黒江真由は“異物”であり“スパイス”!? 『響け!ユーフォニアム3』戸松遥さんインタビュー|部活という小さな社会を経て、彼女たちがどんな大人になっていくのか、想像を膨らませてほしい【連載第3回】
真由のような要素を持つ子は、周りにけっこういた
――「異物」という言葉以外にも、1話のアフレコの際、石原監督や鶴岡(陽太)音響監督から言われたことで、特に印象的だった言葉があれば教えてください。
戸松:最初の一言で「とにかく難しい役です」と言われました(笑)。スタッフ陣の皆さんの中でも思い思いの真由のイメージがあって、「こうだよね」という(共通の)着地点がたぶん無いんですよね。掴みどころがないように見えるし、「なんでこの場でこういう発言をするんだろう?」と少しモヤッとするセリフや行動があったりするのですが、けっして悪者ではない。いかにも「攻撃しています!」みたいな子だったら分かりやすいんですけどね。
――敵意を持って噛みついてくるタイプではないですよね。
戸松:でも、言われた側が「今のって、どういう意味だったんだろう?」って気になる発言も多い子なんです。なので観ている人にも、どう捉えられるかが本当に難しいし、声が入ることで見え方も変わってくるんですよね。私のちょっとしたさじ加減で、すごく見え方が変わってしまう役柄かなと思っています。
でも、転校生でユーフォ担当という意味では、久美子のライバルにならなきゃいけないポジション。その絶妙な関係は見せる必要があると思っていて。ギスギス感とかではないんですけど(笑)。
――周りの男子には、察することのできない関係性ですね。
戸松:監督たちは「『現実にこんな子いるのかな?』って思うくらい出会ったことのないタイプ」というお話をされていたんですよ。そのときに、本音と建て前を使い分けながら、絶妙な距離感で上手にバランスを取っていくあの感じは、女子ならではのものなんだなって思いました。私は女子校だったのですが、真由みたいな子はけっこういたんですよね。
――そうなんですか!
戸松:具体的に誰かというよりも、ちょっとずつそういう要素を持っている子はいたなって思い出しながら、それをヒントに役を作り上げています。私も真由を悪く見せたいわけではないんですが、視聴者の方たちにも「なんだろうこの子?」って思わせる余白を与えるようなお芝居は必要だと感じていて。計算しながら演技するのはあまり得意ではないんですが、最後までシナリオを見せていただいているので、そのことも踏まえつつ、久美子を中心に周りを振り回していけるポジションになれたら良いなと思っています。
――先ほど、本番のアフレコでは、オーディションでのお芝居から調整もしたと仰っていましたが、具体的にはどのような調整があったのですか?
戸松:1話のセリフは、本当に一言だけだったんですが、初めましての大事なシーンなので、ミステリアスで魅力的に見せたいんですよね。映像自体が「すごい子が来たぞ!」みたいな演出になっているので、それだけでも十分伝わるんですが、テストの後、鶴岡さんからは「もっとタダ者じゃない感じが欲しい」と言われました。
――迫力的なものが欲しいということですか?
戸松:久美子がなぜかざわざわする感じというか、鶴岡さんからは「(他の作品で)戸松がメインをやっているときの芝居あるじゃん。ああいう感じ」と言われたんです。私はその言葉を、久美子たち3年生のできあがった距離感や存在感に負けないくらいのオーラというか、芝居感や年齢感が必要ってことなんだ、と勝手に解釈しました(笑)。
――真由は「3年生の転校生」というところも大きなポイントですよね。
戸松:そうなんですよね。吹奏楽部の大半の生徒が普通に1年生の時に新入部員として入ってきているんです。その子たちや関係性ができあがった3年生と、強豪校からやってきたすごく上手い転校生では、(立場は)全然違うと思うんですよね。
先ほどもお話ししましたが、別に何かを攻撃したわけでもないけれど、久美子と対になるポジションというか。ライバルになり得るだけの貫禄みたいなものを(最初から)求められたのかなと思います。
高校生の部活を描いているけれど、小さな社会の話でもある
――2話では、久美子以外の生徒とも絡みがありますが、アフレコで特に印象的だったディレクションなどはありますか?
戸松:1話でベースはできていたのですが、先ほどお話ししたように、真由って(スタッフの)皆さんの中でも正解を見つけるのが難しいみたいで、初めて他の生徒と絡んでみて分かることもあって。「何も無いのに、ちょっと裏がありそうに聞こえるから、もっとフラットに」みたいなディレクションをいただきました(笑)。
逆に、「ここはもう少しドラマチックに見せましょう」と言われることもあって。前半の話数は、そういうシーンごとの微調整が特に多かったです。後半になると少し変わってくるのですが。
――そのあたりは、まだ語れない部分ですね。
戸松:あと、アフレコのときからフルカラーで絵ができあがっていて。すごく繊細な表情なども表現してくださっているので、あまり余計なリアクションなどは入れないようにしていました。そういうのを入れると、逆に「かまって」みたいな感じに聞こえちゃいそうな気がして。(絵が)動いていても、あえて息を入れないようにしたり、引き算でやっている部分が多いかもしれません。
――取材のために頂いた資料映像が放送用の完成映像だったことに驚いたのですが、アフレコの時点ですでにカラーの絵が入っていたのですね。
戸松:はい。フルカラーの絵でアフレコできる機会なんてあまりないので、緊張しました(笑)。
――もし、同じクラスに黒江真由が転校してきたら、高校生の戸松さんはどんな関係性になれると思いますか? 仲良くできますか?
戸松:私は仲良くなれると思います。掴みどころがない人ってそんなに苦手ではないというか。真由みたいな子は苦手な人も多そうですが、私の友達、けっこうそういう人が多いんですよ(笑)。
――演技に活かしたと仰っていましたね。
戸松:私自身がワーワー言って陽キャ扱いされるタイプなので、友達も陽キャで「イエーイ!」みたいな人が多そうに思われるんですけど。実は自分に近い人と一緒にいると疲れちゃうタイプなので、むしろ真逆に近いタイプの友達が多いんです。親友もおっとりした性格の聞き上手で、たぶん周りからは何を考えてるのか分からないって思われてるんだろうなって感じの子で。でも、ちゃんと2人で話すと「あ、そういうことが言いたかったのか」と分かったりするんです。
――じっくり話さないと、魅力が分かりづらいわけですね。
戸松:2人で話して、初めてその人の本性が分かるみたいな。そういう人は好きなので、真由とも相性は悪くないと思います。
――最後に、『響け!ユーフォニアム』が大好きな読者の皆さんに、3話以降の見どころも含めたメッセージをお願いします。
戸松:この作品は、高校生の部活の青春を描いているのですが、私は小さな社会の話でもあると感じていて。すごく考えさせられる作品でもあるので、ぜひ、いろいろな世代の方に観て欲しいなと思います。
部活という狭いコミュニティの中にも縦社会があるし、横の繋がりでも、真由みたいな子が入ってきて少しバランスを取らなきゃいけなかったりする。今リアルに学生の方が観ると、同じ世代だからこそ分かることや、共感できることも多いと思います。
一方で、大人の方が観ると「うーん、それはそうなんだけど……」とか、「みんな間違ったことは言ってないんだけどな……」みたいなことを思ったりもするはず(笑)。
それに、部活がどうとか、真由がどうということだけではなく、この子たちが大人になっていくまでのプロセスを描いた作品なので、「高校3年生とは?」ということも考えさせられる作品だと思います。その中で真由は、「異物」としてスパイスになるようなポジション。これからヒリヒリさせていくと思います(笑)。
真由はどういう子なのかということにももちろん注目して観て欲しいのですが、話の全体としては、この小さな社会で頑張っている高校生たちがこれからどういう大人になっていくのかを想像しながら、観ていただくのも面白いのかなと思います。
[取材・文=丸本大輔]
作品概要
あらすじ
キャスト
(C)武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会