『アクアリウムは踊らない』サウンドトラックレコード盤発売記念 制作者・橙々さん×音楽・真島こころさんスペシャル対談 | 数多くのプレイヤーを魅了した『アクおど』の音楽はどのように生まれたのか
ゲームで聞くと『アクおど』のために作った曲にしか聴こえなくなる
――『アクおど』は、BGMもヒットの要因の一つだと思うのですが、音楽面での反響というのはいかがでしたか?
真島:前編が公開された時からいろんなリプライやDMが来て、「すごく音楽が良かったです」ってメッセージをたくさんいただいたりしていました。完全版の時はそれがさらに大きくて、SNSのフォロワーさんもすごく増えましたし、私はオフラインの即売会とかにも参加しているんですが、『アクおど』のファンの方がCDをまとめ買いしてくださったり、反響はかなりありましたね。
橙々:私の方も反響がすごかったです! タイトル画面でも真島さんの楽曲を使用させていただいているんですけど、私が見た8~9割くらいの配信者の方が「このタイトル画面の曲最高だね」「自分の配信でも使いたい」と言ってくださっていて。「このBGMの曲名を教えてください」というメールも、もう返しきれないくらい届いていたんです。
実際、あの曲は私もとてもいいなと思っていて、聴いた瞬間に「(タイトル画面は)絶対この曲にする!」と思っていたくらい、思い入れのある曲だったんですね。それが自分以外の人にもしっかりと届いているのは、やっぱり真島さんの曲ってすごいんだなと、私が曲を作ったわけじゃないのに感動していました。
真島:本当ですか!? すごく嬉しいです、ありがとうございます……!
――ゲーム全体のBGMの中の、真島さんの曲の割合ってどれくらいなんでしょうか。
橙々:めちゃくちゃ多いですね。全体としては20曲くらいあって、今回レコードに入れさせていただいたのが10曲くらいあるので、ちょうど半分くらいを占めていると思います。
ゲームのBGMを決めるにあたって、ポケットサウンドさんはすごく利用させていただいているんですけど、その時の私は楽曲を提供してくださっている方々のことはあまり知識がなかったんです。なので曲だけを聴いて、いいと思ったのを片っ端からブックマークしていく……っていうやり方だったんですけど、気付いたら真島さんの曲ばっかりになっていた経緯があったのを今思い出しました(笑)。
――意図してやったわけではなく、純粋にいいと思った曲を選んでいったら、結果として真島さんの曲が多くなったという流れだったんですね。
橙々:そうなんです! 本当に、ピアノ系でちょっと綺麗でいい感じの雰囲気の曲を探してみたら全部真島さんで。なので最初はたまたまだったんですけど、最終的には「この人の曲がいい」と思って、『アクおど』専用の曲として購入もさせていただいたような形でした。
真島:ありがとうございます。私もプレイした時、まさかこんなにも使っていただいているとは思ってなかったのでびっくりしましたね。探索の曲とかも使っていただいて。
――ご自分の曲がゲーム内で流れるって、どういう感覚なんでしょうか。
真島:なんというか、自分の曲なのに自分の曲じゃないみたいな、不思議な感覚が結構ありますね。作品で使われるとその作品の一部になるので、曲単体の時とは全然聞こえ方が違うというか。本当にその作品の曲になる感じがあって。「ここで使われるんだ……!」みたいな、自分でも感動する時が結構あります。
実は、自分の曲が逆再生で使われていることには気づいてなくて、今回のサントラレコードの企画をいただいた時に、初めて自分の曲だったと知ったものもありました(笑)。
――サントラの曲の中でも、とびきりホラー色が強くて印象的な曲でした。逆再生は橙々さんのアイディアだったんですね。
橙々:そうですね。ここまで真島さんの曲をたくさん使わせていただいていたので、逆再生にしたら、そこからさらに逆再生して、実はめっちゃキレイな曲だったと気づくプレイヤーさんとかも出てきて、そっちでも話題になるかなと。実際に気づいた方もいて、作戦としては上手くいったかなと思っています。
――真島さんは本作を実際にプレイされて、どんな点が本作の魅力だと感じましたか?
真島:やっぱりストーリーがすごく面白いなと。物語の引き込み方が魅力的というか、とくに前編が終わったあたりからどんどん加速していって。途中からまったく予想がつかない展開が続くので、もう夢中でプレイしていました。私も趣味で物語を書いたりするんですけど、ストーリーの中にどんどん引き込まれるような感覚は本当にすごいなと。
――BGMとのシンクロみたいなのは感じましたか?
真島:BGMと台詞・文章もすごくマッチしているというか。私の作った曲は元々『アクおど』用じゃないんですけど、不思議と『アクおど』のためだけに作られたBGMとしてハマっているんですよね。曲は曲として作ったはずなんですけど、自分でも『アクおど』の曲にしか聞こえなくなったくらいです(笑)。
――具体的にBGMが印象的に使われていたと感じたシーンはありましたか?
真島:やっぱり私は列車のシーンですね。あそこからすごく物語が動き始めた印象があったのも合わさって、ストーリー展開的には結構切羽詰まっていたりもするんですけど、どこか穏やかな雰囲気みたいなのも感じられたというか。あのシーンの曲自体が自分でも気に入っているのもあって、プレイしてて「なんかこの曲いいな」と思ったりもしてました(笑)。
――自分もあそこは印象的でした。全体を通しての話でもありますが、前半はホラーが強めなんですけど、後半にかけては世界の仕組みが分かってくるので、雰囲気を楽しむ余裕みたいなのが出てきますよね。
真島:分かります。その頃になると「ついにあの子を助けられるんだ!」っていう想いや、結構終盤に差し掛かってきたっていう感覚もあって、ちょっとほっとするような気持ちになりますよね。それもあって列車のところはすごく好きなシーンです。
――橙々さんとしては、真島さんの曲の中でとくにお気に入りはありますか?
橙々:やっぱりタイトル画面の曲が一番のお気に入りです。あれが最初に見つけた真島さんの曲で、どこでもいいからゲームで使えそうな曲を探すかって思っていたところに、あの曲を聴いた瞬間「絶対この曲をタイトル画面で流そう!」って即決したくらいでしたから(笑)。プレイヤーの方々からの反響もあの曲が一番大きいですね。
真島:「夏、忘れてしまったものを拾いに」って曲なんですけど、「耐久版が欲しい」っていう声を結構いただいて、耐久版を作ってポケットサウンドさんの方で公開させていただいたりもしています。
――あの曲は聴いていてとても落ち着くので、作業用BGMとして聴きたいという気持ちはすごく分かります。ちなみに真島さんが、楽曲作りの上で影響を受けた音楽というのはあるのでしょうか?
真島:私はフリーゲームが好きだったので、フリーゲームの曲からの結構影響を受けています。『RPGツクール2000』で作られたゲームをよく遊んでいて、とくに印象深いのが『SELECTION』というタイトルでしたね。
あとは当時のフリーBGMは今みたいなMP3じゃなくて、MIDIっていう規格で、MIDIのフリー素材サイトをいろいろ巡ったりしていて。遠来未来さんとか、楽曲を提供されていたいろんな作家の方々から受けた影響が大きかったんじゃないかと思っています。
――アニメとか売っていたゲームじゃなく、やっぱりフリーゲームなんですね。
真島:そうですね。当時はサブスクもなくて、もう本当にラジオから流れてくる音楽をラジカセで録音していたくらいお金もなかったので、フリーゲームとネットの音楽を楽しんでいました。私にとってフリーゲームは神みたいな存在でしたね。