結成20周年イヤーを経て新たな季節へ――その幕開けを彩る『天官賜福 貮』オープニングテーマとなる「面影」で描いた、謝憐と三郎の愛の形/シドインタビュー
謝憐と三郎のふたりの長い歴史の中で、育んでいく愛の形。
――『天官賜福 貮』のオープニングテーマ「面影」が決まった時に、SNSなどで「またシドでうれしい」といった声をたくさん見かけました。そういった声はシドのメンバーにも届いているのでしょうか?
マオ:すっごく届いていますね。シドのファンのみんなが喜んでくれているのは感じていたんですが、そこで『天官賜福』を知った子からも「うれしい」といった声が届いていて。また、アニメサイドのファンの皆さんからも新しいお声をいただいたり、『天官賜福』をきっかけにシドのファンになってくれた人もいたりと、日々たくさんの声が届いています。
新しい作品のオープニング・エンディングを担当する時って、アニメ側のファンの皆さんのオーディションを受けているようなイメージがあるんですよ。一発目の「慈雨のくちづけ」(2021年放送『天官賜福』日本語吹替版のオープニングテーマ)の時に、「オーディションに受かったな」という手応えがあって(笑)。それで「またやってほしい」という声が上がっていたので、それがなによりもうれしかったですね。海外の方からの声も大きいんです。
――公開されたミュージックビデオには、本国はもちろん、いろいろな国のコメントが残されていますよね。
マオ:そうなんですよね。翻訳機能を使いつつ、ひとつずつのコメントを楽しみながら読ませてもらっています。
――「面影」は中国らしさを感じるような笛の音色なども印象的なバラードです。日本語吹替版の主題歌制作において、中国語原版の主題歌のテイストなどは意識されているものなのでしょうか?
マオ:他の作品にも言えることなのですが、そのあたりはあまり意識せずにシドはやらせてもらっていますね。独自で、というか。これをきっかけに新しい『天官賜福』の世界を届けられるようにということを目指してみんなで作っています。
――では、明希さんが「面影」を作曲されるにあたって大切にされたところというと?
明希:前回もそうだったんですけども、世界観や音色はあらかじめアイデアとしていただいていたんです。それをどれだけアレンジの中に活かすかは作っていくうちでの課題のひとつでした。
どの作品でもそうなのですが、作品を愛しているファンの方たちを裏切らないように、ちゃんと原作、キービジュアルを頭に入れて作っていくというのが大前提にあって。個人的には、前作から連続でご指名をいただいたということもあって、思い入れもひとしおでした。2回頼んでいただけるというのは、単純にうれしいんです。ただ、自分たちのファンを置いていくわけにはいかないので、その中で僕たちらしさを全面に出しながら、アニメサイドのファンの方、クリエイティブの方が納得のいく、良い意味で期待を大きく裏切るような曲にしたいなと思っていました。
――冒頭のお話と被ってしまうかもしれませんが明希さんが感じられている、音楽的な意味でのシドらしさとは、どのようなところなのでしょうか?
明希:言葉で言うのは難しいんですけども、自分たちが弾いている姿が画がなくても伝わるような音を出すのが大切なのかなと思っています。うまくやろうとか、最新の何かで勝負しようとかっていうのも大切なんですけど、そういうところは自ずと各々が意識しているところだと思うので。その中で、4人それぞれが自分たちらしさを出すことで、シドらしくなっていくのかなと。あまり狙いすぎても……狙ってるな、って「らしさ」とは違うところにある気がするので。
あとはマオくんの歌詞の世界。それがシドらしさの重要なひとつだと思います。
――「面影」はものすごく綺麗な曲ではあるんですけど、生々しさや体温みたいなものも同時に感じて、それがとても良いなと思っていました。
明希:それはすごくうれしいですね。人が見える、ってすごく難しいところだと思っていて。体温というのも、出そうと思って出せるものではないので、それを感じてくださったというのはすごくうれしいですね。
――マオさんがおっしゃってた通り、一朝一夕で成し遂げられることではないというか。この20年という積み重ねがあるからにじみ出るものなのかなと。
明希:まさにそうですね。僕も技術的な発見というよりかは……みんなの演奏を聴いた時に、妙に落ち着くところがあって。ちょっと変な言い方かもしれませんが、僕自身シドのいちファンなんですよね。ギターで言えば、メロディの音色、持っていき方が良いなとか。メロディをしっかりと支えて、楽曲を理解した上でのアプローチがありつつも、時たまはみ出すような攻撃的な音やフレーズがあって。それはドラムにもギターにも感じることです。
――らしさのひとつとしてマオさんの歌詞を挙げられていましたが「面影」の歌詞を読まれた時、どういう印象がありましたか。
明希:言葉から情景が浮かぶんですよね。そして、流れていくようにスムーズな物語があって。一行目から最後の〈きつく結ぶから〉というところまで『天官賜福』の絵が見えて、「さすがだな」と。本人を目の前にして言うのも恥ずかしいところではあるんですが(笑)。すごいなと思いますね。特にサビの最後の〈距離を超えただけ きつく結ぶから〉というところが……なんて言うんですかね。僕の解釈ではありますけども『天官賜福』の時代感、背景がすごく見える一行だなと感じていました。
マオ:ありがたいですね(笑)。細かいところまで読んでくれているんだなと感じてうれしいです。
――作詞される上では、どのようなところを意識されていたのでしょうか。
マオ:特に謝憐と三郎のふたりの長い歴史の中で、育んでいく愛というか……いろいろな試練があっても、しっかりと結ばれていく形。中国が原作のものではありますけども、せっかくここ、日本での放送なので、綺麗な日本語を使ってそれを表現できたら良いのかなと。『天官賜福 貮』の世界を彷彿とさせるような言葉、かつ、シドファンのみんなはすんなりと曲に入っていけるような言葉選びを意識していました。
――Shinjiさんがメロディのアレンジで意識したところというのも教えて下さい。“奏でる”という言葉が似合う、美しさのあるアレンジだなと感じていました。
Shinji:楽曲の世界観がとても美しいんですよね。ギターの歪みの音ってわりとロックを感じさせる部分であるとは思うんですけど、それのいい部分を出したいなと思っていて。そればかりになってしまうと世界観が外れてしまうので、ギタリストが聴いても「良い楽曲だな」と思えるようなアレンジを目指していました。
それと、楽曲に導かれたアレンジもあって。例えば単純なギターのフレーズだったり「ジャーン!」と伸ばすだけのシンプルなものだったりしても、ライブで弾いているとつまらなくないんですよね。アレンジする上ではつい複雑にしたくなってしまいがちなんですけども、「ここは伸ばすのがいちばんカッコいいでしょ」って、シンプルながらもマッチするアレンジを選択したくなるんですよね。そういうのが演奏してても楽しいですね。
――武道館で演奏している時もその手応えを感じていたんでしょうか。
Shinji:楽しかったです、すごく。緊張感もあるし、ギターソロも思いのままに弾けるし。静と動が1曲の中に詰まっていますよね。今後どんどん育っていくんだろうなと思っています。
――ゆうやさんがドラムアレンジを行う際は、楽曲全体の雰囲気や作品の世界観をどのように取り入れているのでしょうか。
ゆうや:「慈雨のくちづけ」と同じようなフレーズやテイストを中に組み込んで関連性をつけました。ライブでパフォーマンスする時に、ファンの方にそこを気づいてもらえたらうれしいなと思って。
――同じ匂いがするなとは思いつつ、そこまで気づかず……大変失礼しました。
ゆうや:僕、オンラインサロンをやってて(『シド ゆうやの「ちょっと一言いいですか?」』)、その中でも話したんですが、誰も気づいてなかったです(笑)。でもまだデジタルシングルでリリースされたばかりなので、ドラム部分を聴き込むところにくるのはこれからなのかなと。でも言いたくて仕方なくて、オンラインサロンの中で最初に答えを言ってしまったんですよね。とってもコアな方たちの集まりなので、ポロッと。そしたら「えーっ!」と。「改めてMV見てみます」って話になりました。なかなか分かりづらいですよ、ドラムというのは。でもそういう関連性があることによって、物語が続いていることを感じられるし、良いなって気がしたんです。自分もより『天官賜福』の世界に入り込めますし。
前回の『天官賜福』からは数年ぶりとなるんですよね。ドラムのフレーズを構築している時に、その何年かがぎゅっとつながるような感覚があって、途中からフレーズ作りがノッてきました。
――Shinjiさんがプレイしていて楽しい曲だとおっしゃっていましたけども、ゆうやさんもそういう感覚はありますか。
ゆうや:あ、とても楽しいですよ。それでいて、最新の自分の雰囲気も落とし込めているので。まだライブでは1回しかやっていないので、ここからどんどん育っていくのを楽しみにしています。