存在は偉大すぎるがゆえに私が「幸せになってほしい存在です」って言うにはおこがましい|春アニメ『狼と香辛料 merchant meets the wise wolf』キャストインタビュー【後編】ホロ役・小清水亜美さん
KADOKAWAから刊行中の大人気ライトノベル『狼と香辛料』。その15周年プロジェクトの中で発表された完全新作TVアニメ『狼と香辛料 merchant meets the wise wolf』がいよいよ4月1日よりスタートします。
2008年に一度アニメ化された同作が、令和の今再び映像化されるということで、当時と今、演じる側にとってはどう変化があったのか。アニメイトタイムズではクラフト・ロレンス役の福山潤さん、ホロ役の小清水亜美さんにインタビューを行いました。
前編では福山さんにお話を伺い、今回の後編では小清水さんにホロというキャラクター、そして『狼と香辛料』という作品がどういったものであるのかをお聞きしました。
小清水さんいわく”令和版”『狼と香辛料』の魅力に迫ります。
前編はこちら
当時の自分を研究しつつ、できなかった表現で新たなホロを演じていく
──まずはじめに、新アニメが発表された時の率直な感想をお聞かせください。
小清水亜美さん(以下、小清水):だいぶ時間が経ってからの再アニメ化だったので、キャストが変わってしまっても不思議ではないと思っていて。その中でも変わらずオファーを頂いたのに素直にびっくりしたというか「いいんですか?」みたいな気持ちでした。
そして、前回アニメでやったところの後ろの話をやると思っていたので、驚きました。と同時に、「どうして行こうか」っていうのを、まだ全体が見えてないながらも悩みましたね。
当時の芝居をまんまトレースしてやるんだったら、正直コピペでいいんですよね。それを改めて今一度やるっていうのにちゃんと意味がある。で、キャストも変えずに私がやらせていただくってことは、何て言うんでしょう。もちろん変わらない部分っていうのも大切にしながらも令和である今の時代に、見てもらいやすい作品にしなければいけないなと。
絵柄もまた新しいキャラクターデザインと言っていいんでしょうか。もちろん、ホロの根本は変わらないんですけれど、少し肉付きが良くなったっていうんですかね。ちょっともちっとした感じになってたりとか、する表情がちょっと変わったり。
実際にアフレコが始まって思ったのが、当時のホロではしなかった動きっていうのが出てくるんですよ。それも含めてホロとして構築していくっていうことをしているので。見てくださる方にとってどう思われるかわからないんですけれど、新しいホロというか。それこそゴジラ(※)みたいな感じですよね(笑)。その時代に合わせて、根本は変わらないんだけれど、あり方、そして見え方が変わっていくっていうのを楽しんでもらえたらなーって思いました。
(※編集注:取材場所の近くにゴジラのポスターがあり、取材前にお話していました)
同時に、当時のが好きだったみなさんは、変わらず当時のを愛してくれたら嬉しいなと思っていて。逆に当時はアニメを見ていなかった……これだけ時間が経っていると、若い世代は世代交代があるので、当時は子供で見てなかったという人が「こういうのあるんだ、面白い」と思って愛してもらえたらいいし、「どっちも好き」って言ってもらえたらそんなに嬉しいことはなくて。
どれがいいとかどっちがいいとか、どれが正解っていうんじゃなくて、見てくださってる皆さんの思いが篭もるほうを大事にしてもらえたらと思って演じています。
──ゲームなどで演じる機会はあったかと思いますが、久々のアニメシリーズということでがっつり演じてみていかがでしたか?
小清水:一度辿ってきたセリフをもう一度歩み直しているので、懐かしさももちろんあります。でも、ただただ懐かしむわけにもいかなくて。
アフレコ前に該当話数を見直してからアフレコに向かってるんですけど。当時はどうしたかなっていうのを、自分の残った記憶だけではなくて、実際にちゃんと見つつ、自分を研究し直すっていう作業をしています。
と同時に、「本当はこういう風にやりたかったのに腕がなかったからこうせざるを得なかったやつだ」とか、当時のことをすごく思い出しながら、「あえてここは当時やってたニュアンスをちょっとだけ残そう」とか、「このシーンは当時のまんまは止めよう」みたいなのをあえて取捨選択するというか。これから毎回戦わなければというと変な表現ですけれど、自分の役割を全うしなければならないので。分析資料みたいな状態になっていますね。
──1から演じ直すというのは難しかったですか?
小清水:プレッシャーが大きいですね。やっぱり時と共に記憶って美化されたりもするので、当時のものと絶対に比べられるだろうなって。つたなかった、それが良かったと思ってくださってる皆さんがいらっしゃるのも間違いないですし。
そんな中で、今の自分が当時できなかったことをやっていく。そして今の絵柄だったりとか、シナリオも同じシナリオではあるんですけれど、切り取り方が違ったりするんですよ。
例えばこれアニメですけれど、ドラマと置き換えた時にカメラアングルっていうんでしょうか。どういうところから映しているのか、画角や見せたい表現が違うんで、それにあわせて変化させていくっていうことへのプレッシャーは感じています。でも、私にとっても新しいホロが見えるところもあって、すごく楽しくはあるんですよね。
──演じる上で意図的にこう変えようとか、逆にここは変えないでいようとした部分はありますか?
小清水:ホロ自体、存在として擬人化した時は少女の姿をしてはいるものの、根本がとても長い時を生きているっていう状態にあり、と同時にたくさんの人間を見て来ている。時には会話をすることもあったでしょう。そして見ては見送りを繰り返していて、その中で人の幼さであったり、時に汚い部分であったりとかもとても見てきただろうし、当てられてもきただろうっていう。
その人間との特殊な関わりというか、普通の人が生きてる上で感じ得ないような事をたくさん持っている。その部分を今の私だからこそ表現できることがあるんじゃないかと思って。
今回はその内面と言いましょうか。あとはロレンスとの会話での裏の気持ち……言葉や表情ではそう言っているけど、実際は別の気持ちを抱えて言葉を紡いでいることが結構あって。そこの裏の気持ちっていうのを、当時は表現できなかったので、今回はそこを大切にしていけたらなって思って望んでいます。
それが実際に見てもらって聞いてもらって、どう感じ取れるものなのかっていうのは見てくださる皆さんの思ったものが正解なんですけれど、気持ちとしてはそういう風に思いながら演じていました。
──監督や音響監督から、こうしてほしいといったオーダーはあったのでしょうか?
小清水:別作品とかですごいにお世話になっている吉田さんが今回のシリーズから音響監督を担当してくださっているので、一番初めに「吉田さん的にはどうお考えですか?」みたいな。「この作品をどういう方向に導くプランですか?」みたいなものを演じる前に先んじてお話を伺いまして。ひとまず「小清水さんが思うようにやってみて、その上でここはこうしたいっていうところをちゃんと伝えるようにするから、一度考えすぎずに頑張りましょう!」となりまして。
もちろん、部分部分ではきっちり演出いただいて。吉田さんの演出としてキャラクターの心の移ろいっていうのをすごく大事に演出してくださるので、例えば本音をちょっとこぼすという会話の流れ……本当の言いたいことはたった1、2 ヵ所なんだけど、それを言うためにちょっと前後会話があってみたいなシーンでの、些細な違い、ちょっとした感情の表現の差であったりというのを「もう少しこっちに寄せられるか」みたいな指示を頂いたりとか。
あとは逆にコメディシーンというか、明るいシーンでは、「もっと分かりやすく明るくしちゃっていいよ」みたいな話をいただいて、物を食べてるシーンとかそういったところは、ちょっと語弊があるかもしれませんが、いい意味で「もうちょっと IQ 下げますね」みたいなやり取りをしながら作らせてもらっています(笑)。
そういったところもあわせて、今回のホロはより表情の幅があるかもしれません。かわいらしい一面とか、大人びた表情であったり、ふと人間に対して諦めを感じたりみたいな。そういった見える幅が増えているとは感じました。