春アニメ『アストロノオト』インタビュー連載:窪之内英策(キャラクター原案)|キャラクターの内面からデザインを考えていくスタイル
キャラクター原案とキャラクターデザイナー
――今回はキャラクター原案となりますが、アニメではキャラクターデザインが入り、そこから数多くのアニメーターが描ける絵にしていく行程があります。この仕組みはいかがでしたか?
窪之内:そのアニメの仕組みを最初は知らなかったんですよ。本当にこの絵でいいのか?っていうのは、自分の中でも不安のまま描いていたくらいなので。
というのも、アニメのキャラクター原案は、この作品が初めてだったんです。止まっている間に、他のアニメ作品やCMなどで経験を積むことができたのですが、そこで思ったのは、僕自身がもうちょっとアニメーターさんに寄せなきゃいけないんだろうなということで。
やっぱり絵の線の起点を作るっていうのはすごく重要なんです。絵描きはわかると思うんですけど、線の起点が、細かいディテールのところにポイントポイントで入っていると、非常に動かしやすいんですね。あとは線の数。自分の絵だと、どうしても線を増やしてしまうんだけど、それだとアニメーターさんが、どの線を拾っていいのかわからなくなってしまう……。でも、まだこの時期はそれがわかっていなくて、勢いで描いていたんですけど。
――7~8年前ですからね。
窪之内:だから今後ですね、もし今後ご依頼があれば、もう少しアニメーターさんの気持ちに寄り添いながら、僕のテイストをきちんと残していけるようなことを考えようと、すごく思っています。
――それは楽しみです。確かに線の起点と線の数は重要ですね。
窪之内:ですよね。それに、みんな同じ実力ではないし、技術レベルに差があると、どうしてもその人なりの解釈になる。そこで僕が不確実なものを出してしまうと、違う伝言ゲームになってしまう。そのあたりはいろいろ経験して痛いほど学びました(苦笑)。
――キャラクターデザイン・総作画監督のあおきまほさんでしたが、やりとりはあったのでしょうか?
窪之内:いや、僕自身は本当に自由にやってほしかったので、特に何も言ってないです。彼女は、僕のツルモク時代の絵のタッチをすごく勉強してくれたそうで、なんだかありがたいなって思いました。でも、30年以上前なので、僕自身がもう忘れてるタッチなんですよ(笑)。だからデザインを見て、「うわ、懐かしい」ってなりました。
――自由にやってほしかったというのは、どういう意図でですか?
窪之内:アニメーターさんにこうしてほしい、ああしてほしいっていうのは言ってなくて、むしろ、その方自身の絵として描いてほしいと思ったんです。僕の絵をあまり意識しすぎずに、あくまでも元の素材というか、そのくらいのレベルで考えていただいて、自分の絵として描いていただいたほうが、作品として生き生きした絵になると思うんです。
変に僕が縛りとかルールを作ってしまうと、それがプレッシャーになって絵に出てしまう。それが一番良くないなって。これも学んだことです。僕自身がもっと絵描きの気持ちに立たなきゃいけないんです。実際に僕が描くわけではなく、アニメーターさんがメインで描くのだから、そこはすごく大事だと思います。
80年代テイストのSFラブコメ、こういう作品が増えてほしい
――先ほど、80年代のテイストが、くだらない形で作品に盛り込まれているのが好きという話がありましたが、あの頃の作品のどこに魅力を感じますか?
窪之内:僕自身リアルタイムで漫画を描いていた印象として、基本すれ違っているんですよね。それはなぜかっていうと、繋がるツール、例えば携帯電話のようなものがなかったからなんです。
――なかったですね。
窪之内:まったくなかったでしょ(笑)。今はスマホでどこに誰がいるかが、非常に即時性があって、いろんな調べ方ができるわけじゃないですか。でも昔はそれがないから、勘違いしたりすれ違ったりして、話が膨らんでいくプロットがやたらと多かった。
――それがすごく面白かったんですよね。
窪之内:僕が『ツルモク独身寮』を描いているとき、そういうプロットが結構多くて、そこのすれ違いというのが、お話作りのキモになっていた気がするんです。でも、今はまったくそれが通用しないので、ある意味80年代という時代特有のものになってしまったところはあります。
――待ち合わせも、時間と場所を完全に共有していなかったら、会えなかったですからね。
窪之内:そうなんですよ! 非常に限定されたコミュニケーションの取り方しかできなかった。たとえば昔だったら、ちょっと遠くに住んでいる彼女に電話したら、信じられないぐらいの100円玉が公衆電話に吸い込まれていったわけじゃないですか(笑)。震えながら100円玉入れるような感じだったのが、今はLINEで普通に海外にいる人とも話せる。すれ違いが通用しないんです。
――今は、いかにしてすれ違いを起こさせるか、みたいな戦いになりますよね。
窪之内:無理やりじゃないけど、ネット上でのすれ違いだったり、違う形でのすれ違いになってきている気がします。好きだけど、お互いがどうしても素直になれなかったり、違う誤解とか、種類の違う何かをすれ違わせるような感じになるんですよ。
――この作品で言うと、地球人と宇宙人というすれ違いはありますね。
窪之内:そこがすごく面白かったです。あのミボー人っていうネーミングが素晴らしかった! あれはちょっと笑いましたし、ちょっとだけジェラシー感じちゃいました(笑)。ワードで勘違いさせるっていうくだらなさ! 何だよミボー星って(笑)。でも、聞き間違いするには十分だし、そのバカバカしさというか、そういう、ちょっとしたことなんですけど、ワードのチョイスのくだらなさみたいなところは、良いなと思いました。
――そのくだらなさも、80年代後半~90年初期に通じるものがありました。
窪之内:たったそれだけで勘違いしてしまう、みたいなね。基本的に主人公が単純でバカなのがいいですね。
――そこに懐かしさを感じますね。
窪之内:それは意図的なんですよね。プロットを読んだ時点で、そこはすぐに理解したので。だから僕自身も、意識的に、80年代のアニメのような、雑多なキャラクターたちの雰囲気をデザインに落とし込むようにしていました。
――アニメがスタートしていますが、いかがですか?
窪之内:まず、オープニングで爆笑してしまいました(笑)。明らかに80年代のテイストですよね。あのオープニングで全部プレゼンしている。「こんな中身になってますよ」っていうのを表現しているOPだと思いました。
そういう意味で、今、ああいう感じのテイストって見なくなったじゃないですか。一見、ファニーなんだけど、だいたいがダークなものとか、シリアスなものとか、人の生き死にとか。結構ヘヴィな話が多い。それが個人的に窮屈なものに感じちゃうんです。
現実世界で生き死にのリアリティがないから、みんな虚構の世界に生き死にのリアリティを見つけようとする傾向があるなっていうのは、この10年、20年感じていることです。でも、現実世界の生き死にを見たほうがいいでしょうと思って。自分の身近な人がどうやって老いて、死んでいくかをちゃんと直視したほうがいいんじゃないかなって、僕なんかは思ってしまうです。
――『アストロノオト』はご飯を丁寧に描いたり、人間の日常を面白く描いている感じがいいですよね。みんながどこかで生きている感じがして。
窪之内:本当にそうで、どれだけくだらないことをやって笑っていられるかとか、しんどい時でも笑うことによってどれだけ明日に対して希望が持てるかだと思うんです。「笑う」ことって、希望に直結している価値あるもののはずなのに、それを忘れてきている感じもするんです。ただの息抜きだと思っている。
でも「笑い」に救われた人がたくさんいるわけで、そういう意味で、価値のあるくだらなさっていうのは、もっといろんな作品の中で提示してほしいです。そこでゲラゲラ笑って「ああ、くだらなかった。明日頑張ろう!」みたいなるのがいいじゃないですか(笑)。
もちろんくだらないだけじゃなくて、その中でちょっとだけテーマが見え隠れしていたりする。そんな作品が増えたらいいなって、個人的には思います(笑)。
――『アストロノオト』はくだらなさの中に、現代に対するテーマもある作品なので、まさにそのような作品ですね。
窪之内:うんうん。だからこういう緩急のある作品が、もっともっと増えてほしい。
――ちなみに、第6話では、声優にも挑戦したそうですが、いかがでしたか?
窪之内:一言、話しただけです(笑)。収録に監督陣も来ていただいて、会議室で収録しました。数パターン録ったと思いますが、こちらも好きなものを使ってくださいという感じでした(笑)。
――では最後に、ファンへメッセージをお願いします。
窪之内:僕の世代の人たちにとっては本当に懐かしさとくだらなさを楽しめる作品だと思うし、 若い世代の人たちにとっては、ちょっと新鮮なテイストに感じる部分があると思います。今の若い子たちって、昭和のあの理不尽な何かを逆に楽しんでいたりするじゃないですか(笑)。そういう今の流行りも考えると、いろんな人が楽しめる作品になっている気がします。大人たちが一生懸命くだらないことやってることを、「あぁ、くだらねえなぁ」って言って笑いながら見てください。
[文・塚越淳一]
作品概要
あらすじ
キャスト
(C)アストロノオト/アストロノオト製作委員会