春アニメ『夜のクラゲは泳げない』連載第0回:監督 竹下良平× 脚本 屋久ユウキ|監督からの直接オファー、豪華スタッフが集結した理由
オリジナルTVアニメ『夜のクラゲは泳げない』(ヨルクラ)は、監督:竹下良平 × 脚本:屋久ユウキ × アニメーション制作:動画工房が贈る青春群像劇。ライブビューイングも行われた第1話・第2話の先行上映会で、映像の美しさ、物語の面白さを確認した人も多かったはずだ。
登壇したキャスト陣のコメントからも、この作品に対する熱量の高さを感じ取れた。それだけ期待して良いオリジナルアニメなのだが、第1話の放送前に、竹下良平監督とシリーズ構成・脚本を担当する屋久ユウキによる対談が実現! 『ヨルクラ』インタビュー連載の第0回として『夜のクラゲは泳げない』が生まれるまでの話を語ってもらった。
監督からの直接オファー、豪華スタッフが集結した理由
――『夜のクラゲは泳げない』は、創立50周年を迎えた動画工房によるオリジナルアニメーションですが、企画の成り立ちについて教えてください。
竹下良平(以下、竹下):最初は、動画工房とキングレコードと僕の3者で、何か原作モノをやろうという座組だったんです。ただ、僕はずっとオリジナルアニメを作りたいと思っていたので、キングレコードの鈴木廉太プロデューサーに相談してみたところ、オッケーを頂き、オリジナル作品として進めることになりました。
そこからアクションものとか、ジャンルの異なる企画をいくつか出していき、その中で興味持ってくれたのが、この作品になります。そのあとに脚本家を決めることになって屋久先生を提案しました。『弱キャラ友崎くん』はもちろん読んでいましたし、とても才能のある方だと思っていたので、一緒に仕事をしたいと、私のほうから屋久さんに直接オファーさせていただいたんですよ。
――お話があったときは、どう思いましたか?
屋久ユウキ(以下、屋久):僕ももともと監督の作品が好きで、監督の開催するセミナーに行ったりもしていたので、しかもその方とのオリジナルアニメとなると、一番やりたいやつ来たー!って感じでした(笑)。
竹下:そう思ってくれていたのが嬉しい。
屋久:企画内容も僕が得意そうだし、書きそうだし、書きたいと思えるものだったので、まさにこれ!っていう感覚でした。
竹下:最初の段階から屋久さんにお願いしようというのは頭にあったんですけど、一緒に作る作品は弱キャラのように学校が舞台じゃなくても良いなと思っていました。作品の外側よりも中身が屋久先生に合っていれば、興味を持ってくれるだろう、という感覚でした。
屋久:本当にそうなんですよ!(笑)。僕は中身のテーマさえ書きたいものであれば、ガワの部分は何でもいいってタイプで。ただ、それを会う前段階からわかっていたんだってところは、いますごく驚いています。
――作品のテーマをどういうものにするか、何を伝えたいのかというのは、屋久先生が入ってから具体的に詰めていく感じだったのですか?
竹下:そうですね。先生が入ってから、テーマがすごく膨らんでいき、キャラの掘り下げも深いものになっていったと思います。
――屋久先生は、どんなところから考えていったのですか?
屋久:この作品の場合は、「匿名シンガーでクリエイティブもの」というガワのアイデア(企画)があったので、それに合う現代的なテーマだったり、キャラクターだったりを当てはめていく感じだったと思います。僕はもともと、テーマみたいなところから考えていくタイプなんですけど、今回はガワの部分も僕が好きそうな空気感だったので、その設定に対し、書きたいと思っていたテーマをキャラクターたちに入れて、魂を与えていく……そんな感じでした。
竹下:屋久さんが持つ、キャラクターの内面と向き合う姿勢はすごく勉強になりました。また、視聴者に響くような魅力的なキャラクターを描けるのが素晴らしくて、さすが、商業作品の第一線で活躍されている方だなと思いました。
――何で、こんなにさまざまな人格を描けるのだろう、想像できるのだろうと、いつも驚いてしまいます。
屋久:それって何でなんだろうなぁ。もしかしたら僕が人に興味があるからかもしれないですね。
竹下:屋久先生はよく人を見ているし、自らアイデアを生み出すだけでなく、人が考えたアイデアを膨らませるのもすごく上手いんですよ。だから観察されていると感じることがあるんです。脚本を読んでいると、このへんは自分のことなんだろうな、とか思うこともあって(笑)。
屋久:えっ!
竹下:このキャラクターのこの部分って、この人なのかなと思うと、ちょっと皮肉を言っているのかな?って考えたりもしちゃって……。
屋久:誰を誰だと思っているんですか!(笑)。
竹下:いや、これは私の勝手な想像ではあるんだけど、作家がどういう風にモノを作っているのかというのを身近で感じられたのは、私の一番の収穫でした。
――共感できるキャラクターが多いだけに、自分のことなのかな?って感じたりしますよね(笑)。でも、女子高生たちの悩みもリアルだなぁと思いました。
屋久:承認欲求を抱えているとか自己肯定感が低い、みたいな悩みがよく出てきますが、別に女子高生じゃなくても、現代の人ってほぼ全員そうなんじゃないかなって感じがするんです。そこで、じゃあ何でこの人は自己肯定感が低いんだろうとか、どういう時に自己肯定感の低い高いがブレるんだろうとか、どういう時に自分が承認されたと感じるんだろう、逆にどんな時に誰かを承認しようと思うんだろうってことをクセみたいに考えちゃうんですよね。毎日それベースに生きているところがあるから、人としゃべっていても、この人はこうなんだ! 面白い!っていつも感じてるんです。
で、結局あの人もあの人もあの人も、年齢も違うのに、みんな同じことを考えてるじゃんってなると、じゃあこれは人間みんなが共有できることなんだなと思うし、逆に、これは若い女の子にだけ表れる特徴なんだなってわかったりする。それから「若い女の子に共感してほしいシーンなら、同じテーマを持った女の子に、この魂を授けよう」みたいに作っていくので、人格の書き分けは、僕が人に興味がある故にできていることなのかもしれないです。
――SNSの時代になってから、承認欲求は高いけど、自己肯定感が低いという人が増えた気もしていまして。そういう人たちにダイレクトに刺さる物語だと思いました。
竹下:クリエイターもそういうところありますよね。自己肯定感が低いが故に、自分を認めてもらう手段として物作りを選ぶところがあるんじゃないかって。自分が作るもの質の高さだけが、自分がこの世界にいてもいい免罪符、みたいな。だから、自分をとことん追い込んで、頑張ることが出来るんだろうなとも思います。この作品で、その悩みを持っているのは、光月まひるになるわけですけど。
屋久:確かに、それ以外の子は、また違う部分で悩んでいますからね。
――匿名クリエイティブ活動という設定にしたのはなぜですか?
竹下:EveさんやAdoさんといった匿名で音楽をやる人たちが出てきましたよね。彼らは匿名であるが故、自分の分身になるようなキャラクターを生み出して、MVをアニメで作っている。そういう文化がとても好きだったので、この題材にしようと思ったんです。そういう創作活動を通した女の子たちの青春群像劇を作りたいと思って。
――舞台を渋谷にしたのには理由があるのでしょうか? 多種多様な人がいるし、クリエイティブな街というイメージもありますが。
竹下:今回はストリートカルチャーをビジュアルにしたいと思っていました。写真家の撮るストリートっぽいラフな写真が好きで、写真集を漁っていると渋谷を舞台にしたものが多くて。渋谷のストリートアートがいっぱいの路地裏と、可愛い女の子の組み合わせが面白いんじゃないかというのもあって、渋谷を舞台にしました。
――今は宮下パークができて、女子高生がいてもおかしくない場所にもなっていますしね。脚本を書くとき、渋谷という舞台はいかがでしたか?
屋久:最初、何なら場所は変えてもいいですよ、みたいな感じだったんです。ただ、ストリート感は大事にしたいから、ストリートっぽいところがあるならば、ということだったんですけど。
竹下:大宮にしてもいいですよ、みたいなことは言ったかもしれない(笑)。(※屋久先生は「日本の首都は大宮」と言うほど、大宮愛にあふれる作家)
屋久:そうでしたそうでした(笑)。夜の街とストリート感。そして若者たちのアイデンティティみたいなことを描きたいから、何なら下北沢とか高円寺でもいいよ、みたいな話もあったと思うんですけど、そこはどちらかというとサブカルのイメージが強いし、新宿もクリエイターっぽいかと言われるとちょっと違うなと思って。
そうなるとやっぱり渋谷なんですよね。宮下パークも、もはやTikTokの聖地感があるし、YouTubeなど時代の中心のクリエイティブのメッカというイメージも強い。なので話し合いの中で舞台が渋谷に決まり書き進めてみると、舞台を渋谷にするだけで、監督の希望していた空気感を自然と出していけたので、すごくやりやすかったです。