『傷物語 -こよみヴァンプ-』監督の思いの丈と熱量がこもったオーダーを音楽で具現化|クレモンティーヌさん(歌唱)×神前 暁(MONACA)さん(作曲)×高田龍一(MONACA)さん(編曲)主題歌スタッフインタビュー【後編】
2016年から2017年にかけて展開された映画『傷物語』3部作。それらをひとつの作品として再構成したアニメ映画『傷物語 -こよみヴァンプ-』が、2024年1月12日(金)より絶賛公開中です。
本作は、西尾維新先生の小説を原作とし、2009年の『化物語』からスタートしたアニメ『〈物語〉シリーズ』のひとつで、主人公・阿良々木暦が怪異と関わる発端となったエピソードを描いています。
アニメイトタイムズでは、前後編に分け、本作の主題歌「étoile et toi [édition le noir]」を歌うシンガーのクレモンティーヌさん、作曲の神前 暁(MONACA)さん、編曲の高田龍一(MONACA)さんの鼎談をお届け。
後編となる今回は、レコーディング時のエピソードや、実際に主題歌が流れたときの感想などを語っていただきました。
前回の記事
思いの丈と熱量がこもった尾石監督のオーダーとは?
――主題歌のレコーディング時のお話も伺えればと思います。事前に、クレモンティーヌさんと打ち合わせなどはしたのでしょうか?
神前 暁さん(以下、神前):事前にというよりは、スタジオで録りながら話していく感じでした。もちろん事前に音源はお送りしていますし、何より、もう2回歌ってもらっていますので。
――〈Ⅲ冷血篇〉では、大人と子供が歌うという形でキスショットを表現していたと思うのですが、今回は、キスショットと阿良々木暦という雰囲気が感じられました。
神前:まぁ、そういうことになるんでしょうね。男女ということと、男性のほうが若いというところなので。
高田龍一さん(以下、高田):ピアノの感じも、子供のボーカルのままであれば前のままで良かったんですが、やはりちょっと弾き方を変える必要が出てくるんです。なので、意外とデュエットは大変でした(笑)。
――今回の男性とのデュエットはいかがでしたか?
クレモンティーヌさん(以下、クレモンティーヌ):若い男性とのデュオということで、(シンガーを)いろいろ探したんですが、実はこの曲を歌っているのは、私の息子なんです。普段彼はラップをやっていて、彼にとっては初めてのプロとのレコーディングだったし、私も息子がああいうふうに歌うのを知らなかったので、なるほど、こういう風に表現するんだと思いました。みなさんが「それでいいよ」と言ってくれたので、私にとっても新しい経験になりました(笑)。
――レコーディングはフランスで行われたとのことですが、その思い出はありますか?
神前:最初、息子さんは緊張されていたと思うんですが、だんだん打ち解けていきました。とてもアットホームなスタジオだったんですよね。
クレモンティーヌ:大雨の中でしたよね(笑)。
高田:スタジオなんですが、まるでご自宅の収録スタジオに招いていただいたような自然な雰囲気で、ゆっくり時間をかけて録っていけたような感じがします。
それにmeg rockさんもいましたので、みんながそれぞれの観点から、こうじゃないか、ああじゃないかって率直に言い合える環境で、いろんなことが自然発生的に起こるようなレコーディングだったんです。誰かひとりが主導権を握るのではなくて、その場のみんなで作り上げていっているように僕は感じました。
――クレモンティーヌさんは、いかがでしたか?
クレモンティーヌ:コロナ明けということもあって、すごく久しぶりに日本からクリエイターの方が来てくれたんです。そうやってものづくりをするのが本当に久しぶりだったので、こんなだったなって思いました(笑)。日本人のクリエイターはすごくプロフェッショナルで、皆さん本当に素晴らしいので、それを思い出させてくれたレコーディングでもありました。
――ちなみに、海外でレコーディングした感じは音にも乗るのでしょうか? 楽器ではないのであまり影響しないのかもしれないですが。
高田:電圧とか…?
神前:湿度が違うというのはありますよね。ただ、このスタジオに関しては、かなりウォームな感じだったので、何か温かい音の感じはしました。やはりフランスまで行って、みんなで作った意味はあったと思います。それまではデータのやり取りで作っていたので。
――映画では、この曲に行くまでの前奏があって、それによって前編でお話に出ていた「怪奇っぽさ」につながったのかな?と思ったのですが。
神前:あれはもう完全に尾石監督のオーダー通りなんですけども……。
――オーダーはどんな感じだったのですか?
神前:大ヒット曲を期待してコンサートに行ったら、全然知らない曲が流れてもやもやして……みたいな?(笑)
高田:「どうなっているんだろう?」っていう(笑)。
神前:「何だこれは?」って思っているうちに知っている旋律が出てきて、「これ――!」って盛り上がる観客、みたいなイメージだそうです。
――面白いですけど、確かにそんな感じでしたね。
神前:あと、「バッドエンドの重苦しい雰囲気」とメモにありますね。尾石監督のオーダーは、いつも非常に細かいというか、思いの丈、熱量がすごいんです。なのでそれを僕らは具現化するだけなんです。
――専門的なことではなく、思いなんですね。
神前:はい。思いの丈です。それを音にしていく感じになります。