四季の移ろいを感じる情緒的な演技。童心に帰る大切さを想い起こさせてくれる温かさ――安野モヨコさん原作、スタジオカラー制作のアニメ『オチビサン』塙 真奈美さん×岡本信彦さん×井澤詩織さんインタビュー
回ごとでなくランダムの収録?季節感と情緒がバラバラに!?
――今、収録の話題が出ましたが、1話に複数のエピソードある中で、各エピソードに登場するキャラクターのキャストの方とは一緒に収録できたんですか?
岡本:エピソードに出てくる方とは一緒だったんですけど、話数はランダムで収録しています。
井澤:春編のエピソードを録って、次は夏編、その次は秋編、みたいな。基本はこの3人とおじい(CV.茶風林)でした。
塙:それ以外のキャラが登場するシーンはまとめて録っていましたね。一部抜き録りの方もいましたけど。
――1話に複数のエピソードがあって、テンポ感もあるので切り替えが大変だろうなと思ってはいましたが、季節感もバラバラだとなおさら大変ですね。
岡本:情緒とかめちゃめちゃですし(笑)、春夏秋冬の統一性を考えるとやっぱり難しかったですね。しかも登場するキャラクターによって空気感が変わることもあって。第6話のおじいとジャックのエピソードとか、いつもとまったく違うんですよね。
原作がそのまま動き出したような5分アニメとは思えない満足感。EDのノスタルジー感も素敵
――アニメをご覧になった感想をお聞かせください。
塙:原作のあの雰囲気がどうやってアニメになるのかオンエアを楽しみにしていましたが、実際に見てみたら原作のマンガがそのままアニメになった感じで。そこに音声が入ったことで、まるで絵画が動き出したように見えました。
最初に監督が「大人の方にこそ見てほしい」とおっしゃっていたので、原作の持つ癒される素敵な雰囲気をぜひアニメで体感していただきたいなと改めて思いました。またオンエア後に友人から連絡があって、「子供たちと楽しく見ているよ」というメッセージと、見ている様子の動画も送ってくれて。「子供たちも楽しんでいるけど、自分自身も癒されているし、懐かしい感じがする」という連絡ももらったりするので、本当に素敵な作品になっているんだなと実感しました。
岡本:元々、新版画風で温かみのある絵を動かすというのは今までのアニメ制作と違うんだろうなと。大人にとってはどこか懐かしい気持ちになれたり、童心に帰りながら見られるんだろうなとも思いました。
EDで流れる主題歌(森山直太朗「ロマンティーク」)は少し寂しげで、夕暮れ時のノスタルジックを感じるような。元気いっぱいに走っているオチビサンたちがいる中で何とも言えないせつなさがあるんですよね。例えるならめっちゃ寒い中でストーブにあたっているような、一部分の温かみを感じながら見られる主題歌とEDになっていて。曲調もおしゃれでもあり、寂しくもありという印象があります。絵柄とのギャップが良い味を出しているのではないでしょうか。
井澤:最初にアニメを見た時は5分間とは思えない満足感がありました。フル3Dアニメならではの表現がありつつ、手描きの温かみを感じるし、話数によっては静止画っぽいところもあって。「さすがスタジオカラーだな」と。現代のアニメーションの手法を詰め込んでいるので、「アニメオタクを名乗るなら絶対見たほうがいいですよ」と声を大にして言いたいです。
全年齢向けで、大人が見ても子供が見てもそれぞれ楽しみ方があるので、私もオンエア後に友達や親せきから連絡が来ましたし、うちの母も毎回楽しみにしていると言ってくれているので、まだまだずっと続いてくれればいいなと思っています。
春・夏編の印象的なエピソード
――この記事が掲載される時には春編と夏編が終わって、秋編へと入りますが、これまで放送された話数の中で印象的なエピソードを教えてください。
塙:素晴らしいエピソードが多いからこそシンプルなものに心がひかれて。第7話、梅雨の時期のお話で、空が厚い雲に覆われていて、雨も降っているので、気持ちもどんよりしちゃうかなと思う中、オチビサンとパンくいは雨だれごっこをしたり、パンくいは雨だれに打たれる葉っぱのモノマネをしていたり、楽しみを見つけられるのがすごいなと思いました。梅雨になるとカエルのモノマネをしたり、ぴちゃぴちゃ水遊びをする人はいても、雨だれや雨だれに打たれる葉っぱのモノマネをする人はなかなかいませんから(笑)。
――第7話ではかびてしまったパンのためにお墓を作るパンくいが印象深かったです。
塙:パンくいの不思議な面も見られて、盛りだくさんでした(笑)。私自身、四季を楽しむというのはこういうことなんだと印象に残っています。
岡本:僕は第12話の花火のエピソードです。何で花火は夏じゃなければいけないのか、と僕も子供の頃、思いましたが、その答えをナゼニたちが何となく言ってくれて。「花火が消えた瞬間に寂しくなるから夏がいい」という考えは、「確かに冬にやったらもっと寂しくなるもんな」と思える、情緒的なものに直接訴えかけてくるような答えで、僕も大人ながらに納得させられましたし、考えさせられるものがありました。
――先ほど岡本さんが触れた第6話のおじいとジャックのエピソードも印象深いです。
岡本:悲しい以外の何物でもないですよね(笑)。ジャック(CV,後藤ヒロキ)への絆や関係性もまた良くて。収録中もおじいのすすり泣く声を聞いて、僕も泣きそうになりました。しょうがない話ではあるけど、悲しかったし、この作品の世界にもこういう概念があるんだと思いました。
井澤:私は第2話で、オチビサン、ナゼニ、シロッポイの4人のお散歩中、空気中に飛び散る花粉を追いかけるパンくいのエキセントリックさにしびれました(笑)。
塙:私もしびれました(笑)。
井澤:最初は「二人の周りの花粉を取ってあげたから楽になったでしょ?」と優しかったのに、「それ、どうするの?」と尋ねたら、ニヒヒと笑いながら集めた花粉を手に、オチビサンたちを追いかけて。
岡本:恐ろしい。
井澤:なかなかのエキセントリックさでお気に入りです。
岡本:悪ガキ要素もあってね。
井澤:あと第1話で、みんなでつくし取りに行って、ナゼニが鍋にしてくれたのに、誰も食べなくて、結局ナゼニが一人で食べることになるお話もお気に入りです。
塙:子供の頃って、ただ見つけて取るのが楽しくて。そういえば、取った後にどうしたのか記憶にありません(笑)。
井澤:食べないなあ。
岡本:今だからこそ食べてみたいですけどね。
井澤:全体的に食べ物がおいしそうな回がいっぱいあって、割と飯テロと呼ばれています(笑)。
塙:第2話に出てきたゆで卵と菜の花のマヨネーズサンドイッチもおいしそうでしたよね。
井澤:あと第9話で、ご飯のおかずが優秀だからパンにのせてもおいしいと主張するオチビサンに、パンが優秀だから何を合わせてもおいしいと反論するパンくいがパンのおかずを次々に挙げていったけど、追い詰められてジャムやピーナッツバターも出して。そうしたら食べてみろと言われてご飯の上にイチゴジャムやピーナッツバターがのせられて。しかもなぜかご飯が大盛りで(笑)。
塙:意地になって食べ続けるパンくいに、オチビサンも「ごめんよ。もうやめて」と降参して。
井澤:そんな食べ物の描写が注目ポイントです。