春アニメ『ザ・ファブル』興津和幸さん(佐藤明役)インタビュー|「どこまでが本当なのか分からないのが佐藤明の気持ち悪さであり、魅力でもあるのかなと」
どこまでが本当なのか分からないのが佐藤明の気持ち悪さであり、魅力でもある
――ファブルを演じるうえで意識していることはありますか?
興津:本作にはいわゆるギャグシーンがいっぱいあるのですが、そういう場面も作画はリアルでストーリー展開にも沿っていることがあるんですよ。なので、ハッキリとギャグと割り切るのではなくて、佐藤の心が動いてそういう言い方、言葉が出てきたという説得力を出そうと思って演じています。
一方で、「こういうことを考えて佐藤は生きているぞ」というのを出し過ぎると、“どこにでもいそうな印象の薄い佐藤明”を演じる彼を表現できなくなってしまうんですよ。そこの塩梅は難しくもあり、自分のなかで微調整をこだわっている部分でもあります。
――感情がバンと出るキャラクターでもないですよね。
興津:ですね。出たとしても、それは本当の感情なのかどうかも分からないんです。大前提として、彼がやろうとしていることは「1年間人を殺さず普通に生きること」な訳ですから。どこまでが本当なのか分からないのが佐藤明の気持ち悪さであり、魅力でもあるのかなと思っています。
――我々はいわゆる神視点で彼の素性を知っているけれど、登場人物の多くは知らない訳ですもんね。それをお芝居で表現するのは、改めて考えてみるとすごく難しいことだなとお話を聞いていて分かりました。
興津:簡単そうに見えるかもしれませんが、意外と難しいんです。現場でもその難しさに直面していますが、隣でいつも(佐藤洋子役の)沢城みゆきさんが「偉いね、頑張っているね」と褒めてくれるんですよ(笑)。ありがたい妹ですね。
――アフレコ現場は和気あいあいとしている?
興津:ですね。もちろん緊張感はありますよ。スタッフさん含めてプロしか集まっていない雰囲気を感じています。キャストは関西人が多いのですが、同じ関西出身でも、住んでいた場所が違ったら微妙に関西弁が違うんですよね。大阪だけでも、北と南ではイントネーションが違いますから。「うちはこうだった」という違いをそれぞれで言い合いながら「これだとくど過ぎるから、軽く聞こえるようにしよう」と相談しながら作っています。
――関西弁など方言を喋るキャラクターを演じるときは、ならではの難しさがある。
興津:文字にされた関西弁を声で演じる難しさを感じることがあります。例えば、関西弁のキャラクターを演じたとき、地元の人間から「和幸、いつもの関西弁と違うな」って言われることがあって。とは言え、原作のセリフを自分なりの関西弁に変えたら「ここのセリフ違うやん」と原作ファンの方は思ってしまう。その塩梅が難しいんですよね。
ただ、『ザ・ファブル』のセリフ回しって、関西弁が自然に聞こえるんですよ。間とか圧が吹き出しのなかに込められている気がしました。セリフの全部が全部そうとは言えないかもしれませんが、大阪が舞台という点にこだわって先生が書いているという印象があります。
――そこも本作の魅力、見どころのひとつ。
興津:そうですね。本作は「ディズニープラス」で世界配信もされますから、世界中の方々に関西弁の良さを伝えていきたいです。
――さきほど沢城さんのお話がありましたが、佐藤としては、清水岬役の花澤香菜さんとのかけ合いも多かったと思います。花澤さんとのかけ合いはいかがでしたか?
興津:上手。それこそ彼女は関西出身じゃないと思いますが、関西弁が上手でビックリしました。関西弁を自分のものにして演じられているから、きっと、耳がとてもいいんでしょうね。
成長するとセリフに乗せる感情も変わってくる
――佐藤は「1年間誰も殺してはならない」という指令を受けています。もし興津さんが1年間声優活動をしてはいけないと言われたら、何かやりたいことはありますか?
興津:山小屋を作ってキャンプがしたいです。そこでずっと生活をする。
――キャンプがお好きなんですか?
興津:いえ、できないから1年も時間があるなら準備万端で行けるだろうと思って(笑)。生きる力を身に着けるという意味では、ふだんの生活から離れて山小屋で暮らすのがいい気がしていまして。生きる力が欲しいんですよね。
――何かあったときに対処できる力を身に着けておきたい。
興津:そうですね。別に喧嘩がしたいとか、力を振るいたいという気持ちはないですが、何かあったときに負けないぐらいにはなっておきたいです。そういうことも、本作で考えさせられました。
――では、例えば1年間休んでから仕事に復帰したとき、前と同じようにお芝居はできると思いますか?
興津:できないんじゃないですかね。そもそも人は成長すると考え方も変わるので、音は同じものを出せたとしても、そこに乗せる感情は変わってくると思います。知らないからこそ自然にできることもありますからね。
――デビュー当時に表現できていたことが、経験を重ねた今ではできない可能性もある。
興津:そうですね。例えば、そのときに全力でやってようやくできていたことが、今は全力でやるとそれを超えちゃう可能性があるんです。だから、「当時と同じように全力で演じる」と言われても、調整しないといけなくなってしまうんですよ。もちろん、気持ちを持っていくことはできると思いますが、作り手の方や視聴者の方が“調整した全力”を受け入れてくれるかは別の話で。
――「こういう表現をしたら全力感が出る」と分かっても、それが当時と同じ表現ができるということに繋がる訳ではない。
興津:そうなんです。だから、1年間休んで色々な経験を積んだら、きっと前と同じような芝居はできない気がします。
かけ合うことによって生まれる“自然な会話”
――貴重なお話ありがとうございました。殺し屋として最高傑作と言われるファブルですが、興津さんが特定のジャンルで「これは現時点での最高傑作」と思うものはありますか?
興津:「これが最高傑作!」なんて、安易には言えないです(笑)。ただ、昨年見た映画で言えば、『ミュータント・タートルズ:ミュータント・パニック!』は第一印象だけで5億点付けましたね。
――5億点!?
興津:はい。長く続くシリーズですので、これまでも色々な新しいことをしてきたんでしょうけど、今回の作品は『ミュータント・タートルズ』が好きな人たちが、現代の技術を駆使して、自分たちが思っていた「好き」を形にしたんだなと感じました。1周していちばん面白いところを見せてもらえた気がします。
――なるほど。
興津:あとはアフレコ。海外だと1人ずつで収録するスタイルが多いのですが、本作では同じスタジオで集まって収録されたとお聞きしました。「集まることで生まれる自然な会話が大事だと気づきました」とコメントもされていたんです。日本ではそれをずっとやってきたんですよね。
『ザ・ファブル』に関しても、やっぱり一緒に録れているからこその表現が生まれていると思います。一緒に収録することで関西弁のニュアンスのすり合わせもできています。キャラクターが一斉に集まってワチャワチャ喋るようなことはないですが、だからこそ会話の部分をかけ合って収録することが大事だと思います。
特に本作は、会話のニュアンスで色々な思惑が行ったり来たりする部分があるので、かけ合いしないと生まれない表現がある気がしています。
――最後に読者のみなさんにメッセージをお願いします。
興津:この作品に関わるみんながプロの仕事をしようと必死で取り組んでいます。ぜひみなさんもプロの視聴者の目線で楽しんでください。毎週リアルタイムで日本テレビ系列さんにチャンネルを合わせていただき、ディズニープラスさんにも加入して何度も見直していただければと思います。字幕配信もあると思いますので、海外の方にも楽しんでもらえたら嬉しいですね!
[文・M.TOKU]
作品概要
あらすじ
幼少期から殺し屋としての英才教育を受け、
どんな敵も 6 秒以内に鮮やかに葬り去る、
無敵の殺しの天才・通称“ファブル”。
ある日、組織のボスから
「1年間誰も殺してはならない」
という突然の指令を受けた彼は、
人殺しをしない全く新しい生活を送ることになる。
佐藤明と名乗り、プロとして初めて過ごす普通の生活。
しかし、平穏な日常の中に蠢く、不穏な空気が明を放っては置かない...。
果たして、この最大にして至難のミッションを遂行することはできるのか!?
寓話と呼ばれし無敵の殺し屋“ファブル”の、 カッコよく、滑稽で、
そして少し風変わりな 1 年間の殺し屋休業生活が始まる!
キャスト
(C)南勝久・講談社/アニメ「ザ・ファブル」製作委員会