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アニメ『薬屋のひとりごと』は無意識を刺激する計算された一作/長沼範裕監督インタビュー

“無意識を刺激する”計算された画作り。一瞬に詰め込まれた意図の数々―― TVアニメ『薬屋のひとりごと』監督・シリーズ構成:長沼範裕氏インタビュー

シリーズ累計3100万部突破の大人気後宮謎解きエンタテインメント『薬屋のひとりごと』のTVアニメが絶賛放送中! とある大国の帝の妃たちが住む後宮を舞台に、そこで起こる事件や陰謀に巻き込まれる主人公・猫猫(マオマオ)の活躍が描かれています。

2024年1月6日から第2クール目がスタートした本作。今回、監督とシリーズ構成を手掛ける長沼範裕さんにインタビュー! 全24話のテーマや各話に詰め込まれた細かな意図、あらゆる年齢層に見てもらうための作品作りについてのお話を伺いました。

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薬屋のひとりごと
大陸の中央に位置するとある大国。その国の帝の妃たちが住む後宮に一人の娘がいた。名前は、猫猫(マオマオ)。花街で薬師をやっていたが、現在は後宮で下働き中である。ある日、帝の御子たちが皆短命であることを知る。今現在いる二人の御子もともに病で次第に弱っている話を聞いた猫猫は、興味本位でその原因を調べ始める。呪いなどあるわけないと言わんばかりに。美形の宦官・壬氏(ジンシ)は、猫猫を帝の寵妃の毒見役にする。人間には興味がないが、毒と薬の執着は異常、そんな花街育ちの薬師が巻き込まれる噂や事件。きれいな薔薇にはとげがある、女の園は毒だらけ、噂と陰謀事欠かず。壬氏からどんどん面倒事を押し付けられながらも、仕事をこなしていく猫猫。稀代の毒好き娘が今日も後宮内を駆け回る。作品名薬屋のひとりごと放送形態TVアニメスケジュール2023年10月21日(土)〜2024年3月23日(土)日本テレビ系にて話数全24話キャスト猫猫(マオマオ):悠木碧壬氏:大塚剛央高順:小西克幸玉葉妃:種﨑敦美梨花妃:石川由依里樹妃:木野日菜阿多妃:甲斐田裕子梅梅:潘めぐみ白鈴:小清水亜美女華:七海ひろきやり手婆:斉藤貴美子羅門:家中宏李白:赤羽根健治小蘭:久野美咲やぶ医者:か...

無意識を刺激する作品作り

――監督のXでは各話のテーマが紹介されています。改めて全体を通してのテーマを教えてください。

長沼範裕監督(以下、長沼):全体としては「親と子」です。あと普遍的な「生と死」もテーマに取り入れています。

――このふたつを軸に各話のテーマがあるんですね。

長沼:そうですね。各話を補完するようなテーマや見せ方を絡めて大きなテーマを強調する、といった作り方になっています。

――第2クールのテーマも変わりなく?

長沼:第1話〜第24話までの話として構成しているので変わらないです。変わったところとしては、第1話〜第12話までは“猫猫の側にカメラがある”という感覚だったんですが、第13話からは猫猫を取り巻く環境にスポットが当たっています。カメラが客観的になり、より群像の部分が強調されテーマがより多角的に濃く見える見せ方にしています。

――演出部分に変化も?

長沼:そうですね。第12話までは猫猫を軸に物語が進みましたが、第13話からは壬氏が入ってきます。そして彼の立場が故の事件が起こるんですが、それに猫猫が巻き込まれる構造になっています。第1話~第12話までは猫猫単体のイメージですが、第13話からは猫猫、壬氏、そのほかの人々が加わってより大きな事件が起き、猫猫以外のキャラの内面や芝居を深掘りする撮り方や見せ方に変えています。

――これまでは細かな絵の表現で感情などが表現されていました。第13話以降、これらも変わりなく?

長沼:もちろんです。全てを計算して作っていますし、個人の意見ですが、実写と違ってアニメは偶発的なものはないと思っています。今後もシチュエーションに合わせた画作りを含め、色、密度、音楽まで意識して作られたものになっているかなと。

――今後、作品の印象が変わることもありそうですね。

長沼:第1話~第12話で土台を作ったと思っています。視聴者の感覚が出来上がった上で第13話〜第24話を見てもらうことで、“これはこういう表現なんだ”と伝われば良いなと思っています。

――これまで、視聴者がまだ気付いていない仕掛けがあったり?

長沼:あると思います。例えば、第9話ですごく赤いシーンがありますが、その赤は「生と死」を表現していて。加えて、この表現は第7話後半の「毒見役の命なんて大したことがない」というセリフのアンサーでもあるんです。さらに、第7話の猫猫はなぜ壬氏の手を払ったのかという部分のアンサーにも繋がるわけで。直前の第6話であれだけ距離感を近づけていたのはこの落差を引き立てるためで、キャストさんにもそのように演じてくださいと伝えていました

――なるほど。

長沼:それらのアンサーとなる第9話に向かうまでに、第7話で回想を描いて、そして第8話では「生と死」を描く。そうすれば、今後描かれる猫猫の生い立ちに繋
がるエピソードを絡めた見せ方「多重」に繋がるんです。

第9話でそれらの結果が出てきましたが、その際、夕景が赤く染まっているのは「これ以上踏み込むのは危険」という危険信号の表現です。そこで壬氏は覚悟があるのか問われましたが、ここでは猫猫を追わないんです。そこからは赤い夕景や風景をほぼ使用してません。画面を見て目が痛いと思ったかもしれませんが(笑)、そんな色の演出をしていたり、ほかにも視覚や音の仕掛けをたくさん用意しています。

――気付いているけど意識しきれていない仕掛けがあるんですね。

長沼:それが一番の理想ですね。言葉や絵にするのはわかりやすいんですが、そこにどう深みを出すのか、何回も見てもらえるのか。それを考えたときに無意識を刺激することが大事になるんだと自分は思っています。

例えば、なんとなく怖い絵だな、と感じてもらえると頭に引っかかりができるんですね、そのあと引っかかりの答えを用意するとスッキリするんです。そうすると今までのセリフや表情の捉え方がガラリと変わるんです。そういう意味で視聴者の無意識の状態は意識しています。

あとは効果音。特に足し引きは大事で、本来は音を絶対に付けないといけない場面であえて抜いていたりします。

――言われてみればそういう場面があった気がします。

長沼:こちらで音を付けてしまうとイメージが固まってしまいますが、付けないことで見ている人には無意識にイメージした聴きたい音が聞こえるんです。全体を通してそのような引き算をしています。

――まさに計算された演出だったんですね。

長沼:そうですね。なぜだか不安や緊張を感じて意識して聞いてしまう、みたいな状況を意図的に作り上げていて。それは本来のアニメーションの醍醐味でもあると自分は思っています。

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