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『戦隊大失格』をアニメで表現することへのこだわり/監督インタビュー

『戦隊大失格』をアニメで表現することへのこだわり|さとうけいいち監督インタビュー

 

カルチャーになっている戦隊モノを物語の中に組み込んだ作品

――春場ねぎ先生は絵がとても魅力的だと思うのですが、アニメのデザインに落とし込むときに意識したことはありますか?

さとう:春場ねぎ先生らしさというのは、当然キャラクターデザインに落とし込んでもらったのですが、アニメなので、コマの中にない表情をたくさん作らなければいけないんです。そこに僕の作風、演出が乗っかってくるので、表情のバリエーションは多めにしていました。

たとえば夢子がしゃべっているのを聞いている青年Dの内面が、セリフではなく顔だけで、何を言わんとしているのか伝わってくる、みたいなところは、漫画ではなかなかないと思うので、そういう部分でのアレンジはできるようにしています。

――そうするとドラマとしては奥深さが増しますよね。

さとう:僕は、3点リーダーのところを、絵でお芝居をさせてしまうところがあって、それをよく「さとう風」と言われたりするんです。セリフ終わりのところで表情変えを結構してしまうので、そういうシーンも結構あるのかな?って思っています。

 

 

――個人的には、夢子のかわいさが感じられて良かったなと思いました。

さとう:あの……関西弁で返しますね。「ほんまでっか!?」(笑)。

春場先生とリモートでミーティングをしたときだったかな? 編集サイドの方々に、アニメで言ったら夢子はどういうイメージに近いですか?と聞いたんです。そしたら峰不二子が一例として挙がりました。でも、峰不二子って大人じゃないですか。夢子は言ってもまだ小娘ですから。

結果的に、成人の女性のミステリアスな部分ではなく、夢子の場合は私生活を描いていないキャラクターなので、何を食べて、何時に寝ているのかもわからないタレントみたいな感じだなと思いました。

映画のキャラ的に考えるとハーレイ・クインとか、ああいったノリの、要は何を考えているかわからない小悪魔みたいに見えたらいいのかなと思ったんです。自分勝手と言えば自分勝手だけど、あまりグイグイこないような感じというか。そういう感じだったら自分でもできるのかなって。だからあれですね! 電話番号を聞きたいなって思うけど、聞けない子、みたいな感じ(笑)。そういう、周囲を振り回す子になればいいなと思いました。

――声もすごくミステリアスでした。

さとう:演者の矢野優美華さんは、何十人もオーディションをした中で選んだ子なんですけど、やはり聞き慣れない感じというのは欲しかったんです。初めて触れる感じの声とかお芝居がほしいと思って、夢子は矢野さんがいいなと思ったのかなぁ。ここは結構僕が推したと思います。

 

 

――ちなみに、戦闘員D役の小林裕介さんと、桜間日々輝役の梶田大嗣さんは、どう選んでいったのでしょうか?

さとう:小林さんと梶田さんには、どちらも2役やってもらっているんです。ここでも耳慣れない演者さんの声というのは、気にしていた部分でした。で、梶田さんはリズム感がある感じがしたのかな。日々輝って純粋なキャラじゃないですか。だから熱苦しさが欲しかったんです。真っ白過ぎる熱苦しさが表現できる感じ? そういう意味で、「よろしくお願いします」の挨拶の感じからそうだったし、無茶振りしても意外と全部食らいついてくるから、他の役とかでも呼んで、結構いろんなパターンの演技をしてもらった上で選んだ感じでした。

これはベテランの声優さんにもなんですけど、ブースで、レッドキーパーを受けに来ましたって方に、自分の思うレッドを演じてもらったあとに、もうちょっと癖がある感じとか、変態っぽい感じできる?っていろいろやってもらって、聞いているうちに、「この子、もしかするとこのキャラができるかもしれない」と思って、アドリブ的にポンと新しい原稿を渡して、この役をやってみてほしいと言ったりするんです。

小林さんには、啖呵切る感じでやってみてよとか、人を疑う感じを入れてみてよっていう注文をしたりした上で選んだ感じだったかな。

もちろん数分間は準備の時間があるんですけど、そこでやってもらったものも含めてじっくり考えて、このクセが咄嗟にでも演じられるということは、もうちょっと引き出しがあるんだろうなと考えながら決める、みたいな感じでした。

――個人的には、小野賢章さんがイエローキーパーは意外でした。

さとう:賢章ちゃんには別の役で来てもらっていたんですよ。だから、役者の顔を見てはダメだなと思いました。何々のキャラだよねって思っちゃうから、それを全部リセットするのが大事なんです。それは中村悠一さんもそうでしたね。

 

 

――中村さんはスーパー戦隊シリーズの声もやられていますし、M・A・Oさんは戦隊シリーズに出演もされていましたけど、そのあたりはあまり考えずに選んでいたのですか?

さとう:これは本当にたまたまで、そこまでガチンコで狙ってはいないんです。

それは何でかと言うと、この作品って、最初にタイトルで騙されたという話をしたと思うんですけど、戦隊を好きだった人に向けて作られているわけではないんです。

僕は純粋にこの作品を読んで、シナリオから絵コンテまで手掛けていたので、先行してキャラクターにお芝居をさせているわけです。その段階で、このキャラクターはこの辺のドラスティックさがほしいとか、サイコパス感がほしいとか、だらしなさがほしい、みたいなイメージがあったので、そのお芝居ができる人を探す感じでした。

確かにM・A・Oさんは戦隊でデビューして声優さんになったという流れがあるけど、そこはあまり狙ってなかったんです。でも、しっかりした感じの柔らかめなボイスだけど、キリッとした感じもしていいと思ったので決めました。

――特撮とアニメというところを、少し深く聞きたいのですが、確かにオマージュものとか、あるあるものではないんですよね。でもスタッフには、監督含め戦隊とかヒーローものに関わりのある方がいるところも面白いところだと思います。それについては、どのような立ち位置で作っていったのですか?

さとう:これまで特撮もアニメも手掛けてきて、特撮とアニメファンってイコールではないというのを、僕は何度も味わってきているんです。古くからそうなのかもしれないけど、平成あたりからはそんな空気があったんですね。

で、実際にこの作品もパロディものではない。スーパー戦隊シリーズなんて、もう49年のキャリアがあるんです。それってもう日本においてはカルチャーになっていて、春場先生の年齢からすると、生まれたときから戦隊がいるわけですよね。今生まれた子なんて、もう親戚とか、もしかしたらクラスの人数よりも多いくらい戦隊やライダーがいる(笑)。

 

 
だから、特撮をネタに作っているけど、特撮に対してリスペクトがないじゃないかとか、そういう次元の話ではなくて、クリエイターとしての春場ねぎ先生が、正義と悪を題材にしたときに、組織というものに対して個が、茶番劇を世に知らしめてやるよ!っていうドラマをどう描くか、なんですよね。で、そこにあったのがたまたま戦隊という組織ものだったっていうことだと思うんです。

『戦隊大失格』というタイトルだったけど読んでみたら、イメージしていたものと違うじゃん!って一度はなったんです。でも読み進めていってアニメ監督をやろう!と思える魅力があったんです。それで、自分がやるのならこの漫画を、ドラマとしてもっと盛り盛りにして、みんなに楽しんでもらおうって真面目に考えていきました。

でも、スタッフには戦隊モノの脚本を多く手掛ける荒川稔久さんが入ってくれていたりもするんです。荒川さんは大知さんの先輩で、大知さんが「起用したいんです」と言っていたんですけど。だからたぶん、大知さんのほうが僕より戦隊リスペクトをしていたのかもしれないなぁ。ずっとロボット出しますよね!って言ってたから(笑)。

――巨大ロボは必須ですからね(笑)。

さとう:僕は、「ロボット出すって言ってるけど、いいのかな?」って思っていたけど。大知さんは春場先生とも仲がいいだろうし、そこまでぶっち切れるほどの何かを持ってるんだろうな?と思って、最初は泳がしていたんだけどね(笑)。そんなことはなかったですね。

まぁでも僕からしたら、荒川さんが本を書いてくださったときは癒やしでしたけどね(笑)。荒川さんはここをこういう感じにするんだ、みたいな感じで。

 

 

――最後に映像的な部分の見どころも少しだけ聞きたいのですが

これまでのキャリアの中で、フルCGの映画も何本か撮りましたし、2Dとのハイブリッドメインでやってきたところもあるので、その経験をうまく活かしてできればいいかなと思っています。なのでその割合は、僕が考えている感じですね。

ただ、見栄えが良くなるという部分では、すごく地味なことだけど、マスクの目元だけは3Dで作っていたりするんです。最初のPVでもヘルメットがリッチに見えたと思うんですが、ああいった風に、立体的なものが入っているのはいいですよね。僕が特撮にいたということもあって、アニメでもしやるのであれば、漫画以上に立体的になるものがあったほうが視聴者も実感できると思ったので、そういった部分でCGを使ったりしています。

――アクションはほぼ手描きなのですか?

さとう:ほぼ手描きです。3DCGで背景とマッチングするためにガイドを3Dで出したりはしているけど。あの、マントがあるとCGでころんころんと転がったりすると制御が大変になるんです。なのでマントがあるところは100%手描きだと思ってください。

――アニメを楽しみにされている視聴者へのメッセージをお願いいたします。

さとう:硬くならずにサスペンスコメディーを楽しんで頂けたら幸いです。

 
[文&写真・塚越淳一]

 

作品情報

2024年TBS系全国28局ネットにて放送開始予定

あらすじ

13年前、突如始まった怪人と大戦隊との存亡をかけた戦い。だがこの戦い、実は茶番劇?!

とうの昔にアジトは陥落、怪人幹部も全滅、残った下っ端戦闘員ダスターズは、大戦隊と結ばされた秘密の協定<毎週末、地上侵攻し敗れ散る>を繰りかえす日々。

この敗け続けの人生に、やさぐれた戦闘員Dは遂に立ち上がる!

スタッフ&キャスト

原作/春場ねぎ『戦隊大失格』(講談社「週刊少年マガジン」連載)
監督/さとうけいいち
シリーズ構成/大知慶一郎
キャラクターデザイン/古関果歩子
アニメーションスーパーバイザー/羽山賢二
音楽/池頼広
色彩設計/近藤直登
美術監督/権瓶岳斗(グーフィー)
3DCGディレクター/千葉高雪(A-worth)、竹内晋作(サブリメイション)
撮影監督/久保田淳
アニメーション制作/Yostar Pictures
キャスト/小林裕介、梶田大嗣、矢野優美華、
中村悠一、井上剛、小野賢章、鳥海浩輔、M・A・O
吉野裕行、長江里加、和氣あず未、立木文彦
小野友樹、山下誠一郎、鬼頭明里、濱野大輝、黒沢ともよ
三上枝織、逢坂良太、清水優譲、野津山幸宏、羊宮妃那
OP主題歌/キタニタツヤ「次回予告」

公式サイト
公式X(@anime_sentai)

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