ReoNa『シャングリラ・フロンティア』第2クールEDテーマ「ガジュマル ~Heaven in the Rain~」に寄せて|「人間とはまた違うけれど、AIやNPCは、確かにそこに存在していて。AIにも物語があって、心がある」
祖父との別れ 実体験を元に手紙を綴る感覚で
――「ガジュマル ~Heaven in the Rain~」のジャケットはどこで撮影されたんです? すごく大きなガジュマルの木ですね。
ReoNa:南の島で撮影してきました。樹齢何百年レベルの大きなガジュマルがそびえ立っていて。
――ガジュマルって不思議ですよね。気根がたくさんあって……。
ReoNa:あれは上から落ちてきているんですよね。根っこから幹が出てくるのではなく、開いた枝葉から幹が降ってきて、それが地面について、根っこになる。だから「絞め殺しの木」「レインツリー」などの別名もついていて。
――まさに「Heaven in the Rain」という副題がぴったりですね。ガジュマルというと「幸福の木」というイメージがあって、私は何度も育てるのに失敗しているんですけども……(苦笑)。
ReoNa:なかなか難しいんですよね(笑)。私も家にあります。温かくしてれば、結構育ちます。
――ReoNaさんの淡い色の革ジャンとワンピースは、セツナともなんだかリンクしますね。
ReoNa:偶然なんです。自然とリンクしていましたね。
――ウェザエモン、セツナの想いを考えながら聴くと胸が苦しくなります。セツナはユニークNPCと呼ばれる存在で。
ReoNa:まさにセツナもそうですが……ゲームの中に登場する人間とはまた違うけれど、AIやNPCは、確かにそこに存在していて。今までいろいろなご縁があって、そういう存在について考える機会が多かったんです。今回も……なんだろう。AIにも物語があって、心があって、というのを感じていました。
――人間とは違うかもしれないけれど、その命の物語を今回はバラードで紡いでいます。
ReoNa:実はシングルでバラードというカタチは意外となかったんですよね。だから初になると思います。
――歌詞はハヤシケイ(LIVE LAB.)さんとReoNaさんの共作。どのように制作されたのでしょうか。
ReoNa:お話をいただく前から『シャングリラ・フロンティア』のコミカライズを読んでいたので、あのウェザエモン、セツナの……とは分かってはいたのですが……物語の大きな部分に寄り添う楽曲にしようと思っていました。
制作に向けてチームで話し合っている中で「ReoNaは大切な人との別れと言われた時に、何を思い浮かべる?」と聞かれて「私はおじいちゃん、じいじとのお別れが浮かびます」と。「じゃあ、おじいちゃんに手紙を書いてみない?」と。それがスタート地点でした。
――それは歌詞ということは考えず、つらつらと?
ReoNa:まさにつらつらと、祖父に向けて、本当に手紙を書くつもりで綴っていきました。二度と会えないけれどもし会えたら伝えたい言葉、大切な人に伝えたい思いなどを書いて、ハヤシケイ(LIVE LAB.)さんとアニメに寄り添いながら歌詞にしていきました。中には手紙の言葉がそのまま歌詞になっているところもあります。
――〈心残りが あるとしたなら〉というはじまりの言葉も印象的でした。
ReoNa:実際に、手紙のはじまりの言葉だったんです。そこから書き始めて……。
――手紙の中にガジュマルという言葉もあったんでしょうか。
ReoNa:私の実家の庭にガジュマルが生えているんです。母が小さい頃からあって、木陰を提供してくれていました。じいじはその場所で、私が遊んでいるところを見守ってくれていたり、畑から返ってきて昼寝していたり……甥っ子や姪っ子ができた時にはハンモックやブランコを吊るしてくれました。ガジュマルのある景色には、じいじと過ごした記憶がすごく染み付いています。
未だにふと目をやると「ガジュマルの下に置いていたいつもの椅子に、座っているんじゃないかな」なんて思って……記憶にすごく紐づいているものだったので、そんなことも手紙の中に書いていました。そこからひとつ、大切な人を思い出す景色として、歌詞の中にも書いていて、その手紙から拾っていきました。
――Dメロの〈潮騒と風の中誰もいない木陰であなたを探してる〉というフレーズがとても印象的だったんです。そうした思いがあったんですね。
ReoNa:〈潮騒と風の中〉という4行は手紙の中にある景色、面影を探す情景をケイさんが、まぶたの裏に浮かぶような言葉にしてくれました。
――『シャンフロ』は(インタビュー段階では)今、戦いが佳境を迎えていて……。ReoNaさんの経験を伴った言葉で、ウェザエモンとセツナに寄り添ったんですね。これからさらに切ない展開を迎えるんだろうなと思うと胸がギュッとなります。
ReoNa:私もコミカライズを読んでいた民なので、これから週を追うごとに切なくなるんだろうなと。アニメの展開が進んでいくごとに「ガジュマル」の聴こえ方が変わっていってくれたら、深くなっていってくれたら良いなって思っています。特殊EDのノンクレジット映像も公開される予定です。(インタビュー時、17話放送前)
〈出会い 別れ それでも生きていく〉、でもやっぱり……
――毛蟹(LIVE LAB.)さんの作曲は、このタイミングで作られたものだったんでしょうか。
ReoNa:ReoNaの曲はいろいろなカタチで出来上がるのですが、元になるようなメロディは、実はずっとずっと大切に温め続けてきたものでした。それを元に「ガジュマル ~Heaven in the Rain~」にしていって。
――いろいろな枝葉が。新旧という言い方はおかしいかもしれませんが、ReoNaチームのクリエイターが勢揃いしていますね。
ReoNa:そうですね。ハヤシケイ(LIVE LAB.)さん、毛蟹(LIVE LAB.)さん、そして編曲にはPan(LIVE LAB.)さんも。いつもストリングスにお世話になっている宮野幸子(SHANGRI-LA INC.)さんにも参加していただきました。Panさんとは、アニメに携わる曲でご一緒するのは今回が初めてで。Panさんはとても試行錯誤されていました。
――そのPanさんが作詞から編曲までを手掛けた「3341よ(読み:サミシイヨ)」も期間生産限定盤に収録されています。「3341よ」からも分かる通り、いろいろな感性を持ち合わせた方なんだろうなと。
ReoNa:本当にそうですね。楽曲制作の中でも、今までのReoNaにはなかった感性だなと思いますし、Panさん自身のルーツも感じます。毎回どんな曲を書いてこられるのか想像がつかないのでワクワクしますね。
――ReoNaさんの言葉で綴った手紙が元になっているだけに、お歌に向き合うときの思いもひとしおだったのではないでしょうか。今回も部屋を真っ暗に?
ReoNa:振り返ると、今回も真っ暗にしていました。レコーディングも、MV撮影も……今まではキャラクターを思い浮かべたり、ライブやお客さんをイメージしていたりしていたんです。「どんな人に、このお歌が届くのかな」って想像しながら。今回は明確に手紙を書いた相手が存在したので、今までとは少し違った感覚になりました。
――MVでは涙をこぼすシーンがありました。あれは自然と?
ReoNa:自然と、でした。普通に歌っている時も、どちらかと言うと泣くのをこらえていた時間が多かったんじゃないかというくらいで。思い浮かべすぎると感情が先走ってしまうので「これじゃお歌を歌えない」って。
2023年は〈出会い 別れ それでも生きていく〉という言葉を抱えてお歌をお届けしてきて……今までの軌跡があったからこそ「HUMAN」という楽曲が生まれ、〈出会い 別れ それでも生きていく〉という言葉にたどり着いて、私自身も「本当にその通りだな」と思いながら過ごした1年でした。
でも、〈出会い 別れ それでも生きていく〉のその先に……別れても、それでも会いたい。寂しい、っていう感情がひとつ待ってたんだなって思いました。
――これからのReoNaさんの指針のひとつにもなりそうですね。もっと伝えたかった言葉って、それでも伝えられなかった言葉ってたくさんあるなと、別れを経験するたびに私も思います。本当に〈愛していた ただそれだけのことが たったそれだけの言葉が 言えたらよかったのに〉。
ReoNa:何度巻き戻したとしても、何度やり直したとしても、生きている間に、面と向かって「あなたのことを愛しています」と言えたかと聞かれたら、なかなか難しいと思うんです。でも大好きだし、大切。
きっと〈愛していた ただそれだけのことが たったそれだけの言葉が 言えたらよかったのに〉という言葉は、ウェザエモン、セツナのことだけを考えていたら出てこなかったものだと思うんです。自分の記憶や感情とも向き合ったからこそ生まれた言葉が、ものすごく大きなカタチで作品に寄り添うものとなって。今までにないカタチで生まれた1曲だなと思います。
――それにしても、ライブでのお別れの挨拶「じゃあな」がタイトルになっているのを見たときはビックリしました(笑)。
ReoNa:私もです。
――ReoNaさんも。
ReoNa:いろいろなタイミングで、いろいろな成り立ちでReoNaのお歌はできていくのですが、毛蟹さんから上がってきた曲を聴いたら、〈じゃあな〉という一節があって。じゃあな、って曲になるんだなって。
――そもそも、「じゃあな」っていつから使い始めたんでしょうか。デビュー前?
ReoNa:デビュー前です。18歳を迎える誕生日、初めてワンマンライブをやって、初めて捌ける時に、カッコいい捌け方も、どうワンマンライブを終わって良いのかも分からず……カッコよく一礼して去ればよかったんですけども、照れ隠しで「じゃあな」って言いながら去っていったんです。
それを見て、事務所の方が「捌ける時に、じゃあなって言ってたけどこれからもずっと言うの?」ってツッコまれて。捻くれ者だったので「言います」って思わず返事してしまって。照れ隠しと捻くれから続いた言葉でした。狙ったわけでもなんでもなく、自然発生的な言葉でした。
なんだか不思議ですよね。照れ隠しで、投げるように放った言葉が、何年も何年も一緒にライブを締めくくってきて。もう7年の時を経て、お歌のテーマになり、タイトルになり。
――おじいちゃんも、「じゃあな」も喜んでますよ。
ReoNa:それこそ「ガジュマル」は大切な人を思い浮かべながらのレコーディングでしたけど、「じゃあな」に関しては作っている最中からずっとライブのことばかりを考えていました。
――ライブのどういうところをイメージしていたんでしょう。お歌を届けているところ?
ReoNa:そうですね。それと、ライブの空間そのものだったり、来てくれている人とこの曲を通してどういう時間になるんだろうなって思ったり……ライブで何を伝えたいかなって。
――いろいろな成り立ちで、というお話がありましたけども〈人生、経験豊かであったとて必定(ひつじょう)、ゲームのようにはいきません/レベル上げても 装備変えても〉という言葉が入っているのを見ると、今作の入る運命だったんじゃないかななんて。
ReoNa:確かにそうですね、クソゲーハンターを思い出すような……。自然と別れとゲームというテーマがこのシングルには集まってきました。
――「じゃあな」はいつぐらいに生まれた曲なんですか?
ReoNa:シングルを制作するタイミングなので、比較的最近でした。今、大きなツアー(『ReoNa 5th Anniversary Concert Tour “ハロー、アンハッピー”』)を控えているところなので、そのツアーを目前にしてこの曲ができあがったというのもご縁かなとも思っています。
――表記も制作者も違いますけども〈Good-Bye〉という言葉を見ると「ピルグリム」を思い出します。また、別れという意味では「さよナラ」も。
ReoNa:確かに……そう考えると、別れというものはReoNaがずっとずっと歌ってきたもの、歌っていくもののひとつなんだと思います。
――歌詞は毛蟹さんとの共作。ReoNaさんらしさがありますね。冒頭の言葉は毛蟹さんが?
ReoNa:冒頭は、そうですね。毛蟹さん節が炸裂しています。歌詞に関しては、まず毛蟹さんが私のことをカタチにしてくれたんです。毛蟹さんの思い描いている「じゃあな」という言葉に紐づく一つひとつが、今までReoNaが紡いできたもの、届けたいものにすごくフィットしていて。その中から、ReoNaが自分の言葉として、「ここをもうちょっとこうしたいです」という話を毛蟹さんとさせてもらいました。
――ReoNaさんのライブの理念のようなものも感じます。〈逃げたって良いじゃん〉って。ReoNaさん自身も、ライブハウスに逃げて、今があって。
ReoNa:そうですね。「シャル・ウィ・ダンス?」では《今だけは、すべてを忘れて踊りましょう》というメッセージ……みんなそれぞれ、やらなければいけないことだったり……逃げたいって思うということは、逃げられないものがあるということで。そんな日常の中で、今だけは「じゃあな」しようよって。
ライブハウスは携帯の電源を切って、誰からの電話も取らなくていい時間を過ごせる。それこそ逃げ場所だし、私も逃げ込んだ場所で。だからこそ、この言葉たちを歌おうと思ったときに、ライブをリアルに想像できました。
――ライブでの「じゃあな」には、今では「またね」の意味も含まれているような気がします。
ReoNa:確かに……。そう考えると不思議ですね。言葉の意味だけ考えれば別れの言葉なのに。今後、ライブでどんなふうにその場にいる人たちとこの「じゃあな」が出来上がっていくのかが楽しみです。
――ライブで成長していく曲になりそうですね。そして、先に話題にも上がった「3341よ」。音的にはミニマムで、それがなんだか染み込んでいくような、言葉どおり寂しさのある曲。
ReoNa:エレキの音色だったり……寂しげな音に囲まれた曲だなという印象がありました。言葉の節々に入っているあまのじゃくな孤独感があって。Panさんに「この曲はどういうきっかけで書いたの?」と聞いたことがあったんです。
そしたら、「ガジュマル」の編曲をしていた時の話になって。主題歌ということもあって、彼なりのプレッシャーを感じていて、何度もトライして、作り上げていった中で……その時に素直に感じた孤独がこの曲には詰まっているというお話をしていました。その話を聞いている時に「分かる!」ということの連続で。それこそ私がその時に感じていた孤独感とも共通するところがありました。「ガジュマル」があったからこそ生まれた曲でもあります。
――この数字って少し上の世代の人だとポケベルを思い出すかたもいるんじゃないかなって。Panさんはお若いとのことだったので、ポケベル由来ではないでしょうが(笑)。
ReoNa:やっぱりそうなんですね! 実は他の方にも言われたんです。私自身はポケベルは、ケータイ小説で初めて知りました。でもまさに、ポケベルのような暗号感があるところも気に入っているんです。言いたいけど言えない、伝えたいけど伝えられない。でも気づいて欲しい!という、この曲の雰囲気にハマったタイトルだなと思っていました。タイトルが決まっていない段階で、みんなで集まったんです。
それこそ、私が作詞にクレジットされていない曲でも、現場でお話をさせてもらうことがあって。ReoNaチームの名物と言いますか。みんなで集まって、歌詞の話をしていました。そこから「タイトルはどうしよう」と、いろいろと候補が挙がっていたんですよね。みんなで候補を出してたり、そこからこのタイトルが出てきて……満場一致で「それだ!」って。
《寂しいよ》っていう言葉を言葉通りに伝えられないもどかしさだったり、ひねくれた感じだったりがすごく伝わってきて。
――そのもどかしさは全体ににじんでいるのだけれども、でも、心地いいポップさのようなものもあるのが、なんだかすごいなって。個人的にはCMソングにしてもらいたいくらい(笑)。
ReoNa:Panさんは私より若い方で。そういう世代の子にも聴きやすい楽曲なんじゃないかなと思っていました。私、この曲ができあがったときに「この曲、映像といっしょに聴いて欲しい!」と思って、映像を制作することになったんです。
『3341よ』 -Music Video-
ReoNa:イラストの雰囲気にものすごく合うんじゃないかなと思って。曲だけ聴くのと、絵と合わせて聴くのとで、角度がまた変わるように感じています。
――今回のシングル曲の組み合わせが面白いですよね。「3341よ」か「不良少女白書」かで、シングル全体の雰囲気が変わるなって。
ReoNa:全然違いますよね。今までも期間限定盤と通常版、アニメ盤とでそれぞれカップリングを変えてきましたけども、収録曲が変わるだけでこんなにも変わるんだなって思いました。4曲、願わくば、すべての曲が届いたら嬉しいです。
[インタビュー&文・逆井マリ]
CD情報
【発売日】2024年2月28日
【価格】
初回生産限定盤:1,760円(税込)
期間生産限定盤:1,760円(税込)
通常盤:1,320円(税込)
【収録内容】
≪初回生産限定盤≫≪通常盤≫
【CD】
01.「ガジュマル ~Heaven in the Rain~」
02.「じゃあな」
03.「不良少女白書」
04.「ガジュマル ~Heaven in the Rain~ -Instrumental-」
【DVD】※初回生産限定盤のみ
「ガジュマル ~Heaven in the Rain~ -Music Video-」
≪期間生産限定盤≫
【CD】
01. ガジュマル ~Heaven in the Rain~
02.「じゃあな」
03.「3341よ」
04.「ガジュマル ~Heaven in the Rain~ -TV size-」
【DVD】
「TVアニメ「シャングリラ・フロンティア」第2クール non-credit ending」
作品情報
あらすじ
ディスプレイを使用するゲームが、レトロゲームに分類されるようになった、少しだけ未来の世界。
この世界では、最新のVR技術に内容が追いついていない、いわゆる“クソゲー”と呼ばれる作品が大量にリリースされていた。
そんな数多のクソゲーをクリアすることに情熱を捧げてきた1人の“クソゲーハンター”陽務楽郎。
彼が次に挑んだのはクソゲーの対極、総プレイヤー数3000万人の“神ゲー”『シャングリラ・フロンティア』だった。
集う仲間、広がる世界。そして“宿敵”との出会いが、彼の、全てのプレイヤーの運命を変えていく!! 最強クソゲーマーによる最高のゲーム冒険譚、ここに開幕!!
キャスト
(C)硬梨菜・不二涼介・講談社/「シャングリラ・フロンティア」製作委員会