6人のボカロPが“ヴィラン”をモチーフに楽曲制作! みなさんの“推しヴィラン”を見つけてほしい――超学生さん メジャー初EP「MAR6LE」リリース記念インタビュー
「ファントム」は“略奪”をテーマにしたエレクトロスウィング
――6曲を通して聴いてみた感想をお聞かせください。
超学生:いつもなら超学生に合わせて作っていただくことが多いんですが、今回は「好きに作ってください」とお願いしたので、各ボカロPさんの色が濃く出ていると思いました。
普段のボカロPさんの楽曲のボーカルが超学生になっている状態なので、長年ボカロPさんのファンをしている身としては嬉しいですし、自分で聴いていても楽しいです。
――サウンドやアレンジが凝りまくって複雑な楽曲もあれば、シンプルな楽曲もあって、その幅の広さもおもしろいですね。ここからは全収録曲の紹介をお願いします。まずは1曲目の「ファントム」から。
超学生:「ファントム」は、DECO*27さん作詞作曲で、MVを見てから聴いていただくと楽曲への解像度が高まるかなと思っている曲の1つです。
「略奪」が主軸になっているキャラクターかなと思っていて、他のボカロPさんは1つのキャラクターに焦点を当てることが多いんですが、この曲に関してはキャラクターが所属している集団そのものに焦点を当てるというかなり技巧的なことをされています。それはDECO*27さんが持つ経験と卓越した技が成せる歌詞なのかなと思っています。
曲調もエレクトロ・スウィングと呼ばれる新しいJAZZスタイルになっているので、歌詞の考察が好きな方だけでなく、音楽通の方にも楽しんでいただけると思います。
――歌詞にたびたび登場する「欲しい」や「しっしっしっ」のフレーズなど、キャッチーなところはDECO*27さんらしいなと。
超学生:そうですね。デモの段階でかなり完成された世界で、ボーカルも入っていたので、「これでいいじゃん!」と思うくらいでした。確立されたイメージができ上がっていると、そこからの延長がしやすいので、いい刺激になりました。普段の僕の曲では、歌い方もゼロから作らないといけないことがほとんどなので、この曲は「歌ってみた」に近い感覚で、オリジナル曲の中では新鮮な経験でした。
「ヒス」のヴィランは他の楽曲に比べ、“純粋な悪”
――2曲目の「ヒス」は、ピアノが刻むリズムなどジャジーですが、すごく速い曲で、歌っていてよく舌が絡まないなと。
超学生:曲を作ってくださった柊キライさんとは、2年前にソロでは「ヒト」で、Geroさんとのコラボでは「アルバ」でご一緒させていただきました。「ヒト」では超学生をテーマに書いていただきましたが、今回は柊さんにヴィランキャラクターを選んでいただいて。
僕がこういう言い方をするのも大変おこがましいんですが、柊さんは2年前よりも更なる進化、幅が広がったなというのが要所要所で感じられましたし、音作りも当時からだいぶ変わっていて。リスナー目線でも、あの時に既に完成されていたのに、ここまでいろいろなことにチャレンジした結果がこの音なんだなと思いました。それが歌詞にも表れていたので、長年付き合いがあるものとしても感慨深いものがある1曲になっています。
――タイトルの由来を教えてください。
超学生:「ヒステリー」と「ヒストリー」が掛かっていると(柊さんが)おっしゃっていました。人間を恨んでいる海属性のとあるキャラクターであるのが「ヒストリー」で、この曲のヴィランは他の曲に比べて根元からダークで。(ヴィランキャラクターは)環境や状況が悪にさせていて、本当はこんなことをしたくないというケースも多いですが、この曲では純粋な悪ということで「ヒステリー」の要素も絡まっていて、柊さんらしい、おしゃれなタイトルだなと思いました。
煮ル果実さんと超学生さん、両方の“らしさ”が入っている「超獣戯画」
――3曲目の「超獣戯画」は曲頭でノイズの中でタイトルを言うところからカッコいいですね。
超学生:煮ル果実さんに初めて書き下ろしていただいた楽曲なのですが、かなりこの曲に向き合ってくださっていて。音作りも普段の煮ル果実さんの織り成す世界も入っていながら、「超学生だったらこんな感じだろうな」と歩み寄っていただいた部分も多く見受けられる曲になっていたのが嬉しかったし、細かいところにも、かなり時間をかけて悩んで制作してくださったので、煮ル果実さんの想いをむげにしないように、一層誠実に向き合わなければいけないなと思った1曲です。
――「鳥獣戯画」は、擬人化された動物を描いた絵巻ものという意味ですが、タイトルも歌詞も深いですね。
超学生:煮ル果実さんの楽曲の中では珍しいのかなと思っていて。まず「鳥(ちょう)」が掛かっているのは一目瞭然ですが、煮ル果実さんは普段はあまりそういうことをされないので、あえてここでポップさを乗せてくるのがおもしろいなと思いました。
「鳥獣戯画」は誰もが教科書で触れるものですが、内容はあまり覚えていないことが多いと思います(笑)。でも今回選択されたキャラクターの時代背景や過去、行っていることみたいなものが「鳥獣戯画」の内容とうまく掛けられていて、いろいろなものとの掛け算で作られた楽曲なのかなと思いました。
狂気的なヴィランを表した、ぶっ飛んだ音作りの「インキュベーター」
――4曲目の「インキュベーター」は新曲ですね。歌い出しの「あなたの不幸をいただきます」からインパクトがあって、ABメロのちょっとアラビアンな雰囲気からサビで激しくなって。
超学生:曲を作ってくださった、すりぃさんとは今回が3度目で、前2作はつながった世界だったので、今回は新しく、お互いに挑戦的な部分がたくさんあって。すりぃさんの中でところどころにマイブームが存在すると思っていて、今はポップなブームが来ていると思うんですが、超学生の曲ということで、おそらく2番で重めのトラップ(ヒップホップサウンドの一種)っぽい曲調にしていただいたり、そもそも歌い方も激しいものが合うように作られていたりして、「さすがすりぃさん、わかっていらっしゃるな」と。2作目の「サイコ」の時には僕のことをすでに理解してくださっていたので、こちらからいろいろなことを言わなくても「超学生はこうでしょ」という感じで、今回もスムーズに制作が進んでありがたかったです。
僕自身も日常生活の中で無意識に口ずさんでしまうほど、一度聴いたら印象に残るようなキャッチーさがあるので、この曲は幅広いところまで広がっていく1曲になってほしいと思っています。
――渇望や求めている感が歌詞にたっぷり入っていて。
**超学生:テーマになっているキャラクターも珍しいんですよ。すりぃさんの選択されたキャラクターはかなり狂気的で、サイコチックでぶっ飛んでいて。他のキャラクターは実は人間味があって、その上で自らの信念のもと、悪を行っていることが多いんですが、すりぃさんのキャラはやばくて話が通じないレベルで。それが曲に現れているし、ミックスやマスタリングを担当してくださった方も含めて、みんなでぶっ飛んだ音を作った感じになっているので、このEPを聴いていたら「ヤバいのが1曲あるな」と思ってもらえそうでいいですね。