『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』福田己津央監督インタビュー後編|アスランの“あのシーン”は、「彼が完璧でカッコよすぎる」から生まれた!?
現在、全国の映画館で大ヒットを飛ばしている『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』。
本作は、2002年にTVアニメが放送され、新たな『ガンダム』ファンを多数獲得し、大きなムーブメントを巻き起こしたTVアニメ『機動戦士ガンダムSEED』、そして2004年に放送された『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』の約2年後を描いた「ガンダムSEEDシリーズ」の最新作です。
アニメイトタイムズでは、『SEED』及び『SEED DESTINY』、そして『SEED FREEDOM』でも監督を務めた、福田己津央氏へのインタビューを前後編に分け実施。
『SEED』の物語をともに作り上げてきた両澤千晶氏とのやり取りや、アスランの“あのシーン”のことなど、後編も盛りだくさんな内容となっていますので、是非ご一読ください。
※本インタビューには『SEED FREEDOM』のネタバレが含まれますので、ご了承ください。
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時間を置いたことによって“本来のシン”を描くことができた
――本作はキラとラクスが軸ではあるのですが、シンにもすごく焦点が当たっていて、『DESTINY』からのドラマに決着がついたという印象を受けました。
福田:まぁ、今回は別にそんなに大きな話でもなくて、単純に本来のシンはああいうキャラクターだっていう風にずっと思っていたんですよね。
『DESTINY』を思い返せば、当時は僕も含め、制作側も演者も、全員が心に余裕がない状態でキャラクターを動かしていた感じがします。「シン・アスカってこうじゃないよな」と僕は言い続けていたんですが、あの時は第1話の家族が死んだところからスタートし、すぐオーブのちょっとポンコツな姫が来てブチ切れちゃうという流れに引っ張られて、怒りの部分が強くなりすぎちゃったんですよね。いつのまにか、それが彼のアイデンティティにもなってしまっていて。
――確かに、シンといえば“怒り”のイメージです。
福田:キラはどっちかというとボーっとした子なんですが、本来のシンは人懐っこくて優しい子なんです。それがちょっと時間を置いたことによって表現しやすくなったのかなと思っていますね。
正直に言ってしまうと、『DESTINY』の最初の段階で、「シンを主役で最後まで物語を進めるには難しいな」と思ってしまったんですよね。なので両澤は、早々にアスランに物語の軸を切り替えていましたし、僕は僕でキラに軸を切り替えていた。
――そこから時間が空いたことで、もう一回シンに目を向けられたと。
福田:さっきも言いましたが、本来はああいう感じの子なんですよ。カッとなった時は昔のあの怒りに満ちた瞳でぶつかってくるんですが、要は「爆発力が純粋」だっていうことなんです。それが今回のシンはよく描けたかなと思っていて、まぁ当初の人物設定に近い形で今回はもう一度やり直したということです。
――劇場版で個人的にすごく好きだったのが、最後にシンがレクイエムを自分の手で壊すというシーンなんです。あれが、『DESTINY』から続いてきたシンの物語の締めにもなっているなと。
福田:実は、あのシーンにはそこまでの意図はなかったんですよ(笑)。たまたまレクイエムを壊せる武器が、あの「ゼウスシルエット」という装備しかなかったので、シンがやるしかなかった。
あれを使えるのは、フリーダム、ジャスティス、デスティニーとあのクラスのMSだけで、フリーダムはまだ戦っていて、ジャスティスは片腕を損傷している状態だったので。元々、あれはデスティニー用の装備なんです。アカツキが一時的に借りていただけですね。
――劇伴もすごく印象的で、これまでのシリーズで流れた楽曲のメロディーがふんだんに盛り込まれていました。福田監督からはどのようなオーダーをされたのでしょうか。
福田:どのカットにどの曲を流す、みたいな選曲に関しては、音響監督の藤野(貞義)さんの仕事になるんですが、こちらとしては「とにかく長めに作ってください」という点は伝えていました。途中で音が切れるのはちょっと違うかなとなるので、音を切らないでと。
――それにはどういった意図があったのでしょうか。
福田:僕は、とにかく音楽がないと不安でしょうがないんです。使い方として、状況の盛り上がりに付けるのではなく、感情そのものに付けていく音楽なので、短いと感情がそこで切れちゃうんですね。どういう顔であろうが、どういう芝居をしていようが、ここでこの音楽がかかったら、こういう心情なんだというのが分かりやすく出ちゃうんです。
あとは大きいオーダーとしては、昔の曲は積極的に使いたいという話もしました。フリーダムやデスティニーが戦う時はあのいつものメロディが欲しいので、それは入れてくださいと。新曲については新しいメロディラインで、そっちは変えてくださいという言い方はしていましたね。
――個人的に印象的だったのが、デスティニーガンダムが出撃する時に、「出撃!インパルス」のアレンジ(※曲名は「出撃!デスティニー」)が流れたところでして、ついにデスティニーがヒロイックな雰囲気で出撃したなと。
福田:僕としては、また不穏な感じでもいいんじゃないかと思っていたんですけどね(笑)。そのシーンについては、藤野さんの方からその曲がいいという指定があったんです。大枠は僕が作っていますが、細かいことは各担当セクションのディレクターがいるので、その方に基本お任せしています。
――これは劇場版の話から離れるかもしれないのですが、『DESTINY』の時のキラは、まだフレイへの想いを引きずっている印象がありました。今作はキラがある程度フレイのことを割り切れるようになったタイミングというのはあったのでしょうか。
福田:『DESTINY』の時のキラは、フレイのことだけじゃなく、山程いた亡くなった人たちも含めて心が病んでいたんですね。
そもそも、あの二人の関係については、恋愛的な好き嫌いとは少し違うんです。キラはフレイを逃げ場にして、フレイもキラを利用しようとして、ひどいことをしてしまったとお互い思っている。よりを戻したかったわけではなく、ゼロから関係を再スタートさせたかったんです。一応、劇場版にもフレイは出ていますね。
――キラの部屋にある写真の一枚に、本当に小さく映っている……。
福田:そう、そこはこだわって入れるようにした部分です。昔の女というわけではないんですが、ラクスはフレイの顔を知っていますから、キラとしては堂々と置いておくわけにはいかないんです。なのでチラッとだけ映っている写真を飾っているんですが、まぁラクスは全部知っていて、しっかりバレていますけどね(笑)。