松本梨香さんが初のエッセイ『ラフ&ピース』で伝えたいこと――「一対一でおしゃべりするつもりで。ちょっと心が寂しいなと思った時にそばで寄り添える本になれば」
一対一で読んでくださる方に寄り添いたくて、全編しゃべり言葉で漢字も少なく
――文章を書いていく中で苦労されたことはありますか?
松本:言葉って、しゃべり言葉は文字にすると同じようなしゃべり出しになったり、くどく感じたりするんだなと。日本語は何通りもあるはずなのに、自分のボキャブラリーが少ないんじゃないかと思ったり、しゃべっている時は補足したり、語尾も上げたりしますが、そのニュアンスが活字にすると、空気感など果たして伝えられるのだろうかと。
あと自分の中でウソをつかないと決めていたけど、どう書いたら伝わるんだろうとか、文字に起こしたらどう感じられるのだろうかとか、いろいろ考えました。
――この本の文章は、全体的に口語体、しゃべり口調になっていますね。
松本:本は、書いている私と読んで下さる方との一対一なので、読者の方に話すつもりで。
――読んでいる時は喫茶店などで松本さんと二人で、お話を聞いているような感覚だったので、300ページ近くある本なのに、最後まで楽しく読めました。
松本:素晴らしい! 自画自賛したわけではなく(笑)。読んでくださる方に寄り添いたいという気持ちで書いたので、その気持ちが届いたんだなと思って嬉しかったんです。あと伝えたい言葉は大きい文字にしてもらえて。でもその文字をピックアップしてくれたのは編集の皆さんですが、私が普段言っていることをそのまま書いているので、最初から順に読まずに大きい文字のところを見つけて、そこから読んでもらっても大丈夫なので、本や活字が苦手な方でも読んでいただけると思います。
あとみんなと話し合って決めたのは、子供たちにも読んでもらいたいと思ったので、漢字も少ないし、難しい言葉も使わないようにかみ砕くように書いています。私がひらがなが大好きなこともあって、ひらがなが一番きれいだと思っているので、漢字は好きじゃないです。嫌なカンジということで(笑)。
――確かに本を読んでいる時、エッセイで読み言葉だったとしても漢字が多いと、本の世界から急に現実に引き戻されてしまうこともありますから。
松本:今、名詞言葉をよく使うじゃないですか? 例えば電車が遅れた時に「遅延」と言ったりするけど、音の響きで理解できないことも多いし、やっぱり動詞のほうが手っ取り早く伝わる気がして。
どんなことも松本梨香を形成するピースだと思って、包み隠さず
――松本さんの幼少期から現在までの道のりを書かれていますが、嬉しかったことだけではなく、悲しかったことも松本梨香という人を形成する上で何一つ欠かせないものだったんだと思えました。
松本:だから、どんな出来事も人生にとって、かけがえのないピースであると本の中でも書きました。
――ご家族のことや辛かったなども包み隠さずに、赤裸々に書かれていることにも驚きました。
松本:これは書こうか、書くのをやめようかと迷ったことは一つもありませんでした。それよりも書きたかったけど抜けているところがあったことが心残りで。たぶん完成版を作ろうとしたら3冊分くらい書けちゃいます。でも編集の方から「(自叙伝を書くって)そういうものですよ」と言われて。これで松本梨香を語り尽くすのではなく、あくまで名刺代わりの1冊で、私を知らなかった方にも興味を持ってもらえたり、「松本梨香ってこんな人なんだな」と漠然と伝わればいいんですよと。そういう面では素晴らしく、濃い1冊ができたんじゃないかなと思っています。
――この本だけで松本さんとの繋がりが終わるわけでもなく、「もうちょっと松本さんのことを知りたいな」と思わせたり、今後も新たな良さを見つける楽しみがあるのもいいなと思いました。あとこの本では、学生に教えていたことなども書かれていて、声優や歌手、役者などエンタメに関わることを目指している方、更に今人生で悩んでいる方にもオススメですね。初めてマイク前に立った時に先輩方にかけてもらったこと、舞台に立つことの責任など学びが多かったです。
松本:そういう部分もたくさん載せたかったんですよね。大衆演劇の座長だった父親から学んだことや声優の先輩から学んだこと、『ポケットモンスター』との出会いなど、伝えたい大切なことを活字にして残したいという気持ちから始まった本なので。それらを自分のエピソードと一緒にのせることで、みんなもリアルに感じてもらえるし、伝わるのかなと。
――今は声優業界だけでなく、ベテランや先輩と飲んだり、演技論や仕事の仕方を語り合うなど、直接教わることも少なくなったので、それを疑似体験できるのもいいですね。
松本:ありがとうございます。
――本の中には、元気になれたり、目から鱗が落ちるような金言も多かったので、「1日1梨香」カレンダーも作れるのでは?
松本:それは私もずっと言ってました(笑)。
(編集の方を見ながら)この本を連ドラにしてくださいよ! あとこの前、海外案件を担当しているブラジル二世の友達がいるんですけど、この本をあげたら「英語版を出したい」と言ってました。先日、この本のサイン会をやらせていただきましたが、海外の方も来てくださって。「読めるの?」って尋ねたら、「読めないけど、あなたが好きだから」と言ってました(笑)。
――クールJAPAN広報大使副会長を務められていますが、海外では、松本さんが歌っているアニソンを、日本語そのままで歌う人も多いので、ファンの方は読むために日本語を勉強するかもしれませんね。
松本:そうなったらいいですね。日本の方だけでなく、世界中の方に読んでいただき、想いが伝わればいいなと思っています。
松本さんのエネルギッシュな原動力は「求めてくれる人がいること」。そして周りの人への想いからスタート
――松本さんは声優、舞台、歌、DJのほか、「まんまるプロジェクト」というボランティア活動も立ち上げたり、幅広く活躍されていますが、その原動力とは?
松本:自分が何かを表現したり、発信した時に、喜んでくれる人がいるという信頼関係を元にやらせてもらえていることだと思います。自分がやりたいからやるのではなく、もし求められていなければ、たぶんもう辞めていますから。今回も私の本を読みたいと宝島社の方が言ってくださったから作れたし、身近な人からも「梨香さんの本を読みたい」と思ってくれたから作れたわけで、私がただ「本にして残したいな。そして読んでくれた人がその想いを繋げてくれたらいいな」と思っても、読んでくれる人がいなければ実現できませんから。
何かをする時に最後に考えるのは周りの人のことで。以前、『ゆめらっちょ!』という絵本を作ったのも、子育てが忙しい友達が、自分がやりたいことをできないことを子供のせいにしてしまうという話を聞いた時に「私が代わりに子供の面倒をみるよ」って。でも私がその場に行けないから「絵本を作っちゃおう」と思ったのが始まりで、ナレーションも私が入れて。それを子供が聴いている時間に友達も他のことをできるし。それから他の人からも『ゆめらっちょ!』が役立っていると言ってもらえて、やってよかったなと思いました。
――確かに表現する仕事はどれも求められるからできることですね。
松本:私が生きている間に少しでも役に立ちたいという気持ちが強くて。そのために自分をフル活用したいし、自分ができるのはエンタメにまつわることで、一番得意なことですから。だから神様にお願いしているんです。「子供たちを笑顔にしたいとか勇気づけたいと思った時は私を使ってください」って。それが神様にきっと伝わっているから、いろいろなお話が私の元に届いていて、自分が試されている気がして、自分ができる限りやろうと思いながらいつも全力で取り組んでいます。
今後も「みんなの強力ビタミン剤になりたい」。心寂しい時はこの本をあなたのおそばに
――これまでも松本さんが発信するいろいろなものから元気やパワーをもらっていましたが、そこにこの本がまた一つ加わったということでしょうね。
松本:そうですね。みんなの強力ビタミン剤になりたいというのが私の目標なので。でもこの本はみんなを元気づけようと思って書いていたわけでなく、「松本梨香ってこんなことを思っているよ」ということを書いただけで、それが結果としてみんなの役に少しでも立てたらいいなって。私が同じことを話したとしてもその時の気持ちや環境によって変わってしまうけど、活字にして残しておけばブレることはないし、この本を読むことで、その人の今の心が鏡に映って見えるんじゃないかなとも思っています。
――この本の海外版への期待のお話もありましたが、松本さん自身がこの本を語ったオーディオブックも聞いてみたいと思いました。
松本:それもおもしろいかもしれませんね。より近くに感じてもらえるだけではなく、目が見えない方のためにもできたらいいですね。それとやっぱり朝ドラ化を。
――連続テレビ小説『りかちゃん』とか(笑)。
松本:いや『ラフ&ピース』のままでいいです(笑)
――では皆さんにメッセージをお願いします。
松本:家にいて、ちょっと心が寂しいなと思ったりした時に、この本があなたのそばにあるという風に寄り添えたらいいなと思っています。時間が空いた時などあっという間に読めるので、ぜひ手に取って読んでもらえたら嬉しいです。
松本梨香『ラフ&ピース』
2024年4月19日発売
288ページ 1,980円(税込)
NFT版 音声特典付き 2,530円(税込)
発売:宝島社