『葬送のフリーレン』音楽・Evan Call(エバン・コール)さんインタビュー|劇伴の制作秘話はもちろん、編曲を手がけたED曲「Anytime Anywhere」や、お気に入りのシーンについてのお話も!
2021年に「マンガ大賞」や『手塚治虫文化賞』新生賞などを受賞した人気マンガ『葬送のフリーレン』(原作:山田鐘人、作画:アベツカサ、『週刊少年サンデー』連載中)。
「金曜ロードショー」にて初回2時間スペシャルが放送されるなど、大きな話題を集めている本作のTVアニメが、2024年1月に2クール目に突入します。
アニメ本編と共に注目を集めているのが、Evan Call(エバン・コール)さんによる音楽です。12月22日(金)より厳選したサントラ12曲が先行配信中のほか、来年1月31日(水)には、編曲を手がけたED曲「Anytime Anywhere」が発売されます。
今回、サントラの先行配信を記念し、Evan Callさんにインタビューを実施! 作品の世界観を彩る音楽の制作方法や、「Anytime Anywhere」、特殊ED曲「bliss」について、アニメのお気に入りシーンなどを語っていただきました。
オーダーを受ける前にメインテーマを作ってプレゼン!?
――原作を読まれたり、アニメをご覧になって感じた、作品の印象や魅力を感じた点をお聞かせください。
Evan Callさん(以下、Evan Call):初めて原作を読んだ時、ヒンメルが亡くなった時にフリーレンがヒンメルのことを深く知らなかった自分を悔やんで涙するシーンがありましたが、読んでいた私自身もこんなに心を揺さぶられるとは思ってもみませんでした。あのシーンは作品のフックになっていたと思うし、とても心地よくて。それからは先が気になって、早く読み進めたことを覚えています。
この作品は冒険ファンタジーだけど、冒険だけがメインではなくて、人と人の出会いや別れ、想い出が現在にも繋がっていることが素敵に描かれているのがいいですね。また、フリーレンが一緒に旅した勇者パーティーのメンバーや出会う人たちから教えや言葉を得られるのも好きで。例えばハイターのセリフ、「天国が実在するかどうかはどっちでもいいです。でも、たとえ実在しなかったとしても、あるべきものだと思います」も素敵な言い方だなと。名言集が作れるくらい名言が多い作品だと思います。
「アニメになったらどうなるのかな」とか「このシーンはこんな曲が合うかな」とか想像もしながら読んでいました。
――今回、音楽を担当されることになった経緯をお聞かせください。
Evan Call:作品プロデューサーのTOHO animationの田口(翔一朗)さんがアニメ化の企画を立ち上げる時に「音楽は私に」ということだったらしいです。田口さんは私の他の作品のサントラを聴いてくださっていたようで、『葬送のフリーレン』の世界観に合うのではと思ったそうです。
――音楽を制作するにあたって、アニメの制作サイドからのオーダーや、意識された点などをお聞かせください。
Evan Call:最初に作ったのが、PVなどでもよく使われているメインテーマですが、実はオーダーなどをいただく前に作った曲なんです。素直に自分が感じて思ったまま作ったほうがより良い曲ができるんじゃないかなと思って、作った後に「自分が思う音楽の方向性はこれです」とプレゼンしました。すごく気に入っていただけたので嬉しかったです。
そこからは、冒険らしさがあり、人間の感情が湧き上がるような雰囲気や、ふと懐かしさを感じる素朴さなど、『葬送のフリーレン』の世界観を全体的に表現できたらいいなと思って、曲を作っていきました。
ケルティック音楽はEvan Callさんのルーツ。今作には悠久の時を感じられる古楽器の音色も
―― 一般的に劇伴を制作する場合は、監督やスタッフからまず流れるシーンやイメージを指定されてから制作するケースが多いと思いますが、今回は映像を見てから音楽を作る「フィルムスコアリング方式」と併用だったそうですね。
Evan Call:最初に放送された2時間スペシャル(第1話~第4話)をフィルムスコアリングで作りました。2時間スペシャルは「金曜ロードショー」の枠で放送されて、映画を1本見ていただくような形でお届けするので、音楽の作り方も映画のようにしましょう、となりました。
まず、まだ色が付いていない状態の映像をいただいた段階で、流れる尺(タイム)は決まっていました。映像を視聴しながら、どこが重要なポイントなのかを自分で判断していき、このセリフを受けて、音楽を盛り上げようとか、抑えようとか考えながら作って、映像と一緒に音楽を再生して聴いてみたりして。その作った音楽を聴いていただいて、「数カット前から音楽をスタートしてください」などのオーダーに従って微調整するという流れでした。それほど大がかりな修正はなく、スムーズに進行したと思います。
――フィルムスコアリングは映像を実際に見られることでイメージしやすい反面、いろいろと凝りたくなってしまう部分もあったり、難しさもあるのでは?
Evan Call:決まった尺の中に収めないといけない難しさはありますが、完全に自由だと自己満足に陥ってしまう危険性もあるんです。「このアイデアが好きだから」と過剰に大げさにしてみたり。制限があることで特別な曲が生まれたケースも多々ありますし、流れるシーンにふさわしい音楽を作らないといけませんから。
――アニメが2クール放送されるというのは既に発表されていますが、このために何曲作られたのでしょうか?
Evan Call:72曲プラスαという感じです。
――作中の音楽を聴いていると、ケルト風で牧歌的なヨーロッパの民族音楽っぽい曲が多い気がしました。Evan Callさんの得意とするジャンルかなと。
Evan Call:音楽をやり始めた頃、フォークミュージックが好きで、アメリカのブルーグラス・ギターを弾いていました。ブルーグラスやアメリカのフォークミュージックはケルティックから影響を受けていて、その流れで私自身もケルティック音楽に興味を持つようになったので、私の音楽のルーツと言っていいかもしれません。
――本作の音楽には、普段あまり見聴きすることがない珍しい楽器も使われているそうですね。
Evan Call:そうですね。今回初めて使った楽器も多かったです。フィドルやティンホイッスルなどのアイルランド風の民族楽器はこれまでも使っていましたが、レベックやヴィオールなど、現代の楽器とは少し違う音色で懐かしさを感じる古楽器も使ってみました。フリーレンが千年以上生きているので、悠久の時間の長さみたいなものを表現したくて。実物を見るのが初めてのものも多かったんですが、ネットで音域や音色などを調べて、曲を作りました。なので、楽器マニアの方には魅力的なサントラになっていると思います(笑)。
――旅をしていく中での穏やかな日常を描いているシーンが多いので、フリーレンと魔族の緊迫したバトルに入った時の切り替えが難しいのではないかなと。(バトル時の曲が)日常の時の音楽とかけ離れすぎても違和感が出てしまうので、バランスにも気を遣われたのでは?
Evan Call:そうですね。なるべく同じ世界観で存在するような曲にしようと意識していました。なので、現代っぽいバトル曲というよりは、オーケストラ+民族楽器がメインになっています。バトルシーンでもエレキギターやシンセを使わないようにして、違うアニメの音楽に聴こえないように意識しました。