『ミラキュラス レディバグ&シャノワール』日本展開5周年記念 TOEI ANIMATION EUROPE 代表・河内隆次さんインタビュー|日本アニメを海外で成功させるために必要な条件とは?
昨今、SNSを中心に話題になる機会が増えている海外アニメ作品。『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』や『パウ・パトロール ザ・マイティ・ムービー』など、様々な話題作が登場し、注目を集めています。
一方、アジア、ヨーロッパをはじめとした海外市場における日本のアニメ作品への熱量も益々高まっている様子。そんな中、フランス・韓国・日本の共同制作による3DCGアニメ『ミラキュラス レディバグ&シャノワール』が日本初放送から5周年を迎えました。
アニメイトタイムズでは、この記念すべきタイミングに合わせ、TOEI ANIMATION EUROPEの代表を務める河内隆次さんへのインタビューを実施。『ミラキュラス』誕生の経緯を語っていただいたほか、20年以上携わってきたアニメ産業の“これまで”と“これから”について、お話を伺いました。
時間をかけて、じっくりと作品を成長させたい
ーーまずは簡単な自己紹介をお願いできますか。
TOEI ANIMATION EUROPE 代表・河内隆次さん(以下、河内):東映アニメーションのフランス現地法人であるTOEI ANIMATION EUROPEの河内です。ヨーロッパに出向する以前は、2003年から香港オフィスで主にアジア各国へのTV(放映権)販売を担当していました。当時扱っていた作品としては、『金色のガッシュベル』、『冒険王ビィト』、『ONE PIECE』などです。
2009年からパリに異動し、現在は欧州オフィスの代表をさせていただいています。『ミラキュラス レディバグ&シャノワール』では作品立ち上げ時期より、プロデューサーとして関わっています。
ーー海外のテレビ局に作品を売り込むためには、どのような手順を踏むのですか?
河内:東映アニメーションは、各地に現地支社がございますので、直接ライセンシーと交渉して、契約するという方法を取っています。アジアを担当していた頃は、毎週アジアを巡業しておりました。
当時はカードビジネスが重視されていたので、現地の企業を訪問したり、カードイベントを開催したり……。それまで香港で展開されていたカード商品は基本的に英語を使用していたのですが、初めての現地言語翻訳も実施したんです。そのために、各国でキャラクターの名前を翻訳したリストを作成する必要がありました。タイ語が読めなかったので、歩いている方に声をかけて、「日本語はわかりますか?これを読んでください!」とお願いしたぐらい、未整備な環境でした。
ーー日本アニメの輸出における最前線で、多岐にわたるお仕事を担当されていたのですね。
河内:色々なビジネスをアジアで展開させて頂きましたが、その中で学んだのは、「海外で作品を立ち上げるのは、1年〜2年では難しい」ということ。昨今は動画配信サービスの台頭もあり、短期で成果を目指そうとする話をよく聞きますが、自分のスタンスは違います。
もちろん配信自体は行いつつも、じっくりと作品を成長させるために、「時間をかけて、ローカルに徹する」という戦略を取り続けています。ローカル企業・パートナーとともに各地のイベントに出展し、徐々に知名度を上げていく。そのような手間と時間のかかる活動を通じて、地上波で作品を流し、商品化のライセンスを少しずつ開拓していくという流れです。
生き残るために生まれた新しい選択
ーーヨーロッパに異動された2009年以降のお仕事については?
河内:アジアで様々なシチュエーションの仕事を経験したので、欧州に異動しても仕事内容にあまり違いは無かったと思います。国ごとのニーズに合わせながら、自分のノウハウをチームのみなさんに共有し、現状の体制を作っていきました。
当時のフランスでは、日本のアニメ作品が全く放送されておらず、「我々が盛り上げるから、テレビで放映してほしい」と交渉せざるを得ませんでした。イベントでのプロモーションに集中して、広告宣伝費を投下していくしかないと。それから15年間、継続して大きな予算をフランスで毎年開催されるイベントに投資していました。
ーーかなり思い切った決断だったのではないでしょうか?
河内:時間をかけて地道に活動するくらいしか戦える武器がなかったんですよ。ただ、最初の数年間は良い成果がでませんでした。フランスやスペインでは、ケーブルTVや衛星放送での放映こそありましたが、地上波放映までの道のりは険しく……。苦戦しましたね。「いかに日本のアニメ作品を売るのが難しいか」を肌で実感した日々でした。そんな苦労のなかで足を止めなかったこともあり、ここ数年はようやく芽が出てきた気がしています。
ーー日本国内では「以前から日本のアニメは世界的に流行っている」というイメージを持っている人も少なくないと思いますが、現地の肌感覚的には“最近”だったと。
河内:コロナ禍で配信サービスの利用が増えた結果、観たいコンテンツが少なくなってしまった人は意外に多いようです。その中で、「たまにはアニメでも見てみようか」と。昨年辺りから、空前のアニメブームがようやく来たんじゃないでしょうか。ヨーロッパ圏に進出してから、初めて波に乗れている気がします。
ーーようやくトンネルを抜けたというか。日本でヒットしている作品でも、やはり一筋縄ではいかないものなのですね。
河内:日本を歩いていると、様々な場所でキャラクターを目にしますし、商品を買ったり、カバンに付けたりする方が多い印象です。でも、ヨーロッパの街にはキャラクターが本当に少ないんですよ。当然玩具屋さんに行っても、日本の玩具は全くないわけです。日本とはキャラクターという概念の受け止め方がまったく違うので、非常に苦労しました。
ーー以前に比べると、少しずつ状況は変わり始めているのでしょうか?
河内:最近、ロンドンの大手書店のショーウィンドウに『ドラゴンボール』の商品が並んでいるのを見て、「やった!」という気持ちでした。私自身はこの現象を“商品化のステージ”と呼んでいます。商品のクオリティではなく、「日常的に買う・少ししか買わない」という次元の話です。日本はもちろん、アジアやアメリカもかなり進んだ位置にあると思います。
加えて、ヨーロッパ圏の中では、イギリスは特にライセンスビジネスが進んでいる国です。ただ、『ハリー・ポッター』などの欧米作品の商品はあっても、日本のアニメは入り込みづらい状況にあります。
ーー河内さんは「どうやって日本のアニメを扱ってもらうのか」という難題に、20年以上取り組んできたんですね。
河内:そうですね。それが『ミラキュラス レディバグ&シャノワール』の立ち上げに繋がっていきます。地上波の枠に入れないという状況を打破するためには、文化様式の異なる日本のアニメをそのまま持ってきても上手くいかなかったんです。それなら、ヨーロッパのクリエイターと合作を作り、アニメの認知をより広げていく。選択肢を増やしていきたいと考えました。