原作・金城宗幸先生×作画・ノ村優介先生による、累計発行部数3000万部を超える超人気サッカー漫画『ブルーロック』。そのスピンオフ作品として金城先生自らが綴る、天才・凪 誠士郎が主役のもう一つの“青い監獄”物語が、2024年4月19日を皮切りに劇場公開されました。
『ブルーロック -EPISODE 凪-』は、「めんどくさい」が口グセの無気力な少年・凪誠士郎と、彼の秘められた才能を見つけ出した御影玲王、2人の絆の物語。凪と玲王は性格も考え方もすべてが正反対。それでも一緒にいたいという想いだけは強い2人。サッカーのパートナーとして“青い監獄”で過ごす中で変化していく心情が、丁寧に描かれています。
本稿では、交錯する2人の想いに注目して見どころを紹介します。人生が色付いていく凪に対して、つらく苦しい気持ちを味わう玲王。2人のすれ違う感情がもどかしく、そして物語として面白いところでもあります。みなさんはどちらの感情に惹き込まれますか?
2人の出逢いの瞬間
“望む”モノはすべて与えられてきた玲王に、生まれて初めて“欲しい”モノが出来る。それがW杯の優勝。金杯を手に入れるには自分の努力だけでは足らないと悩んでいた玲王は、凪誠士郎という〈天才〉と奇跡の出逢いをします。
階段でのスマホトラップと、自分に媚び諂う様子のない凪に衝撃を受ける玲王。その瞬間にW杯優勝という欲しいモノを見つけたとき以上の高揚感を覚え、「おもしろい! お前はそのままでいい!」と言ってサッカーに誘います。
自分が求めていた才能を見つけた玲王。
初めて自分に興味を持たれた凪。
スマホが壊れるとゲームができない。ただそれだけの理由で反射的に超絶トラップをきめた凪は、突然御曹司に「サッカーやろうぜ」と誘われ、「めんどくさい」と一蹴。それなのに目をキラキラさせながら自分のことを見てくる玲王を見て、頬が少し赤らむのです。自分に興味を持ってくれた嬉しさと御影玲王という男への興味で、無自覚にも凪の気持ちがほんの少し高揚したのかもしれません。
そして2人の人生は、この出逢いをきっかけに大きく変わっていきます。
サッカーの練習に打ち込む2人
父親の差し金で強豪校と練習試合をし勝利を収めた玲王たちは、そのまま大躍進! 玲王はひたすらに練習に励み、凪も玲王に付き合って練習する日々。ある日、練習を終え玲王が「よく頑張りました」と言って凪をレオリムジン(おんぶ)で運んでいると、自分と一緒にいるのをめんどくさがらない玲王のことを「変だよね」と言い出します。
凪と一緒にいるのは楽しいと言う玲王。
玲王と一緒にいるのは“めんどくさくない”から良いと言う凪。
素直に「玲王と一緒にいるのは楽しい」と言わない凪ですが、やりたくもないサッカーをするのは玲王と一緒にいたいから。一方玲王は、“2人で世界一になる”という夢に向かってサッカーに打ち込みます。この時の玲王は、凪がサッカーを楽しんでいなくても、自分が凪の隣でサッカーができるならそれだけで良かったのだと思います。“この時”は――。
“青い監獄”入寮時に芽生えた“エゴ”
日本フットボール連合に集められた300人のストライカーは、絵心の演説を聞いて心を動かされ“青い監獄”への扉を潜っていきます。めんどくさそうだし、きっと退屈だから行かないと言う凪。「絵心の話は退屈、W杯の決勝ゴールなんて簡単に思い描ける」と言う凪に対して「自意識肥大野郎」と返す絵心。それに怒った玲王は「2人なら…俺たちならできる!!」と言います。
自分が凪を世界一のストライカーにする、それが俺の“エゴ”だという玲王。
退屈にさせないという玲王を信じるから、「最後まで一緒にいてよ」という凪。
凪が約束した「最後まで一緒にいてよ」という言葉には、玲王の夢を一緒に叶えようという意味が含まれていたのだと思います。時には“めんどくさい”が勝ってしまうこともあるけれど、玲王と一緒だったら頑張れる――。
でも玲王には凪のそこまでの想いは通じておらず……。大げさに言えば、「最後まで」の意味も自分の面倒を見てくれる人がいてくれないと困るくらいにしか思っていなかったかもしれません。そしてこの後、“青い監獄”が2人の絆を変えていくのです。
「オニごっこ」残り5秒
“青い監獄”に来て行われた入寮テスト「オニごっこ」。ボールに当たった者がオニとなり、タイムアップの瞬間にオニだった者が脱落。残り10秒でオニになった斬鉄は無差別に狙うシュートを放ち、そのボールが玲王に当たりそうになります。
ここで脱落すればW杯優勝の夢を失う…と焦る玲王。
玲王がいなくなるのは俺が困る、と玲王を助ける凪。
自分が帰るのは良くても、玲王が帰るのはダメ。一緒にいるという約束のために玲王のピンチを救った凪ですが、帰る理由を作ろうとしただけだと思っている玲王。それでも、めんどくさがりな凪が自分のために動いてくれたことが玲王は嬉しかったのでした。
チームZとの戦いで<天才>が覚醒する
一次選考・総当たりリーグ戦でのチームZとの試合。リードしていたチームVですが、蜂楽のプレーをきっかけにチームZが巻き返します。一戦前の馬狼との試合後から説明できないモヤモヤした気持ちが芽生えていた凪は、自分にとってサッカーが何なのか、そして潔たちがサッカーに熱くなる理由が知りたい、と考えるように。波に乗ったチームZに同点に追いつかれ、無敗記録の自分たちが負けるのか……と焦り始めた玲王を見た瞬間、凪が急に走り出します。
玲王が焦燥するのを見て、自分を試したいという衝動が生まれる凪。
自分だけを視てサッカーをしていた凪が、自分を視ていないことに気づく玲王。
玲王が焦燥するのを見て急にスイッチが入った凪は、「俺やってみる」と自らのプレーでゴールを決め、初めてサッカーを面白いと感じます。自分が熱くなっていることを自覚し、この変化の先にどんな自分が待っているのか、その答えとなる“ゴール”が欲しいと思い始めるのです。
この時、凪がサッカーに魅せられ熱くなっていること、自分の才能に気づき始めたことに気づいた玲王。そして潔に負け初めて悔しさを知った凪を観て、嬉しいと感じた玲王。でもサッカーを楽しいと思わせたのが自分ではなかったことを認めることができず、自分の気持ちに蓋をしてしまいます。
玲王と離れ、潔とチームを組む凪
二次選考の1stステージをクリアした選手は、3人1組のチームを作って次のステージへ。当たり前に凪と組むつもりでいた玲王に、潔と組みたいと言い出す凪。2人で世界一になるのも絶対。でも自分たちは潔に負けた。悔しさという感情の正体を知るために潔とサッカーがしたい、と言います。
変わろうとしていく凪に「…好きにしろよ」という言葉しか伝えられなかった玲王。自分から離れていく凪の背中を押したら最後、自分のところに戻ってこない気がしてしまったのです。
人が変わっていくことが残酷だということを知った玲王と、変わっていくことがワクワクすることだと知った凪。
“青い監獄”に来たことを後悔する玲王と、“青い監獄”に来なければ知れなかった気持ちに高揚する凪。
玲王は、凪を変えたのは自分ではないと言いますが、凪の中では今の自分は玲王と出逢わなければ手に入らなかったと思っているのです。玲王といるのは好き。潔に負けて一度終わった世界一の夢を、玲王とまた夢見るために変わりたい。凪は玲王との約束をずっと胸に抱えながら、“青い監獄”でサッカーを続けていくのです。
人間関係1年生の2人の運命は?
他人に興味がなく、学校ではほぼ寝てるかゲームばかりしていた凪と、家柄も容姿も完璧すぎるが故、表面上の付き合いしかしてこなかった玲王。今まで心から友だちと呼べる存在がいなかった2人は、お互いがいきなり友だちを超えた「特別な存在」になってしまったがために、これだけすれ違っているのでしょう。友だちとして必要な“気持ちの言語化”が圧倒的に足りていないのです。
『-EPISODE凪-』は、凪が表で光りを浴びている裏で、玲王は心が折れて沈んでいることが多いです。高校では学園の王子様で光属性だったはずの玲王が、です。個人的に玲王ファンでもあるため、初めて見る玲王の弱い部分は何度見ても心が押しつぶされそうになりました。でも玲王には気づいてほしい――凪の行動には、すべて“玲王”が関係していることを。
凪と玲王はすれ違ったり交わったりを繰り返しながら、1人の人間としてもサッカー選手としても成長していきます。2人にはまだまだ試練がいっぱいですが、私たちは彼らが同じ気持ちでいることを知っていますし、同じ夢に向かって進んでいくと信じています。2人で世界一になれる日がくること願いながら見守りましょう。
凪、玲王、がんばれ!
アニメイトタイムズのお仕事のほか、旅行、グルメ、ウェディング、テーマパーク系のライターをしています。 旅行に行けなくなって、漫画やアニメにハマリ、今はもっといろんなジャンルを知るべく武者修行中! スポコンアニメを見て、一緒に泣いたり熱くなったりするのが最近のストレス発散方法。 ネコとハワイと『バクテン‼︎』が大好き☆
この記事をかいた人
- 万木サエ
- 旅行、グルメ、テーマパーク系のライターを経て、アニメのジャンルへ出向。ネコとハワイと『バクテン‼︎』が大好き☆
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本編の『ブルーロック』と同じく、二次選考通過メンバーが明らかになるところまで描かれた劇場版『ブルーロック -EPISODE 凪-』。残念ながらカットされてしまったシーンの中にも見どころがいっぱいです。ぜひ原作本も読んでみてください!