『僕の心のヤバイやつ』第2期 連載インタビュー第6回:神崎健太役・佐藤 元さん×原穂乃香役・豊崎愛生さん|作品全体の陽だまりのような優しい雰囲気が途切れないように、みんなで紡いでいけたら良いなって
TVアニメ『僕の心のヤバイやつ』第2期が、テレビ朝日系全国24局ネット“NUMAnimation”枠・BS朝日・CSテレ朝チャンネル1にて放送されています。桜井のりお先生が『マンガクロス』(秋田書店)で連載中の『僕の心のヤバイやつ』は、SNSを中心に人気を集め、コミックス累計発行部数400万部を突破中の話題作です。
アニメイトタイムズでは第1期に引き続き連載インタビューを実施中です。連載6回は神崎健太役・佐藤 元さん、原穂乃香役・豊崎愛生さんが登場。これまでを振り返りつつ、神崎と原(さん)、市川と山田によるダブルデート回に至るまでの裏話をたっぷりうかがいました。
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桜井先生の描く青春ってなんて素敵なんだろうって
――本連載でお話をうかがうのは初めてなので、遡ってお話をおうかがいさせてください。まず、第1期を振り返ってみるとどのような印象がありますか?
神崎健太役・佐藤 元さん(以下佐藤):1話だけは「本当にやべぇヤツ」ってくらいで、それ以降はビックリするくらい思春期をしていますよね。
第1期では、くっつく・くっつかないといったもどかしさが意外と控えめだった印象があります。山田よりも、市川が山田のことをどう思っているのか、という視点が多かったので、見ていると「早くいけよ」と視聴者が友だちのように声をかけてしまうというか(笑)。そういう感覚でいられるところが面白いなと思いました。
原穂乃香役・豊崎愛生さん(以下、豊崎):本当に素敵な作品で私も大好きです。いろいろな人に見ていただきたい。まさに今山田ちゃん、京太郎くんと同世代で、思春期真っ只中のような人たちに見ていただけると、共感できることがいっぱいあると思います。一方、私たち世代の大人が見ると、ものすごくもどかしいけど応援したくなるような……人生のいちばんキラキラして柔らかいところをもっかい突つかれて、掘り起こされるような気持ちになって。
ラブコメ作品でありながらも、ラブの要素だけではなく、京太郎くんがちょっとずつ大人になっていく、成長物語でもあると思っていて。しかも、急に変わってしまうわけでもなく、急になにかができるようになるでもなく、自分の心の、ものすごくミニマムなところの繊細な変化を描写で拾っていく。それってものすごく珍しいストーリーなんじゃないかなって私は感じています。
――実際に秋田書店の担当編集である髙橋圭太さんと福田裕子さんにお話をうかがった際に、福田さんが「“ギリギリ在るかもしれない”というものを意識しているので、ありえないラッキースケベではないんですよね、この作品は。市川が自分の力で頑張って山田の心を動かして、成長していく物語なんです」とおっしゃっていました。
豊崎:うんうん。京太郎くんって「僕はこうだ!」って主張しているけど、実はものすごく周りの目を気にして生きてるところがあるんですよね。でも自分の存在価値、自分がどういう人なのかを自分で決めるというより、周りの評価で決めちゃってきたところから……それは山田ちゃんにも言えることなのですが、少しずつ“自分を好きになる”という体験をしていて。多感な時期に、自分を認めている体験をしているか・していないかってものすごくその後の人生に響く気がしていて。それを見てくれている人にも教えてくれるし、私たちも疑似体験ができる。そういうところで、桜井(のりお)先生が描いている青春って素敵だなって思います。
――そういう意味では、神崎は自身を常に貫いているような……。
佐藤:いろいろな意味で(笑)。そういうキャラではあるんですけども、彼自身がものすごく素直なんですよね。「原さんって良いよね〜」って、最初から原さんに気持ちを向けていましたし、結構早い段階で原さんと良い感じになるし。
行動力はしっかりありますよね。時にはぶつかってしまうこともありますけど、それを口に出せる、ぶつかれるって大事なことだなって。“思春期の男の子”なところはありますけど、そこは誰もが通る道ですから、共感もできるんですけども……好きって気持ちを隠さないってものすごく勇気のいることだと思うんですよ。
豊崎:京太郎が「僕にないものをコイツは持ってる!」って言うくらいですからね(笑)。
佐藤:認められましたから(笑)。気持ちをオープンにできるって、大人の僕らも大事にしなきゃいけないことなんだろうなって思いました。状況によっては「それはどうなの?」ってなるのかもしれないけれど、あれくらい素直に、屈折せずに「僕はこれが好きなんだ〜!」ってドーン!と言えば、玉砕しても、むしろスッキリするんじゃないかなって。後悔のない生き方を彼はしているんですよね。それは19話を通してやっとわかったところがありました。
――それまでは、神崎にどのような印象を抱いていたのでしょうか?
佐藤:それまでは「ピュアなんだけど変なヤツ」という印象があって、最初は「どっちを立たせれば良いんだろう?」と迷う時もあったんです。
少し話が遡りますが、実は(市川の)オーディションを受けさせてもらっていたんです。オーディションの台本には声変わりの場面も入っていて。僕自身は落ちてしまったんですけども「一体この難しい役を誰がやれるんだろう?」と思っていました。そしたら堀江瞬さんだったので「堀江さんなら、もう!」と。そしたら、ありがたいことに神崎役で呼んでいただけて、とてもうれしかったです。
彼のことをしっかり理解するまでに時間はかかってしまいましたが……19話の台本を読んだ時に「やっと見つけた! お前の本当の姿を!」と掴んだところがありました。自分の主張もあるけど、人の意見を聞くこともできる。だから彼は、こんなにまっすぐだったんだなって。
神崎だけでなく、原さんに対する見方も変わるお話だと思います。
――インタビューが始まる前に、佐藤さんが遠藤一樹プロデューサー(テレビ朝日)と話しこまれていて、その中で神崎のドスケベ具合を表現するにあたって悩まれていたと。それは役に決まったときからだったんですか?
佐藤:ずっとですね。彼はドスケベでピュアでいい子。第1期ではその素直さが表現しきれなかったように自分では感じていて、悔しい思いがありました。第2期ではなんとか盛り返してたいと思って。毎回悩みながら演じていましたね。
この作品に限らず、僕は普段から悩むことが多いタイプなんです。作品に役者として携わらせていただく限りは、キャラクターの魅力を余すことなく伝えたい。そのためにはどうすれば良いのか、と常に考えているんですけども、その中でも神崎はものすごく難しい役柄だと思っていました。このままでは、僕のせいで『僕ヤバ』が面白くなくなってしまうんじゃないか、とまで考えていましたね。
遠藤一樹プロデューサー:そこまで考えていただけていたというのは、僕としてはとてもありがたいなと思っています。アフレコでは細かいニュアンスのディレクションをお願いしてしまったところがあったんですけども。
佐藤:それはむしろありがたかったです。僕のことを信じていただけたからこそ、細かいディレクションをいただけるんだろうなと。選んでいただけたこと自体、とても光栄なことですから。
――19話は迷いはなく?
佐藤:悩みながらではあったんですけど「もういくか!」と。さきほど「彼はドスケベで、ピュアでいい子」と言いましたけども、それまではそれを二面性として捉えようとしてたところがあったんですね。“変態だけどいい子”っていう。むしろ、彼はそのふたつの側面を持っているわけじゃなくて、それも含めて彼は素直なんだ、と確信をして演じたときに「あ、できた」と。だから19話にいく時は「いけるな、今日は」という自信もありました。ふざけられるシーンはとことんふざけて、まっすぐな場面はとことんまっすぐ伝えて。赤城監督、小沼音響監督から「今日神崎良い感じですね」という言葉が聞こえてきて「ああ、きた! 勝った!」って。
――豊崎さんが佐藤さんのお話を聞かれながらずっとうなずかれていましたが……。
豊崎:神崎くんって、なんというかずっとかわいいキャラクターなんですよね。桜井先生はキャラクターの描きわけがものすごく繊細で。中でも神崎くんっていちばん少年っぽさの残る顔つきをしていて、ピュアなんですよね。ピュアなまま思春期を迎えているから、エロが混じっていて。周りに「変態」と思われていて、エッチなことすら恥ずかしいと思わない「だって良いじゃん!」と。そのまっすぐさが彼のかわいいところであり、神崎くんの“心のヤバイやつ”なんだと思っています。
神崎くんと原ちゃんって、ナチュラルな人たちなんですよね。思春期で周りの子たちが素直になれない中で、自然体でいる人たち。
佐藤:確かに。
豊崎:だからこそ京太郎くんも、原さんには少しだけ心を開いていて。なぜなら裏表がないから。それが伝わる人柄じゃないとだめだなって思っていました。
佐藤くんはすごく悩んでいたとおっしゃってたんですけども、試行錯誤もしつつできあがった神崎くんのキャラクター像って、ものすごくかわいくて。時々すごいことを言うじゃないですか。ものすごくストレート。それに原さんは呆れながらも、神崎くんの良さを受け止めている。そういう原さんを演じるにあたって、佐藤くんの演じる神崎くんからいっぱいヒントをもらいました。だからすごくやりやすかったです。
佐藤くんは神崎について、二面性なのか、全部合わせて彼の本質なのか、ってところで考えていらっしゃったと思うんですけども……ちょっとうまく言葉にできないかもしれませんが、例えば「笑わせよう!」と思ってお芝居に挑むと、笑わすってものすごく難しくて。
佐藤:ものすごく分かります!
豊崎:「面白いこといいまっせー!」って言うよりも「笑ってはいけない」って時のほうが、意外と笑えるんですよね。泣く、怒るとかもそうで。
もちろんシチュエーションにもよりますけど、うわーんって泣いている人よりも、泣くのをこらえて我慢している人を見ているほうが、心にグッとくることがあると思うんです。実際「悲しい〜」って泣くお芝居よりも、泣くのを我慢する表現をするほうが難しいと私は考えていて。
『僕ヤバ』ってそういうものが詰まっていると思うんです。うれしいけど我慢する、好きだけどポーカーフェイスを貫く。自分の心の中にヤバイやつがいるけど、それを表に出さないように、悟られないように(日常生活の中で)演じている。それは京太郎くんに顕著で。だからこそ、心の中のモノローグがすごくあるんじゃないかなって思っています。
私たちのお芝居感も……真逆のところを混ぜていけたら、関係性が豊かになるのかなと思っていました。特に主演のふたりは、素直になれずに真逆なことを行動に出してしまうというお芝居をしているから、表面的ではなく、ものすごく深みがあるんですよね。そこが監督や音響監督チームが狙っているお芝居感なのかもって私は思っていました。
――豊崎さん自身もそういったことを意識しながら原さんを演じられていたんでしょうか?
豊崎:そうですね。ただ、原ちゃんは表裏がないキャラクターですし、裏があっちゃうとマズイキャラなので(笑)。ちょっとだけ含みを持たせたり、からかったりするけれど、そこに他意はまったくないですしね。不器用な山田ちゃんの姿を見て、かわいいな、ふふって思えるところは私にもリンクするところがあったので、楽しく演じさせていただきました。スタッフの皆さんのブースでどのような話が飛び交っていたかは分からないのですが(笑)。
遠藤プロデューサー:豊崎さんに演じてもらえて「これしかないな」と思っていました。
豊崎:そう言っていただけるとうれしいです。第1期の序盤の時は今とは山田ちゃんとの距離感が違ったこともあって、内気で、少しだけコンプレックスがあるけど、喋るのは嫌いじゃないといった雰囲気を出してみようかなと考えていて。それが伝わってからは、引っ込み思案な要素をあまりドロドロさせないでいようと。だから最初だけちょこっとだけ、今よりトーンを低めで演じていました。
彼女自身、自分の体型にコンプレックスは持っていて。山田ちゃんと写真を撮る時にヒュッと顔を引いてしまったりとか(笑)、年相応の女の子のムーブもするんです。でもそれを攻撃的な気持ちには変えないんですよね。だから恨む、妬むとかはせず、「あ〜それに比べて私は」って感じで自分に還元していく子。シンプルに、めちゃくちゃ性格が良い。それがぬくもりの人と呼ばれる所以なのかなと感じています。
ちょっと話が長くなってしまって申し訳ないのですが……その上で、佐藤くんがまっすぐに「原さんの体型が良い!」「外見が好き!」と、いうまっすぐな芝居をしてくれればしてくれるほど、神崎はヤバイやつになるんです(笑)。「こいつ、いちばんヤバイんじゃないか?」って思わせるような、キャラが立っているように思うんですよね。
佐藤:なるほど(笑)。しかも、彼の場合は、心の中にとどまらずに全部が出ちゃう。
豊崎:僕らは溢れる、ですから。山田ちゃんと京太郎くんだけじゃないですからね。
――神崎が原さんに対して「かわいい」と連呼して、原さんが普通に受け止めていることも印象的でした。「いつも言ってるよ」っていう。
豊崎:19話に至るまでにふたりの時間があったんだろうな、と思わせるような描写だなって思っていました。アニメでは描かれていない、重ねた時間があるはずなんですよね。