『キングダム』No.1の色気、桓騎（かんき）とは？　虐殺しまくりのひどい奴なのに、どうしても惹かれてしまう……その理由とは？

信と桓騎の関係

信は、虐殺はもちろんのこと、戦場での略奪も決して許しません。これは、信が千人将に昇格した後、町で略奪・強姦を行っている隊に遭遇し、怒りのあまり、これを率いていた千人将を斬ったことからもよくわかります。

このような信ですから、桓騎とは馬が合うはずはありません。とはいえ、桓騎の方が階級も年齢も上なので、飛信隊が桓騎の下に配属されるたびに、卑劣な行為には加担しなくとも、戦場での司令には従っています。

流血寸前までいった言い合い

ついに、この二人が直接ぶつかることになるのが、「黒羊丘の戦い」です。

趙軍への見せしめとして、村人を全員殺して死体の山を積み上げているところに、飛信隊が通り掛かり、目にします。怒りに震える信は、本陣の桓騎の元へ。そして、飛信隊vs.桓騎軍の、流血まったなしの言い合いが始まります。

いつまでも青臭いことを言っている、と信を馬鹿にするような態度で迎える桓騎に、信が“戦争は武装した兵同士がやることだ、民間人は関係ない“と息巻きます。信が「中華統一」「大将軍になる」という目標を口にすると、一瞬目を見開いた桓騎。真剣な顔で、信の方が自分よりも余程の悪党だと言います。

政と信のこころざす中華統一は、戦争を全土に広げることですから、確かに死者は膨大になるでしょう。これを悪と言ったのでしょうか？　それとも、秦王 政個人の理想を、すべての民に押し付けることを悪と言ったのでしょうか？

この議論は、尾平（びへい、飛信隊の古参ながら桓騎軍の那貴（なき）とトレードされていた）の登場で打ちやみになったため、その含みはわかりません。

実は、桓騎は信のことが結構好き!?

信は桓騎のことを基本嫌っているようですが、桓騎は信のことをどう思っているのでしょうか。

信をまだまだ若いなと鼻で嗤っている姿はよく出てきます。でも、信は桓騎の「怒り」の対象ではありません。むしろ、最初、桓騎は信に「元下僕に元野盗、似たもの同士仲良くやろうぜ」などと言っているのです。また、「大人の戦い方を教えてやるよ」と親しげに（?）先輩面をする所も。

そして最期には、信に、家族的存在のある野党一家を託しています。この時には、もう自分と対等な人物、もしくはそれ以上の人物として信を認めていたのですね。

こうした流れを改めて見ていくと、実は桓騎は、最初から信が好きだったのかも、と感じるのです。不遇な生まれという共通点ゆえの仲間意識や、どこか弟みたいに扱う所、最期には一人前に扱う所……。
もしかしたら、桓騎は信に、もうひとつの可能性、あり得たかもしれない自分の姿を見ていると考えるのは妄想に過ぎるでしょうか。

一方の信ですが、嫌っていたはずの桓騎に対して、その死をうけて誰よりもショックを受けます。もっともこれは、自分では自覚しておらず、桓騎の側近的立場でもあった一家の長に、指摘されてハッとするのですが。

たしかに、信は、桓騎最期の戦場となった地から、最も近くにいた軍の将 王翦（おうせん）に「お前らは見殺しにしたな」とすごい形相で責め寄っています。
また、「最悪の極悪人のクソで、何度殺してやろうと思ったか分からねぇ。でも普通の人間が目を背けるような者たちへの思いが確かにあった」と的確に桓騎を評してもいます。根っこの部分では、お互いにわかりあえるものがあったのでしょうね。

不遇な境遇から将軍にまで成り上がったこの二人、お互い通じるところがありつつも、その生き方は「陽と陰」、まるで対極の花の開き方をしたのではないでしょうか。