「おジャ魔女カーニバル!!」は子供の素直な気持ちを表現してほしいという発注をしています―― 『おジャ魔女どれみ』ができるまで | 東映アニメーション 関弘美プロデューサーインタビュー【後編】
本当にとことん小学生を掘り下げて作っていると思っていただけたらと思います
――キャラクター、クラスメイト、衣装や小道具ときたので、音楽についてもお伺いさせてください。あいこであればハーモニカ、はづきであればバイオリン、と各キャラクター固有の楽器や音が設定されています。これはどのようにに決まっていったのでしょうか?
関:『おジャ魔女どれみ』というタイトルの「どれみ」というのは、音楽の基本中の基本である音階ですよね。それから子供には歌舞音曲が欠かせないという考えから、みんなに楽器を持たせようと思っていたんです。
ピアノに関しては、シリーズ構成の山田隆司さんが、家族や妹との話にピアノをどうしても入れたいということで、どれみちゃんの楽器はピアノになりました。
あいちゃんに関しては、あいちゃんのお家は離婚していますが、そこに至る前にハーモニカの思い出を作りたいという想いがありました。ハーモニカというのは、小学生が誰でも手にすることができる楽器のひとつですよね。ハーモニカとリコーダーは、たぶん私の時代の小学生はみんな吹けたんですよ。鍵盤楽器と笛とハーモニカというのは、小学生ならみんな馴染みがある楽器なんです。
その一方で、普通の公立の小学校で教わらないものに弦楽器があります。はづきちゃんはお金持ちのお嬢さんで、小さい時から色々な習い事をさせられているので、そのひとつのバイオリンという立ち位置にすることで、少し特別感のあるお嬢様にしているわけです。
だから、もう本当にとことん小学生を掘り下げて作っていると思っていただけたらと思います。
――なるほど。音楽面で言えば、音楽を担当された奥慶一さんの優しい劇伴も耳に残りますが、どんなオーダーで作曲を依頼したのでしょうか?
関:実は、奥慶一先生とは『ママレード・ボーイ』の頃からのお付き合いなんです。当時、フジテレビのドラマで奥先生が音楽をやっていらっしゃるのを聴いて、この人はメロ譜(メロディライン)が覚えやすくて綺麗で良いなと思っていました。いつか自分が少女ものをやる時には奥先生とお仕事をしたいなと思っていて『ママレード・ボーイ』で最初のお付き合いとなりました。
その後、『どれみ』でもお付き合いしていただくのですが、その際にキャラクターや家族の話、設定といったものは先生にお伝えしています。さらに一人ずつ、この子はピアノ、この子はバイオリン、この子はハーモニカ、後から出てくる子はフルート、といった各キャラクターの楽器を決めていることなどもお話しさせていただいたところ、その子たちのテーマにそれぞれの楽器を入れてくださったんですね。
それから、最初に出てくる魔法や魔法界は少し怖い感じもありますが、普段はとても明るい作品で、ギャグで攻めるような話がいっぱいあります、ということもちゃんとお伝えしたので、そこで色々と遊んでくださったと思っています。
――もうひとつ『おジャ魔女どれみ』に欠かせない音楽といえば、25年経っても愛され続ける名曲「おジャ魔女カーニバル!!」です。あの曲はどんなオーダーをして生まれたものなのでしょうか?
関:作詞の大森祥子先生には、とにかく一回で歌詞を覚えられなくても良いですとお伝えしましたね。実際、テレビの画面に歌詞が出るからと言っても、3歳や4歳の子供だと読めないんですよ。耳から入ってくる音声と映っている文字が合致するのは、多分6歳や7歳とか小学校に入ってからなんです。
そういう歌詞の方向性がありつつ、宿題がやりたくないか、うるせえなこの親父みたいな、子供の素直な気持ちを表現してほしいという発注をしています。リアルな気持ちと言ったら良いのかな? それで、あの歌詞は誰が聴いても「宿題なんかやりたくないに決まってるじゃん」みたいな共感を覚えるものになっているんですね。
だから、今回の「AnimeJapan 2024」の新作映像も「おジャ魔女カーニバル!!」がキーワードになるんです。
親子で見てもらおうと思ったら、ちょうど30周年の時になるよねという長期戦略なんです
関:今週末に「AnimeJapan 2024」がありますよね(取材は3月中旬に実施)。そこで『おジャ魔女どれみ』は新作映像のお披露目発表会をやります。その映像をご覧になっていただけたらわかると思いますが、作り手側のちょっとしたチャレンジなんですよ。
『おジャ魔女どれみは』25年前の作品ですが、この作品が古くはなっていないか、新しい視聴者に届けるためにはどうすればいいか、というのを考えて映像を作っています。そして、まず視聴回数を大事にして、どのくらいの人が見てくれるか、ここで『どれみ』の未来を決めるんです。もう一回やる? やれる? とか、そういう感じですよね。
だから、その映像には高校生や大人になったどれみたち、小学生のどれみたち、ちびキャラのどれみたち、3パターンくらい出てきます。大人の頭身になったのは何故かというと、昔見ていた子供たちも、当時3歳で見ていたら今は28歳になっているわけです。どういうところに共感するかと言ったら、自分と同じ頭身の人に共感するんです。でも昔好きだった『おジャ魔女どれみ』は3.5頭身。大人と子供の両方の頭身が出てくる話を見たいと思いませんか?
そういう可能性が『おジャ魔女どれみ』にあるのかないのか、そこは逆に言うと今回の新作映像を見ていただいた人たちの反応をマーケティングとして、私たちは参考にするべきじゃないかなと。押し付けるのではなく「どうでしょう? 見たいと思いますか?」みたいな感じです。
だから、記事が公開される頃には100万回くらい再生数がいっていると良いなと思います。ただ、再生回数を気にしていますが、そこにCMみたいなのを付けてチビチビ稼ごうみたいなことはあんまり考えていないんです。そうではなくて、本当に純粋にマーケティングとしてやりたいんです。
――初回放送から25年経った今の『おジャ魔女どれみ』に、どれくらいのポテンシャルがあるのかということですね。
関:ポテンシャルを測るための実験であり、賭けです。ぜひ、みなさんに応援していただけると嬉しいです。この映像を見て素直に「良いじゃん」と思ってもらえるのか、または「古くない?」と思われてしまうのか、そこは見た人の意見を聞きたいなと思っています。ちょっと勇気のいることなんですが、でもそうすることで長期戦略が見えてくるんです。
――長期戦略と言いますと?
関:あくまでも私のマーケティング上ですが、今の女性が結婚する年齢が何歳かご存じですか?
――少しずつ年齢が上がっているとは聞いているので29~30歳くらいですか…?
関:良いところいっていますが、実際は29.7歳くらいだと思います。そして第一子を生む年齢が、30.4~30.5歳くらいなはずなんですよ。まあ、第一子を生む年齢もずれ込みつつあるので、最新の数字だともう少し遅くなると思いますが。
ということは『おジャ魔女どれみ』が30周年の時には、昔見ていた子供たちの更にその子供が、ちょうど3歳から8歳くらいになっている可能性があるんです。親子で見てもらおうと思ったら、ちょうど30周年の時になるよねという長期戦略なんです。
長々とシリーズでやる必要は無いと思いますが、30周年を迎えるためのお膳立てとして、何本かだけでもやっておくことで繋がると良いなと思っています。
――「AnimeJapan 2024」で公開される映像にワクワクしますね。
関:昨日ちょうど映像を見てきたところですが、これがすごく良いです。たった2分弱の映像なのに、何でこんなにじわっとくるんだろうと言っている人もいて、それは嬉しかったですね。