「どんなアーティストになりたいかが決まった気がします」――楠木ともりの“第二章”の始まりとなったバースデーライブ「TOMORI KUSUNOKI BIRTHDAY LIVE 2023『back to back』」レポート
2023年12月22日(金)。声優でありアーティストの楠木ともりが、24歳の誕生日当日に一夜限りのバースデーライブを行った。
タイトルは「TOMORI KUSUNOKI BIRTHDAY LIVE 2023『back to back』」。自身最大規模となるパシフィコ横浜 国立大ホールで、彼女がどんなパフォーマンスを見せたのか、そして何を伝えたのか。その模様をレポートする。
序盤からフルスロットル。中盤にはアニメ『チェンソーマン』ED「Deep down」のカヴァーも
新曲「back to back」を携え、自身のバースデー当日に行われたワンマンライブ。客入れBGMの選曲がとてもクールで、ライブを待っている間もロックなモードにさせてくれる。
開演時間が過ぎ、いよいよライブが始まる。彼女のライブで毎回驚かされるのが照明なのだが、今回はステージを下から照らす光のカーテンが素晴らしかった。これによって、大きなステージの迫力がしっかりと表現されていたように思う。
幻想的なSEが響き渡り物語の始まりを予感させると、そこからスパッと「ハミダシモノ」のイントロに切り替わり、客席が一気に沸く。ステージ後方にある4つの縦長のスクリーンには、花や万華鏡のような映像が映し出され、曲を彩っていく。魂のこもったバンドの演奏、楠木の歌声にも鬼気迫るものを感じた。
その勢いのまま「熾火」へ。「行くぞ横浜!」という力強い掛け声に応え、オイ!オイ!と声を出す観客。ウィスパーボイスと激しいボーカルを行き来する楠木の表現力も凄まじかった。バンドもライブを重ねるごとに確実にパワーアップしているのを感じる。
短いMCを挟んで、イントロから疾走感溢れる「presence」へ。この曲でも光のカーテンが活躍。90年代ロックを彷彿させる楽曲の雰囲気を完璧に引き出すバンドの音作りが最高だったし、ライブを重ねるごとに完成度も増していっている。
ポップでキャッチーなメロディとハイセンスな歌詞が印象的な「StrangeX」。可愛さというスパイスを盛り込んだウィスパーな歌声で、この曲を見事に調理してしまう楠木に脱帽してしまう。みんなでゆる〜く踊りながら楽しんでいたし、長い間奏も、手を左右に振りながらみんなでひとつになる時間になっていた。
クラップで盛り上がった「もうひとくち」は、ジャジーで、跳ねるリズムがとてもおしゃれで心地よく揺れながら楽しむことができた。
しっとりとしたムードの冬の曲「narrow」は、映像で玉ボケのイルミネーションを映し出しながら、演出で雰囲気を作っていく。グッズで“narrow MOD COAT”の販売もあったので、ある意味、このライブでは主役級の存在感を放つ曲とも言えるだろう。楽曲の中で路上ライブをしている主人公が、曲の後半になるにつれて膨らんでいく強い想いを、音源以上に感情的に歌っている姿にグッと来てしまった。
MCでは、客席とのコミュニケーションとして、どこからライブに来たのかを聞いていったのだが、海外から来てくれている人もたくさんいることを知り、本気で感動する楠木。これもコロナ禍ではなかったことで、徐々に以前の日常が戻ってきていることを実感する。一夜限りのライブでも、ツアーでも、その人にとっては一度きりのライブ。だからこそ、ライブの1曲1曲には重みがあるのだと感じる一幕だった。
激しい曲を前半に固めたあとの中盤は、しっとりとした曲が続いた。まずはアコースティックギターと歌から始まったAimerのカヴァー「Deep down」(アニメ『チェンソーマン』第9話EDテーマ)。バースデーライブではカヴァー曲を歌うことが恒例になっているが、ちょうど劇場版『チェンソーマン レゼ篇』の制作が発表されたこともあって、とてもタイムリーな選曲だった。同作でマキマ役を演じ、物語を深く理解している彼女だからこそできる感情の込め方で、表現し切る。
「BONE ASH」はもともと激しいロックチューンだが、アコースティックアレンジにすることで静かな熱をより感じることができ、同じ曲でもまったく違う趣があった。
続いて、光のカーテンがステージを包み込む中「バニラ」へ。ここから再びバンドサウンドになり、想いを込めた歌詞を大事に大事に歌っていく。落ちサビからラスサビへ入る前の一瞬の間や上から降り注ぐ光、たっぷり溜めてから歌う一番最後のフレーズ〈添えよう〉など、ライブをするごとに曲が成長していると感じた。