を振り回したりとかアグレッシブでした。
三家本:あの設定も結果的にはアバウトなものにはなってしまいましたが、キャラクターとしてはじめましての意味で考えたら、何かしらのアクションがあったことは良かったのかなと思います。
2024年は久々に純粋に漫画を描こうとは思っています
──今後の先生の展望についても伺えたらと思いますが、2024年はどんな年にしたいですか?
三家本:久々に純粋に漫画を描こうとは思っています。具体的に発表できるような情報が無いので、今段階でこれをするとか明言は控えたいのですが、商業誌ではなく個人で発表して課金していただけるようなプラットフォームとか、そういったものを視野に入れた活動も考えています。
──次に描かれるのもホラーないしホラーアクションのジャンルになりそうですか? はたまたガラッと違った作風でしょうか?
三家本:ガラッと違う作風というのは、自分の場合は無いと思います。全ての作品に系譜が欲しいと思って描いているので、次々にテイストを変えていったところで、おそらく付いてこれない方が多いと思います。
僕自身あれもこれもやりたいというタイプではなく、やりたいことは既に今回の個展でお見せしているような形なので、そこの軸は変わらないと思いますね。
──ファンとしては先生の新作が見られるのを楽しみにしています。
三家本:まだ、こういうのをやりたいなという漠然とした段階ですが、頑張りたいと思います。
──今後も三家本礼としての系譜をもった作品を作られていくとのことですが、先生がホラー漫画を描くにあたっての原動力は何でしょうか?
三家本:いま現在も真剣にホラー漫画に取り組まれている漫画家さんも、若手でいらっしゃるじゃないですか。それが王道で、僕はどちらかというと脇道に逸れた認識なんです。
と言うのも、ぶっちゃけてしまうとホラー漫画家として世に出て『ゾンビ屋れい子』が上手くいくまでは、本当に底辺に近いような立ち位置でした。その状況が嫌で、キャラクターを立てたり、ホラー以外の要素も取り入れたりしてきました。
要は売れ線に走ったという自己認識です。それがあるので、あまり自分を純度の高いホラー作家みたいな位置付けをするのは、一貫してホラー漫画に取り組まれている方に悪いというのはあります。
原動力の話から逸れてしまいましたが、僕はホラー漫画家というよりはホラーの要素も持ち合わせている漫画家、その形が近いと思っています。
──それでは最後に、これから個展を見に行かれる方に向けてメッセージをお願いします。
三家本:前回は県を跨いだ移動が自粛させられていた時期だったので、見に行くのを諦めた方も多くいらっしゃったと思います。今回もコロナ禍の脅威が完全に過ぎ去ったとは言えないのですが、それでも幾分か移動がしやすくなりました。
前回来られなかった方、来てくださった方、そして『ゾンビ屋れい子』をかつて読んでくださった方にも、ここまでたくさんの生原稿を展示できる機会というのは過去になかったと思います。
ぜひ間近で見て楽しんでいただけるとありがたいです。