声優という職業は「私にとって生きている意味」。引っ込み思案な自分が嫌だった。だからこそ、自由に生きているアニメのキャラクターに憧れたんです──古賀葵さんが声優になるまでの軌跡を振り返る
作品はひとりで作っているものじゃない
――古賀さんは現在に至るまで、さまざまなキャラクターを演じられていますが、ターニングポイントとなった作品やキャラクターというといかがでしょうか?
古賀:その時その時に、自分の課題があって。それを乗り越えたからこそ、できたんだろうなって思います。例えば、アニメイトタイムズさんで取材していただいた『魔法少女?なりあ☆がーるず』(2016年)は普通のアニメのアフレコとは違って、VTuberの走りと言いますか。自分の身体にセンサーをつけて、自分でキャラクターを動かして、エチュードをやって、その素材を使ってアニメーションにしてっていう。
話の大筋はあったんですけれども、展開させていくのは自分たち。だからこそ、ぶつかり合うことも。そもそも私はツッコミ役だったんですけれども、蓋を開けたら全然ツッコめず……。でも、みんなボケてくれてるんだから、なんとかツッコミ役として成立させなきゃって。そもそも、私の声が小さかったり、タイミングが掴めなかったりで(苦笑)。(視聴者の方からの)「何言ってるの?」といったコメントも見かけたんですね。もう無理、向いてないかもって思うこともありました。でも、せっかく選んでいただいたのだから、ここでくじけちゃダメだという気持ちで、自分に何ができるかをあらためて考えました。
まずは大きな声で、自分のできることで一生懸命を出そうと。背伸びせずにやろうってその時に学びました。ありのままの自分をありのまま出す!って。そうやっているうちに、応援してくれる方が増えてきました。
それと、思い出深いのは、同じ事務所の田中あいみさんとダブル主人公という形で出演させてもらった『つうかあ』という作品です。最初はキャラクターの気持ちが分からず、台本を読めど読めど「なぜこの子はここでこういうセリフを言っているのか」「なぜこういう気持ちになっているのか」全然理解ができなくなっていって。自分が演じるキャラクターのことは自分が一番の理解者になりたいのに、なんで全然理解することができないんだ!って、先輩に泣きついたことがありました。
それまでは自分で考えて、それを表現するのが正しい形のような気がしていたんです。そうしたら、相談した先輩が「最初から全部理解していると思わなくて良いんだよ」って。「一緒に歩んでいるうちに、キャラクターのことが分かるようになったり、自分と通ずるものが出てきたりするものだから。最初からキャラクターを背負ってとか、そんなに深く考えずにやって良いんじゃないかな。分からなかったら、分からないって言って良いんだよ。ひとりで作品を作っているわけじゃないから、良いんだよ」というアドバイスをいただきました。それをきっかけに、監督や先輩に相談するようになって。気負いすぎないってことも大事なんだなと思いました。
――すごく良い言葉ですね。
古賀:今振り返れば、最初から分かってるなんておこがましいと思うんです。その先輩のアドバイスのおかげで、かぐや様(『かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜』四宮かぐや役)を演じることができたようにも思います。全部が生きてきているなって。本当にありがたいことです。
――そういう意味では、常に更新されているのかもしれませんね。
古賀:そう思います。その根底にあるのは、「81ACTOR'S STUDIO」で教えていただいたことでもある「ひとりで作っているものじゃない」ということで。日々、チームでの作品づくりの意味というのをしみじみと感じます。
「諦めなくて良かった」
――そして昨年、念願のプリキュアに。『ひろがるスカイ!プリキュア』にはプリンセス・エル/キュアマジェスティ役として出演されていました。タクシーでプリキュアオーディション会場に向かって、その後ちょっとしたアクシデントがあったとか。
古賀:携帯を落として、タクシーに轢かれてバリバリになってしまって(苦笑)。初めて『プリキュア』を受けたときだと思います。運良くスタジオオーディションに行くことができたんですけど、帰りのバスも全然違うところに行ってしまって、さらに携帯の電池も無くなってと散々でした。ただ、そのときのことはすごくよく覚えていて。私が声優になりたいと思ったきっかけの作品でもありますし、絶対にこの思い出だけで終わらせたくないなって思っていました。でもなかなかご縁がなく。スタジオまではいくのに「ダメだった……」ということが続いていました。
だから『ひろプリ』は「もうこれで最後かもしれないな」と思っていたところがあって。でも、最後かもしれないから、全力で挑もう!って。そして、受けさせていただいたのがエルちゃん。赤ちゃん役をレギュラーでやらせていただくことがなかったので「赤ちゃんとは」というところから始まりました。オーディションの原稿にも「喜怒哀楽を“エル”で表現してください」と書いてあったんですね。それと他のキャラクターの名前を呼んでいる場面とか、エルちゃんのパートはなくて「うわっ、どうしよう!」って。当初はあんなに喋るとは思っていなかったんですけれども。
――ハードルは高かったけれども。
古賀:おかげで自信もつきましたし、赤ちゃんやお子さんについて学んでいく中で新しい発見もあり、演じられることがとにかく嬉しかったですね。自分が憧れていた世界で、エルちゃんになることができて、そしてイベントなどではエルちゃんのお人形を持ったり、衣装を着たりして参加してくれる子がいて。「諦めなくて良かった」としみじみ思いました。
お手紙もたくさんいただきました。今まで全然笑わなかった子がマジェスティに会ってから笑顔を見せるようになりました、って写真を送ってくださる方もいて。「ああ、良かった」って。
――エルちゃんに限らずですが、古賀さんが憧れを諦めなかったからこそ、いろいろな人に感動を与えることもできるんだと思います。
古賀:本当にありがたい限りです。応援してくださる方の声があるからこそ、頑張ることができています。本当に、常に感謝をする仕事だなと思っています。
――感謝をする仕事ってとても素敵な表現ですね。