『戦隊大失格』をアニメで表現することへのこだわり|さとうけいいち監督インタビュー
2024年TBS系全国28局ネットにて4月7日から毎週日曜午後4時30分放送予定、ディズニープラスにて配信決定のTVアニメ『戦隊大失格』(原作:春場ねぎ/講談社「週刊少年マガジン」連載)。
悪の怪人VS正義のヒーロー(?)との対決を描いた予測不能のヒーローバトル。PVや魅力的なキャストも発表され、いよいよ目が離せなくなってきた本作について、さとうけいいち監督にいち早く語ってもらった。
主人公は戦闘員D!彼がヒーローにリベンジする物語
――『戦隊大失格』の原作を読んだときの印象を教えてください。
さとうけいいち監督(以下、さとう):最初はプロデューサーサイドから読んでみてくださいと言われて読んだんです。僕のキャリア的に、戦隊モノの仕事とかを10年以上やっていることもあって、ヒーローものだし、「監督とかどうかな?」っていうのがあったんでしょうね。でも実際に読んでみたら、いい意味でタイトルに騙された部分があって……。
――それは、どんなところにですか?
さとう:いや、特撮のパロディなのかと思っていたら、そうではなかったんですよね。実際に読んでみると怪人側が主人公だということで、海外のヒール(悪役)的なヒーローもの、いわゆるアンチものみたいな感じではあったので、そういった作風なのかと思って読み進めていったら、それよりはもう少しコメディなのかな?という印象でした。
ただ、さらに読み進めていくとサスペンス度が高いし、ちょっと(アニメにするのが)難しい作品であることは確かだなと思ったんです。なので、シリーズ構成を考えてアニメのフォーマットに落とし込むのならば、遠回りしてしまいそうな話のシークエンスを整理しなければいけないなぁとか思っていた気がします。
――原作の春場ねぎ先生は『五等分の花嫁』でアニメも原作漫画も大ヒットをしていましたが、そこは多少意識するところもあったのでしょうか?
さとう:そこはあまり意識せずに新たなアニメシリーズとして向き合おうと思っていました。きっと原作のファンではない方も見るだろうという意識です。僕に話が来たときは、まだ4巻くらいしか出ていなくて、わりと新しい作品の印象だったので。
――監督として向き合うとき、まず構成などはどう調整していったのでしょうか? シリーズ構成の大知慶一郎さんは、『五等分の花嫁』のシリーズ構成も担当されていますが。
さとう:大知さんは『五等分の花嫁』を手掛けて盛り上げたスタッフの1人ですけど、僕は大知さんとは初対面だったので、まずはコンセンサスを取るためにぶっちゃけたことを話し合ったんです。
これは春場先生が新しいことをやろうとしていたからなのかもしれないのですが、少し設定説明に時間がかかっている感じがしたので、セットアップの時間に関して、2人が思ったことを言い合いました。
テレビアニメということで、1クールでどこまでやるのかをまず決めて、そこから構成していくので、たとえば「第1話では戦闘員Dの決意までを語らせよう」、「第2話ではここまでやろう」とかを考えて、ある程度、話を短く組み合わせていくことを考えました。それに描くべきキャラクターが多いから、このあたりもサクサクサクと紹介していきたかったんです。
漫画って何度も戻って読むことができるけど、アニメはそうはいかなくて、ドラマが縦軸でずっと走っていくものだから、ある程度設定を早く認知してもらって、そこからドラマをバンバン回していったほうがいいんですよね。そのあたりを大知さんとも確認するような感じでした。
これは先生の作風なのかもしれないんですけど、登場キャラクターがものすごく多いんです。ただアニメは尺も本数も決まっているので、やれることが限られてくるんですよね。
昨今は原作漫画のままやるアニメは多いし、それはもちろん今回もやっていて、原作サイドに監修もしてもらっているのですが、アニメとしてドラマが縦軸で走っていくので整理はさせてもらっていて、戦闘員Dという主人公が、リベンジマッチしていく作品であるという軸を強く出そうと決め込みました。やはりアニメの視聴から入る方も多いでしょうし、我々はアニメを作るわけですから、そこは考えさせてもらいました。
――原作に合わせると言っても調整する部分もあるのですね。アニメだと更に、声や音楽もつきますが……
さとう:そうですね。漫画を読んでいる人も、アニメでは音声が付きますから。役者の声や音楽がついて、キャラクターの心情がよりわかりやすくなっていると思います。
あと、僕は自分のオリジナル作品のとき、モノローグをあまり付けないんですよ。でも漫画って、どうしてもモノローグが付いてくるんですよね。これまではそこを切ったりしていたんですけど、今回、Dくんのモノローグは活かそうと思いました。他のキャラクターに関しては、絵で表現できるところもあるので、モノローグは極力カットしているんですけど。
――先ほどの「主人公は戦闘員Dなんだ」というところにも繋がりますね。
さとう:僕も監督業を20年近くやっているので、僕なりにこの漫画を良い意味で補足させてもらったことがあるとすれば、モノローグを、戦闘員Dが何を考えて、次に何をするのかというのを立たせるために使うというやり方をしたことですかね。なので、モノローグ嫌いの僕が、モノローグを使っていると思ってくだされば嬉しいです(笑)。
ちなみにモノローグにはオリジナル要素もあるんですけど、そこは原作サイドにも確認をし、監修をしてもらったりしています。でも基本的には自由にやらせていただきました。
――今はアニメの本数自体が多くなってきて、早めに視聴するかどうかの判断をする人も多いので、アニメならではの見せ方で、わかりやすくしていくというのは、とても大事な観点なのかなと思いました。
さとう:だから「ヤンキーもの」だって周りのスタッフやライター陣には伝えていました。基本的には、戦隊になっていくために個人主義の連中がいて、その個人プレーが団体プレーに変わっていく。そこに群れない男(戦闘員D)が、相手の喉元掻っ切る目的のために、手段を選ばずに進んでいくんだけど、それが必然的にチームを組むようになっていく、みたいな。
――原作サイドとのやり取りは、ほかにどんなことをされていましたか?
さとう:絵コンテ段階で見せてくださいっていう要望はありましたので、それは見てもらいつつ、先生と何を一番確認したかというと、設定なんです。この主人公Dは、体は強固なボディではなく灰でできているからもろいですとか、再生の力はどうだとか、そういうところですね。漫画を読んでいても、「神具」って何が元でできているのかとか、ゆくゆくは出てくるとわかっていても前もって知っておかなければいけない情報はあるんです。まだ先生がペン入れする前の段階で、設定などは聞けたりしていたので、それが一番濃いやり取りでした。
――制作サイドから、アクションを盛り盛りでとお願いされたという話もありましたよね?
さとう:それは最初にありましたね(笑)。アクションが見たいです!と。僕は映画とかも撮っているけど、アクションの時間って、物によっては長くやっているとダレてしまうことがあるから難しいんです。アニメの本編は20分強で、その中にこれだけのキャラクターが言いたい放題出張ってくるので(笑)、アクションはうまく畳み込まないといけない……だからあれもこれもやりたいけどバランスを考えるのが大変でした。
――アクションをアニメで表現してくれているのかと思うとワクワクします!
さとう:あとはそれぞれのキャラクターの決め顔、キラーショット的なところですね。何も言わなくても、この表情でこのシーンは返してしまうのね!的なところは、テレビドラマっぽい作り方をしているのかな。テレビの画角を利用した感じにしようと思いました。ただ、このあたりは作り手のエゴでもあるので、お客さんが面白いと思ってくださればいいのかなって思っています。